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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年4月の記事一覧

短編:【テコ入れ】

これまでパンドラの箱として、遅々として進まなかった選挙という儀式が大きく変わったのは2026年秋のことだった。その変化を印象付けたのが、ポスター掲示と選挙カーの在り方に関しての大幅リニューアルという部分だった。 各所に現れる、あの無駄に大きな掲示板が姿を消し、代わり“江戸時代風”の小さな立て看板が姿を現した。“高札(こうさつ)”という禁令やお尋ね者などを町中に知らしめるため使われたあの小さな看板と言えば解るだろうか。コスト削減、設置場所の縮小、すべての問題を一手に解消したの

短編:【子供も投票所に入れるようになった】

私がまだ幼い頃、不定期で現れる、選挙ポスター掲示の大きな立て看板の存在が何か怖い印象があった。沢山の数字が書いていたかと思うと、ある日から貼り付いたような気持ちの悪い笑顔の顔ばかりの写真が貼り出され、掲示板に対峙した真顔の大人達がそこに書かれた呪文のような文字を疑心暗鬼で睨んでたからだ。夜まで何か大きな声で叫びながら、その反響するいくつもの声が街中に反響し響き渡り、何かの儀式、見えないドス黒い感情渦巻く時季に現れる大人だけの世界… 大人になったいまとなれば、それは大規模選挙

短編:【季節の移り変わり】

「もう桜の季節も終わっちゃったね」 「毎年思うけど、この3月4月って本当に早いよね」 「去年の今頃、何していたか覚えてる?」 彼女と付き合って、もうすぐ3年。始まりは友達の紹介…というか飲みに行った居酒屋に彼女がいた。一目惚れというほど、センセーショナルな出会いではなく、なんとなく、ヌルっとした始まりだった。 「去年ね…マスクしていた記憶しかないな…」 「外出制限とかね…」 「そっか…初めて会った時は、アクリル越しだったんだね」 「なんかアクリル越しって言い方、留置場の面会み

【街で見かけた看板で】#04(番外編)

「あのさ、これ見てよ!」 講義の合間、友人が楽しそうに話しかけて来た。スマホに表示された写真。 「面白い貼り紙があったんだよね…」 「何?月5万円…寝るだけの方…これマンションの部屋貸します的な広告でしょ?」 「それがね、調べてみたらさ…」 細い路地を曲がってすぐの電柱の、目の高さくらい、無造作に貼られたその小さな紙に違和感を覚えた…そう言って説明を始める。 「これね、寝るだけのカタ、では無くて、寝るだけのホウって事らしい」 「寝るだけのホウ?」 「ほら、裏バイトとか闇サイ

短編:【春の訪れ、そんな今日此頃…】

「ママ、見て?」 「な〜に、あ…つくし?」 「これ、キノコ?」 娘は見たことがなかったようだ。 「キノコ…じゃないかな?これはね、つくし。春になると土から生えて来るんだよ。でもなんか久しぶりに見たかも…」 「つくしは食べられる?」 「食べる?ん〜どうだろう。昔は食べていたみたいだけど…ママは食べたことないかな〜」 確かに時代と共に変化している環境。食生活も大きく変わっている。かつてイナゴを佃煮にして食していたが、時代と共に見なくなり、しかし近年では昆虫食なる新たな文化が出てい

短編:【何ひとつあきらめない】

「1つだけ願いが叶うとしたら、何をお願いする?」 「なになに?どうした?」 喫茶店。向き合う男女。突然彼女が出したお題。 「いやほら、よくあるじゃない。神様が現れて1つだけ願いを叶える的な…」 「まあ漫画とか小説とか映画とかね…1つだけ…それは死の間際で短い時間なのかな?」 「時間って関係ある?」 「そりゃあ重要でしょう?死を悟っていたら、永遠の命を願うかも知れないし…もうすぐ死んでしまうのなら、巨額の富を手に入れても使い切れないかも知れないし…」 「そうね…そしたら、いま、

【街で見かけた看板で】#03

「ほら上級生のお兄さんと手をつないで!」 そんな些細な道徳がいとも簡単に覆ってしまった時代。 「ダメなんだよ。ウイルスが移るかも知れないから、直接触れたらダメなんだよ!」 君のことが大事だから、手をつながない。 初めてのデート。どのタイミングで彼女と手をつなぐかとドキドキしていたあの頃。映画館、座席の間でシェアするポップコーンも、劇場での飲食規制。とにかく人間らしさが損なわれてしまった。 実はここ4年の出来事なのではないのかも知れない。 汗の染み付いた剣道の防具、まわ