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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年3月の記事一覧

短編:【わからない奴はいくら言ってもわからない】

簡単なことだ。 分かる努力もしないし、 分かろうとも思っていない。 諦めている。 だから誰も何も言わない。 わからない奴は いくら言ってもわからない。 「何度言えばわかるんだよ!」 板前長が厨房内から叫ぶ。 「新しい注文の伝票は左!」 「あ、すいません…だけど…」 「だけどじゃねぇ!ルールは守れ」 「や、でもすぐに出来るコッチを先に作った方が…」 「そうじゃないんだよ!お客さんの注文が前後してクレームになるから順番通りに作るんだよ!」 「時間のかかる料理の合間にコッチの調

短編:【イメージで生きている】

「やっぱりここの桜キレイだね〜」 春の心地よい日差しの中、彼女は青い空を見上げながら嬉しげにつぶやいた。 「そお?」 僕はテンション低めの返答をしていた。 「桜キレイじゃない?」 「う〜ん、キレイ…なのかな?」 「色も形もキレイでしょ?」 「いや…桜って儚いからキレイなイメージがあるけれど、花単体で見たらそれほどキレイじゃないかも知れないなと思うことがあってね…」 「そうなの?」 「この季節に一瞬だけ華やかに咲きほこって散っていく…その後散った花びらは迷惑なゴミとなって、飛び

【街で見かけた看板で】#02

修学旅行でやってきた女子高生。 「サチ何見てんの?」 「これ…」 「何?」 「奥さまニュース速報板」 「え?何?」 「奥さまニュース速報板」 「え〜!昭和ってこういう掲示板が街にあったの!?」 「いま令和だし。速報が、路上 煙だよ」 「いや、路上禁煙の禁が消えちゃってるんだよ。それにこれは速報の内容じゃなかったんじゃない?」 「でもこれ、役所の出しているシールを貼っちゃってるよね?」 「レトロで不思議な掲示板…」 「戦争中とか、戦前とかって時代なのかな?」 「でもメチャクチャ

短編:【本末転倒】

「このケーキ安かったの!」 キッチンダイニングで妻とふたり。 「へぇ美味しそう。幾らだったの?」 「3つセットで5百円」 「そうなんだ…でも1つしか無いけど…」 「あなたあまり甘いものを好きじゃないでしょ?だけどひとつだけ取っておいてあげたのよ!」 「甘いもの嫌いじゃないよ…あまり食べる機会も無いから積極的に食べないだけだよ」 「あ、そうなんだ…」 「てことは…2つ食べちゃったの?」 「甘いもの食べたくて買ったからね」 「でも見たことの無い店名だよね?新しいお店?」 「うーん

短編:【黄色は危険を知らせる色】

「ヤバイ…ヤバすぎる…」 「どうした?」 男ふたり、街を歩いている。 「目が…バッキバキ…」 「ホントだ!真っ赤だぞ?」 「キタ!今年もキタ!」 「花粉か!?」 「花粉だ…」 菜の花が咲き誇る季節。 「春、といえば?」 「まあ桜だろうな、普通は」 「違うんだよ。黄色なんだよ」 「なんだよそれ?」 「花粉って黄色だろ?」 「それはイメージだろ?」 「黄色は危険を知らせる色って知ってる?」 「ああ、危険な時は黄色と黒で表示するもんな」 「ケーサツの非常線テープの色も黄色と黒なん

【街で見かけた看板で】#01

看板の前で男がふたり立っている。 「なんか気になるよね?この看板…」 「看板?」 「なんか変…」 「どこら辺が?」 「変態者に 貴方は狙われている」 「確かになんか変…」 「貴方は 変態者に 狙われている」 「ああ、そっちの方がしっくり来る」 「それよりも変態者だね」 「変質者じゃないんだよね」 「変質者なら痴漢や迷惑行為だろうが、変態者ってなんだろう」 「オカシな行動をする人、かな…勝手に他人の家を物色したり、空き巣をしたり…」 「でもさ、そもそもが看板ってなぜか気になる方

短編:【御託をならべて】

「“最もらしい言葉”をいかに本当のこととして語れるか。それが、一流とそうでない営業の違いです」 マイクを片手に講演を続けるスーツ姿の男性。 自分は一流の人間であるオーラを出しながら、 自信たっぷりに薄ら笑いを浮かべている。 「“最もらしい言葉”とは、具体的にはどう言った言葉でしょうか?」 会場の最後尾に座って聞いていた、同じくスーツ姿の男性が声をかける。 「その業界の“流行りを見極める”ことと…そして、“カタカナ言葉”です」 実に清々しい。分かりやすく、本当に薄っぺらい“