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短編:【知らないとこから、こんにちは】

「今日さ、SNSに知らない外国の人からコメントが来たのね…」
「どんな?」
「この写真、素敵ですね、どこで撮影したんですか?って」
女性3人でフレンチを楽しんでいる。
「あ〜、デタ〜たまにあるよね〜」
「やっぱたまにある?」
「この猫ちゃん、可愛いですね、何歳ですか〜とか」
「あるある!欧米の人とか!」
「え〜私はアジア圏の人だったよ〜」
届いたマルゲリータを裂きながら皿に取り続ける。

「やっぱりあれって、何かの詐欺なのかな?」
「ロマンス詐欺的な?男性からなら疑っちゃうよね〜」
「なになに、そのロマンス詐欺って!」
国際ロマンス詐欺、国際恋愛詐欺などとも呼ばれる特殊詐欺は、仲良くなって恋人や結婚相手になったように振る舞い、金銭を送金させるなど言葉巧みな騙しである。代表的なナイジェリアの手紙と呼ばれる詐欺は、先進国の豊かな国家を狙うなど広がりをみせた。

「ああいう海外からのコメントってどうしてる?」
「ん?どうしてるって?」
「え、ほら、返事とか…」
「書かない!出さない!怖いじゃん!」
「でもさ今って、人のSNSで情報集める時代でしょ?どこそこのラーメン屋が美味しいとか、あそこの宿がオススメとか…」
「あるね。相手が外国の人じゃなかったとしても、気にはなるよね」
「ダメダメ!そんなの返信したらカモられちゃうって!」
「サギにカモられるって、どっちやねん!…アオサギさんからお手紙ついた〜」
ほどよく酔いが回っている。

「でも本当にどこの景色か知りたくて、観光に来た時に撮りたいだけかも…?」
「ダメだって!ほら最近もどこそこのコンビニでバックに富士山が見えて、町が迷惑してるってあったでしょ!」
「不思議だよね、写真見て、同じ写真撮りたいって感覚…」
「実際に見ないと気が済まないのかね?人と違う写真を撮りたいって、他人のSNSの真似してるだけなのに…」
追加で赤ワインのデキャンタを注文する。

「そもそも知らない人からコメントが来るって、SNSなんて自己満足でしょ?」
「承認欲求?まあ、昔風に言うと、リア充を見てもらいたい的な?」
「いまはリア充の写真もリアルタイムに載せちゃダメって言うじゃん!」
「え、なんで?」
「いまウチは留守ですナウ!って言ってるようなものだから」
「あ〜よくタレントさんが言うやつだ!生放送中に空き巣に入られたとか!」
「空き巣…最近、“泥棒”って聞かなくなったね…」
「知ってる、泥棒の語源」
「泥棒…ドロボウ…」
「昔は顔にドロ塗って押し入ったからなんだって!」
「いつの時代の話よ〜、ネズミ小僧だって頬被りで顔隠すじゃない!」
「いまは目出し帽だけどね…」
「あ!めざし帽だと思ってた!そっか目を出してるから目出し帽か!」
「めざし帽って…」
「あの帽子って犯罪以外で使う機会あるのかな?」
「あるんじゃない?極寒の地での作業とか…」
「コントなんかでもね!」
「それ犯罪コントでしょ?」
「そうじゃなくって…SNSの知らない人からコメント問題!」
一度落ち着いてワインを口につける。
「そもそもさ、私を騙してどうするの?って感じじゃない!」
「そうそう騙したって、私にはお金なんてありません!って思っちゃう…」
追加でピクルスをもらう。
「いまはさ、スマホの番号だけでもショートメール送れちゃうでしょ!間違いを装って連絡を取らせて、でもお金が取れたって数千円とか数万円とか…」
「言い方悪いけど、割の合わないビジネスだよね」
おかわりしたデキャンタがもう無くなる。
「もうちょっと飲める?」
「明日お休み〜」
「電車まだ大丈夫でしょ?」

デキャンタが来る。
「あ、お店に入った時に上げたSNSにイイネ付いてる。コメントもある!男性から!」
「え、この店SNSで上げたの?」
「こんにちは、美味しそうですね。どこのお店ですか?」
「ダメよ!返信したら!」
「しないよ〜」
「え、私たち一緒にいるって名前出でるし、場所もピン留めされてるし!」
「リア充、リア充!」

知らない人の『こんにちは』…ドキドキしながら楽しみましょう。

     「つづく」 作:スエナガ

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