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短編:【黄色は危険を知らせる色】

「ヤバイ…ヤバすぎる…」
「どうした?」
男ふたり、街を歩いている。
「目が…バッキバキ…」
「ホントだ!真っ赤だぞ?」
「キタ!今年もキタ!」
「花粉か!?」
「花粉だ…」
菜の花が咲き誇る季節。

「春、といえば?」
「まあ桜だろうな、普通は」
「違うんだよ。黄色なんだよ」
「なんだよそれ?」
「花粉って黄色だろ?」
「それはイメージだろ?」
「黄色は危険を知らせる色って知ってる?」
「ああ、危険な時は黄色と黒で表示するもんな」
「ケーサツの非常線テープの色も黄色と黒なんだ」
「そういえばそうだね」
「道路標識も危険喚起は黄色と黒」
「たしかに…」
「ピカピカの一年生がランドセルに付けるのも…」
「黄色いやつ付けてるわな…」
「春は菜の花、蒲公英も黄色いし、危険を知らせている」
「夏の向日葵も黄色いぞ?」
「あれはオレンジだ…」
「はいはい…」

「値段が安い場合は赤を使う」
「まあ確かに食欲をそそる色も赤だし、闘牛のマントも赤い。興奮を呼ぶ色かな?」
「生肉も赤い。神様はどうしてこういう配色にしたんだろうな…」
「どうした?文学に目覚めたか?」
「いや花粉症に目覚め、思考回路は停止、絶不調だ…」

「そういえば前に買った一眼レフカメラ使ってる?」
「ああ、あれこないだ売った」
「え?売ったの?」
「売った…」
「レンズもセットで結構高かっただろ?」
「高かった。バイト代も全部飛んだ…」
「ということは…別れたな?彼女と」
「撮影する被写体を失ったいまとなっては、高価なカメラは必要無いからな…」
「いやそもそもスマホで十分なのに一眼レフって必要無くね?」
「だから売ったんだって…美しいモノを撮影するのに、スマホなんかでは失礼だと思ったから奮発したんだよ」
「そんなもんかね…」
「ただね、一眼レフカメラをのぞくことで見えたこともあったんだ」
「ほお」
「彼女がカメラに視線を向けてくれると、私と目が合う」
「実際にはカメラと目が合っているのだろうが」
「このご時世、ちゃんと人と目を合わせて、まじまじと顔や表情を見る機会って減っていて、言うなれば希薄な人間関係が多いように思う」
「なるほどね…」
「映画館で映画を鑑賞する時も、暗い場所でじっくり観るから意味がある」
「スマホでツルッと見られる時代だもんな…」
「だから一眼レフでちゃんと撮影したかったんだけど、彼女と別れたのもそうだし…」
ポケットティッシュを出し、思いっきり鼻をかむ。
「何泣いてんだよ…」
「違うよ!花粉。彼女と別れて傷心で花の写真を撮っていたら…凄くリアルな花粉と目が合ったワケさ…思い出しても…」
「まじまじと花粉と目が合ったワケだ!…そういえばさっき、花粉が黄色とかオカシナ発言してたっけ…」
大きくクシャミをする。

     「つづく」 作:スエナガ

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