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短編:【イメージで生きている】

「やっぱりここの桜キレイだね〜」
春の心地よい日差しの中、彼女は青い空を見上げながら嬉しげにつぶやいた。
「そお?」
僕はテンション低めの返答をしていた。
「桜キレイじゃない?」
「う〜ん、キレイ…なのかな?」
「色も形もキレイでしょ?」
「いや…桜って儚いからキレイなイメージがあるけれど、花単体で見たらそれほどキレイじゃないかも知れないなと思うことがあってね…」
「そうなの?」
「この季節に一瞬だけ華やかに咲きほこって散っていく…その後散った花びらは迷惑なゴミとなって、飛び広がるし、葉桜の方が色もキレイで気持ちイイ」
「それは個人の感想?」
「そうだね。個人的な意見だし、だから僕はキレイさよりも物語のある儚さに惹かれるかな…」
「そうなんだ…」

近くの公園のベンチで桜を眺めながら少し腰掛ける。何故だろう、彼女の前では自分を出そうと虚栄を張っているように、余計な一言が多くなる。しかしもちろん、彼女と話をしたくない訳ではないので、必死に会話の糸筋を探る。
「最近さ…手話のドラマが流行ったじゃない?」
「あ〜見た見た!2つあったよね!どっちも良かったよね!」
本筋ではないのだが、彼女の反応が良かったので会話を広げてみる。
「いや、それもね…」
ネガティブモードの発言から入ってしまう。
「何よ…また個人の感想?」
「う〜ん、何であの手話のドラマが流行ったのかを考えていたんだよね…」
「へえ…では君の見解では何で流行ったと?」
少しの沈黙。
「ん?なんで沈黙?」
「この沈黙なんだよね…」
「沈黙?」
「最近って普通にテレビを見る時に、ながら見するでしょ?ほらスマホ見ながらとか、ご飯食べながらとか…」
「まあそうだね」
「映画館だと集中して観るけれど、テレビドラマは何かしながら見てしまう。けれど手話のドラマは、音もセリフも無いままにドンドン進行しちゃうから、集中して見てしまう」
「ああ確かに」
「字幕の出る洋画を映画館で観ると、劇場出た時に自分が英語が話せるような気分になるくらい感情移入できるじゃない。没入感と言うか…あれに近いよね…」
「なるほどね。手話が海外の言葉みたいに入って来るワケね。だけどストーリーと俳優が良くないとまず見ないよね…」
「そこだよね。業界の人ってさ、勝手な側面しか見ないから、手話が流行ってるって勘違いしちゃって、何でもかんでも手話で作ろうと考えちゃうけど、それはたまたまハマっただけなんだよね…」
「それこそイメージだよね」
「そう、世の中で手話が流行っているって勝手なイメージを持って押し付けてくる」
「手話が流行っているワケではなく、人々の趣向にたまたまハマっただけなのかもね…」

会話が止まる。春の眩しい日差しを見上げつつぼーっとする。
「勝手なイメージか…」
彼女は、ポツリとつぶやく。
「そうかもな…桜がキレイって、勝手にイメージしているだけかも知れない…木には毛虫もいるし、止まった鳥がフンを落とすこともあるし…」
少しだけ彼女がネガティブ発言になってしまった…
「まあ桜に限らず、花は愛でるには和んでイイよね…」
沈黙。
「私達何で一緒にいるんだっけ?」
「え?何いきなり…」
「や、なんか今の観察眼の話とか聞いていても、君ってそういう見方ができるんだ、と違う側面を見たような気がしてね…」
「何で一緒に…う〜ん、春になったから花見がてら散歩行こうという話になったから…」
「それ以前に、よく一緒にいたけど、なんかイメージが変わったな…」
「どんなイメージ?」
「もっと静かで大人しい…悪く言うと流されやすい人だと思ってたんだけど、自分の考えとか、世の中の風潮とか、結構冷静に見てるんだなって…」
「思ってたのと違った?」
「意外だった…」
「そうなんだ」
「意外と勝手なイメージで判断していることって多いのかもね…」
沈黙。
「でも私は、君と一緒にいるのは楽しいかな…君は?」
「僕は…」
沈黙。
「…なにその沈黙?」
「…次の言葉が気になったでしょ?」
彼女は、ふんっと笑う。
「いっか。お腹空いた!なんか食べに行こう!」
「答え聞かないの?」
「勝手にイメージしておきま〜す!で、何食べる!?」
「…」
「え〜っそこは沈黙じゃないでしょう…」

     「つづく」 作:スエナガ

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