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短編:【暴走する妄想】

『本日この地域で、
 詐欺電話が多くかかっています。
 十分気をつけてください』

巡回中のパトカーから流れるアナウンスに耳を疑った。初めて聞いた注意喚起。いよいよそこまで近づいて来た切迫感。
「マジか…」
信じられないが本当なのだろう。これまでのアナウンスは
『息子や警察官、銀行員を装い、キャッシュカードを預かるといった詐欺が増えています。注意しましょう…』
という一般的な内容が多かった。今回は「本日」という限定的な時間と「この地域」といった場所まで伝えている。もし、本当にこの地域ならば、その受け子や押し入っている実行部隊には効果的な抑止力だと思うし、「詐欺電話が多くかかっている」という事実を警察をはじめ役所が把握しているという根拠があるとすれば凄いことだと思わせた。

昨今の集団詐欺事件は、隣接する区や、近隣の駅周辺でもニュースに上がっている。それが「地域」を決めて実行しているのだとしたら、本当に怖いことだと思わせた。同じ街で同時多発的に詐欺を行っているのだろうか?
まさかとは思うが、一度に、一日で何件もハシゴをして犯罪を行う集団がいるというのか。確かに一時間ずつズラして3件も発生したとすれば、1件目の発覚直後に逃げ延びることは出来るかも知れない。しかし人間が一度に何回も罪を犯す精神を持っているとは信じたくはない。放火犯やコンビニ強盗は一度に二箇所三箇所と連続で行うことがあるらしい。単独犯ならば感情の起伏で行ってしまうというのだろうか。

『本日この地域で、
 詐欺電話が多くかかっています。
 十分気をつけてください』

ゆっくり走るパトカー。聞けば聞くほど怖い…。

…待てよ?
このアナウンス。本当に巡回中のパトカーからのメッセージなのだろうか?私は部屋の外を見て、パトカーを確認したワケではない。もしこれが、新手の劇場型詐欺だったとしたらば、どうだろう?

ピンポーン。
「ご苦労さまです!」
玄関前にはスーツ姿の男がひとり。
「あの何か…」
「私、こういう者です」
スマホに映し出される警察手帳のデータ。
「手帳じゃないんですか?」
「昨今はこうやって個人の身分が盗まれないように、各々のスマホに入っております」
「そうなんですね…」
「また周辺の目がありますので、こうやってスーツでお伺いしておりますが、間違いなく警察の者でございます」
「はあ…」
「さきほど巡回中のパトカーでもお知らせした通り、本日、この地域で、詐欺電話が多くかかっております!」
「そうなんですね…あの…どういった詐欺の…」
「一人暮らしの高齢者宅を狙った犯行のようです。失礼ですが、こちらのお宅はおひとりで?」
「ええ日中は、家族も働きに出ておりますので」
「なるほど、ご家族は何時頃にお戻りに?」
「普段は7時とか遅いと8時とか…」
「そうですか。ちなみに日中お買い物などには?」
「ええ、行きますよ…」
「お支払いはキャッシュレス、現金どちらですか?」
「ウチは何とかペイみたいなのよくわからないから…現金ですね…」
「現金…お宅の中で大金などは置いていませんよね?」
「まあ…そうですけど…今どきは銀行に預けても、利息が期待できないでしょ…どうしてもタンス貯金になってしまいますかね…」
「危ない!参考までにどういった所に隠されていますか?」
「隠すも何もお財布に…」
家の奥から電話が鳴る。
「あ、どうぞお電話に出てください…」

『本日この地域で、
 詐欺電話が多くかかっています。
 十分気をつけてください』

実際に行われている詐欺集団の手口として、情報バラエティで面白おかしく紹介される手口。警察手帳等の身分書をスマホにすることはない。また私服警察官がひとりで訪ねて来ることはないそうだ。ターゲットとなるお宅の情報はすでに把握済みで、巧みに誘導する。

このアナウンスのパトカーは、あの日以降、私は出会っていない。もしかしたら…

     「つづく」 作:スエナガ

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