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【街で見かけた看板で】#04(番外編)

「あのさ、これ見てよ!」
講義の合間、友人が楽しそうに話しかけて来た。スマホに表示された写真。
「面白い貼り紙があったんだよね…」
「何?月5万円…寝るだけの方…これマンションの部屋貸します的な広告でしょ?」
「それがね、調べてみたらさ…」

細い路地を曲がってすぐの電柱の、目の高さくらい、無造作に貼られたその小さな紙に違和感を覚えた…そう言って説明を始める。
「これね、寝るだけのカタ、では無くて、寝るだけのホウって事らしい」
「寝るだけのホウ?」
「ほら、裏バイトとか闇サイトとかあるでしょ?」
「なに犯罪がらみ?」
「サブスクみたいな感じで、月に5万円もらえてさ…」
「どういうこと?」
「寝るだけのほうは、月5万円もらえるらしいんだよ!」
「え?ってことは、寝るだけではない方がいるってこと?」
「調べたらさ、寝るだけ仕事があるらしいんだよ!」
「寝るだけって!?え、風俗的なこと?」
「いや、ただ寝るだけなんだって」
「何?どういうこと?」
「人恋しい夜とかあるでしょ?」
「まあ少なからず…」
「連絡入れて、ただ一緒に添い寝してくれるらしい」
「マジか!?」
「ただ寝るだけの方…」
「それで月5万もらえるってこと!?」
「1月1回の場合もあるだろうし、30日ずっともあるかも知れないけれど、必ず5万もらえる仕事…」
「でも本当に添い寝だけなのかな?寝るっと言っても…」
「だから、こうやってひっそりと広告出してるんだって…」
「よくみつけたな…コレ…」
「1枚だけだったのか…たくさんあって、最後の1枚だったのか…」
「寝るだけの方…うわ〜スッゴク興味あるんだけど…」
「良く見るとわかるんだけど…ほら…」
「ケータイ番号が書いてある!」
「直接契約なんだよね」
「え、これでも、男性女性とか年齢とか何も制限がないのかな?俺でもできるのかな?」
「電話してみる?」
「いやいやいやいや、無理でしょ!?怖すぎでしょ?」
「こうやって募集してるんだよね…凄くない?」

スマホ画面を指で大きく引き伸ばしながらつぶやく。
「これ違法だよね?」
「風営法的観点?」
「消費者基本法。知ってた?広告規制表示法なんて法律無いんだよね」
「なにそれ?どういうこと?」
「いまってネットに溢れている違法広告を規制する法律が定まっていないから無法地帯になっているじゃない?この場合、道に立つ電柱の張り紙だから、道路交通法違反!」
「え、全然関係なくない?」
「だから消費者基本法」
「それよりも、こんな広告がまかり通ることがおかしいでしょ!?」
「そもそも法って何だろうね…誰に迷惑がかかって、誰が得して損して…」
「寝るだけのホウ、寝るだけのカタ…こんな紙切れ1枚でそこまで行く!?」

ちょっと顔をあげてみる。
「なんてね」
「え?」
「これ、マンションのオーナーさんが部屋貸しますって張り紙だよ」
「マジか!」
「けど、道路交通法違反は本当」
「マジか!」
「わかんない。他にも違反広告物とか、俗に言う捨て看板なんだよね」
「捨て看板?」
「これも営業活動だよね…ステマ広告だよ」
「捨て看板にステマ広告…何だかホント、怖え〜よ…」
「ここに電話しちゃうと、しつこくしつこく営業電話がかかって来て…」
「いや、寝るだけ裏バイト以上に怖いかも…」
「人生勉強で電話してみてもイイかもね!」
「いやいや、そんな人生勉強いらんでしょ!」
「これも広告って言われたら…怖いよね…」

街には情報が溢れている。昔々のアニメーションで妖怪は君のすぐそばにいると謳うエンディングソングがあったっけ。いまの時代の恐怖は、こんな小さな紙切れから始まる可能性に満ちている…

     「つづく」 作:スエナガ

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