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短編:【仲睦まじく】

「ちょっと惜しかったね」
リビングで妻と息子が本日のミニテスト結果を見ている。
「どうしたの?」
帰宅した夫も会話に参加。
「これね、“なかむつまじい”を漢字に…って」
「ああ、結婚式のスピーチでも使うよね、“末永く仲睦まじくお過ごしください”って」
「僕、陸上クラブだから…」
「仲“陸”まじい。って睦を陸って書いちゃって…」
「クラブのみんなと仲良く、陸みたいな字って覚えたからさ…」
息子は少し悔しそうだ。

「睦まじいってさ、“親しい”より深い関係なんだってよ、意味的には」
「そうなの?」
「家族とか親族とかに使うから、結婚式では家族になったのだから仲良くね、っておべんちゃらなんだって」
「へぇ〜知らなかった!」
「なんかすごいね」
漢字や雑学に多少自信のある夫は雄弁である。
「陸上部の仲間とは仲睦まじい、ではなく、仲が良い、親しい仲が正しい。睦は“めへん”。陸は“こざとへん”。“こざとい”は利口ぶってずる賢く抜け目がないこと。陸上クラブだって仲間だけどライバルだろ?ほらこれでちゃんと覚えた!」
「パパって案外博識だよね…」
妻は知識を自慢気にひけらかす夫を呆れたように見る。

「あとさ、オシドリ夫婦ってあるじゃない?」
夫にエンジンがかかる。
「芸能人同士夫婦で良く聞くよね」
「実はオシドリって、繁殖期には一緒にいるんだけど、それ以外は結構別々らしくてさ、翌年とかは違う夫婦で子作りするらしいんだよね」
「なにそれ?」
「ひどいね〜」
口数の多い人間は、余計な一言も非常に多い。
「いやアナタその情報、子どもに聞かせる必要、無くない?」
「芸能界だって、不倫や浮気で、あのオシドリ夫婦が何故!って言うけど、実際はちゃんとオシドリ夫婦を演じる仮面夫婦だって話だ」
「面白いけど…」

「仲睦まじいオシドリ夫婦が、本当は仮面夫婦ということもある!これ試験で出るから覚えておくように!」
「いや出ないでしょ!」
仲睦まじい家族であった。

     「つづく」 作:スエナガ

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