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短編:【タイムトラベル】

「長く生きていると気づくことがあるんです」
ゆっくり語る男性。

「アナタ方の世代にも理解しやすいように話します。例えば、ブログなどをやられている方はいらっしゃいますか?」
セミナーを聞いている数名が挙手する。

「なかでも5年10年と、…長く続けている方?」
先程よりグッと減り数名が手をあげる。

「実はそのブログというメディアは、ある一種の『タイムトラベル装置』なんです…どうでしょう…そう感じたことはありませんか?」

セミナーの若者は真剣に聞いている。
「…まず何年も何十年も記事を投稿していたとしましょう。そして10年以上前の投稿を、ちょっと手直ししたい、書き換えたいな、と思う」

スライド『過去は変えられない?』

「ブログなら過去の投稿を変更できますよね。もっと言えば、10年前に書いた記事に、昨日アップした最新の投稿をリンクすることだって可能です」
後ろのスクリーンで実演。
「昔の投稿を、“未来人”の我々が手を加える」

セミナーの若者は眉間にシワを寄せている。
「未来で変更した時点で、実は、その記事自体、過去の投稿そのものも、辻褄を合わせるように変わってしまう。最初にアップした状態がです。そしてそれを、“過去人”は見ている…」
エッと驚く人々。
「考えたことはありませんか?30年前に描かれた漫画に現在最新の家電製品が描かれていたり、50年前の小説に今の暮らしが詳細に書かれているなど…明らかに不自然で不条理な一致…」

頷き始める参加者。
「つまり、自分の過去を紡ぎ直すことがタイムトラベルの仕組みのひとつなんです!その人物に影響を受けた人が、さらに昔の自分に会いに行く。この繰り返しによってあり得ない情報を手にしている…」

スクリーンに過去戻りを繰り返す図。
「テレビ電話、空飛ぶ車、超高層ビル…はるか昔に書かれたブログ記事を未来人である我々が手直しをして、最新情報を記した投稿のリンクを貼り付ける。それを過去の人々は当時に書かれたブログとして、リアルタイムで読むことが出来る…」

スライド『過去は修正できる!』

「修正した投稿が出た瞬間に、大なり小なり、未来は変化しています。しかしながら、それはワンクリックをしている、わずか1秒にも満たない時間で調整されます。…ではなぜそんな瞬殺で処理ができるのか。…それは現在のあなた達よりも、“遥かはるか未来の私たち”が、そのように修正できるシステムを開発し、その処理能力は今の比ではない!」

スライド『日本が世界に誇るスーパーコンピュータ』

「世界一と呼ばれる、スーパーコンピュータの処理能力。未来では、それはパーソナルコンピュータ、またはスマホが数段進化したデバイスに搭載されている…」

「教授は、なぜそんな事実をご存知なんですか?」
セミナーの生徒が質問をする。
「簡単なことです。私が“その遥かはるか未来”から派遣された存在だからです」
ざわめく会場。
「未来の情報を過去に植え付けることで理想の方向へ誘導する。少しずつ真実に向かわせる。それが我々、未来人の願いだからです」
「教授、それはなんのためですか?」

「未来には、人類はいまの、この時代の1/6程度しかいない。圧倒的に人手が足りないのです。だから過去の人々の手を借りる…」
「だから都合の良いように導いている?」
「そうです」
「なぜ私たちは過去の記事が変わっていることに気づかないのでしょう?」
「皆さんはまだタイムトラベルできません。つまり過去の記憶が微妙にすり替わっても、または修正された投稿を見たとしても、もともとそうだったと認識しています。簡単に言えば、自動時刻修正の機能と同じです。世界中が僅かにズレて調整されたところで、大して困らない…」
「あの…文字情報や写真を載せて過去に届けることはわかりますが、教授、ご自身の肉体はどのように送られているのですか?」

核心である。未来ではタイムトラベルができるのだろうか。

「肉体は、届けられません」
一層ざわつく会場。
「私はホログラムです」

人間自体はタイムトラベルできない。
情報だけが操作され、未来人に洗脳されている。
それが教授の…

「教授…教授?…あなたは…どなたですか?」
教授のホログラムが微笑む。
「どうやら情報細胞の効能が解かれた方がいるらしい…」
「…情報細胞」
「究極のデジタル信号、視覚、聴覚、嗅覚を刺激する情報細胞。これを、アクセスする時代に届け洗脳。私があなた達の教授として存在していたという架空の情報を植え付ける。私は遥か未来の狭い時空空間に入り、ホログラム用の情報をこの時代に送り、いまに至ります」

視覚的にデザインされたデジタルノイズと、謎のニオイ、聞いたことの無いリズムが聞こえる。セミナー参加者がトランス状態になる。
「うむ、再度洗脳が終わったところで…。さ!未来人のために、しっかり時代を繋いでくれますかな?」
「教授。具体的に我々は何を?」

再び微笑む教授。
「若い世代の皆さまには大きな愛で、人類減少、回復のためにも、…子作りを頑張って頂きたい!」

「え…結局、アナログなんですか…」

     「つづく」 作:スエナガ

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