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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年8月の記事一覧

短編:【壮大すぎてわかんねぇ】

「映画…凄かったねー」 先週末に誘ってやっとのことで2人劇場で鑑賞した後、彼女が言った。 「ん〜、うん…」 正直、僕には凄いと言うより… 「面白くなかった?」 「そんなこと無いよ!そんなこと無い…けど」 「けど?」 ついて行けなかった。 「え?」 「凄すぎて…わかんなかった」 彼女の顔は見られなかった。きっと信じられないと責めるような表情をしていることだろう… 「これまでのシリーズは観て来たでしょ?」 確かに予習はして来ました。 「ストーリーは解る!」 「待望の最新作だも

短編:【見た目好感度】

「見た目年齢」があるのなら、私は「見た目好感度」は高いようです。風貌が良いとかではなく、とくに外国の方に良く声をかけられます。いえいえ、私は英語を始め、諸外国の言葉は喋れません。ただ昔から韓国を始め海外映画も好きで、中国の友達に悪い噂をされないように言葉を理解する訓練と、まあ元々海外に行くお仕事も多かったこともあり、声をかける外国の方が見たら、臆すること無く堂々としていて何だか対応してくれそうに思えるのかも知れません。 そして観光地の近所に住んでいて、ウロウロしていることも多

短編:【金網ごしの別世界】

一年で最も陽の長い季節。もう7時を回っているのに夕焼けが空を赤く染めていた。 片手にアルコール度数高めのロング缶チューハイを持って、飲みながら帰宅途中。ナイター設備のあるグランドから大きな声が聞こえて来る。仲間と野球練習をしており、笑いながら全員服装もラフな感じだった。 「チッ、なんで平日のこんな時間からフラフラ遊んでるんだよ!」 中の選手には聞こえない声で毒づく。 散々な一日だった。小さなミスをグチグチとグチグチとしつこく追求してくるお客対応が終わると、そのミスについて

【ご褒美アイス】

今回の案件は自画自賛する訳ではないけれど、思っていたよりも上手に進められたと思う。会社に入って2年。先輩方に言われるより早く対応しお客様の信頼も高まっている。 「ということで…」 会社の帰り道、コンビニのアイスコーナーと対峙している。 「ご褒美だもの!」 いつ以来だろうか…すっかり忘れてしまったが、私にとっては高価でちょっぴり贅沢なカップアイス。その何味を買おうかと先程から悩んでいた。 いわゆる「ご褒美アイス」だ。 「せっかくだから…」 2種類買うことにした。1個は「安定

短編:【暴走する妄想】

『本日この地域で、  詐欺電話が多くかかっています。  十分気をつけてください』 巡回中のパトカーから流れるアナウンスに耳を疑った。初めて聞いた注意喚起。いよいよそこまで近づいて来た切迫感。 「マジか…」 信じられないが本当なのだろう。これまでのアナウンスは 『息子や警察官、銀行員を装い、キャッシュカードを預かるといった詐欺が増えています。注意しましょう…』 という一般的な内容が多かった。今回は「本日」という限定的な時間と「この地域」といった場所まで伝えている。もし、本当に

短編:【そのまんま、ねこまんま】

たとえそれがそうだとしても、まあ仕方ないと思うことがある。 人も猫も歳を重ね、流石に今年のこの暑さは耐え難い毎日。耐え難きを耐え忍び難きを忍んで来た近年、贅沢は敵と頑張って来たもののいよいよ猫様の食欲も減って来た。 いつものご飯に少しだけ変化を加える。いわゆる味変。「花カツオ」と言う、犬猫専用の鰹節(減塩)を買ってみた。少しだけお水に浸した生食の餌を混ぜて、花カツオの削節をサッとかける。すぐに分かるカツオ節の柔らかい香。するとどうだろう。猫まっしぐらで喰らい付き離れない。

短編:【2023 夏】

暑中お見舞い申し上げます。 2023年、今年の夏は暑い日々が続いています。 毎年毎年、暑いだの雨が多いだの、梅雨が無いだのと様々な感想や世相がありますが、きっと秋になったら忘れてしまうのでしょうね。 あれから日本国内も、私個人的にも、様々なことがあり、日々色々なことを考えながら生活しております。 十年、十五年、本当に一気に変わったかも知れません。 大きな地震が来たり、全世界を一変させるウイルスが蔓延して、いまだにこの暑い中、マスクをしてる方がいるような感じです。 プライベ

【街で見かけた看板で】#07

「いま“求められる広告”ってなんだと思います?」 競合のプレゼン中。クライアントの会議室で企画案の説明をするクリエイティブディレクター。 「近年実は、“広告に見えない広告”が多いと感じませんか?」 「広告に見えない広告?」 「ステルスマーケティングに代表されるネット世界でぼーっと見ていると実は広告だったみたいな」 「ああ、ありますね。個人が投稿したSNSのように見えて、それが広告だったとか…」 「例えばです。狙いではないにせよ、“読めそうで読めない立て看板”ってあるじゃない

短編:【薔薇は赤いと誰が決めた?】

また一社、不正が見つかり騒ぎとなった。氷山の一角?ほんの一握り?何を言っている!今の世界の常識だろう。 『営業マニュアルを直ちに回収してください』 組織ぐるみの犯罪か、一部社員の反乱か。いまの時代、ほぼ会社ぐるみで間違いない。そもそも会社組織は損することはしない。沈黙をしてしばらく経ったら違う名前で活動を再開する。それがいまの世の中。 「AIの指示通りにやりました」 面会室の若者が、女性弁護人に語る。 「生成的人工知能…それに何と聞いたのですか?」 若者は何も語らない。