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第1回 農家は美味しさに全力を出せない

はじめまして須田農場です。

僕らは北海道十勝地方の上士幌町という町で兄弟で農家をやっています。
僕らは職業・農家、趣味・家庭菜園という農業マニアです。日々野菜を作ることが仕事で、一番嬉しいことは、自分たちの野菜を美味しいと言ってもらうことです。
このnoteでは、十勝のことを中心に農業の今と未来の話をしていきますが、ここを通じて、野菜を作っている人と、野菜を食べている皆さんと交流できることができればと思っています。
僕ら生産者がどんなふうに野菜を作って、皆さんの手元に届いているのかを聞いてもらえると嬉しいです。

左:和雅(弟) 右:侑希(兄)

農家は美味しさに全力を出せない

僕ら農家は誇りを持って本気で農業に取り組んでいます。
しかし、自分たちのもっている力を100%出しきれいていないところもあります。それは意外かもしれませんが「美味しさ」の追求です。
もしかすると多くの皆さんは、農家は何よりも美味しさにこだわっていると思っているかもしれませんが、実はそうではないのです。もちろん美味しさはとても大事です。しかし、農家の仕事は美味しいものを作っていればよいというわけではないのです。
僕ら農家の仕事で一番大事なことは、食べ物を作ってこの国の皆さんの命を守ることです。特に十勝は大規模な農業が多く、30万人くらいの人口のこの地域でカロリーベースで400万人分以上の食べ物を作っています。

僕らの家の畑です

もちろん、食べてもらって美味しいと言ってもらえることが一番嬉しいことです。
しかし、命を守る食べ物は安く安定的に供給されなければなりません。そのためには、収穫量の多さ、効率的な作りやすさ、病気への耐性、売りやすいようにスーパーの棚で長持ちさせること、見た目の美しさなど美味しさ以外に気にしなければならないことがたくさんあります。
僕らプロ農家は皆、美味しさと、手頃な値段での安定供給を両立させるように毎日頑張っています。僕らの家の主な仕事もじゃがいも、豆、ビート(砂糖の原料になる根菜)を大量に作ることです。

美味しく成長した野菜を収穫するときが、とても楽しい瞬間です。

しかし、例えば、病気に弱かったり、収穫量が少なかったり、作るのに手間暇が多くかかるけれど、抜群に美味しい野菜や、わずか数日しか美味しさのピークがないような野菜もたくさんあります。
美味しさだけに全力を注ぎ込めば、もっともっと美味しい野菜や手間のかかる方法をとることができます。しかし、その分の手間暇を価格に反映させることがとても難しいのが現状です。逆に言えば、きちんと価格に上乗せすることができれば、究極に美味しい野菜にもチャレンジすることができると思っています。

多くの野菜は農協を通じて出荷され、各地の市場での競りで値段が決まります。市場での競りは、需要と供給の理論で値段が決まるので、コストがかかっているかどうかは価格に評価されにくい仕組みになっています。ときにはほとんど利益がでなかったり、段ボール代にもならないくらいの赤字になることもあります。
それに、野菜がお店で売られているとき、普通は味見をせずに買います。なので、ただ美味しいだけではお店の人も高く売ることは難しいです。「うちの野菜のうまさは、食べれば分かる」と僕らも言いたいのですが、美味しさは買った後にしかわからないんですよね。
もし、病気に弱く植えた半分しか収穫できないけれど抜群に美味しいという品種でも倍の値段で売ることができれば、そのようなものも作ることができるようになります。農家が美味しさに全力を出せない一番の原因は高く売れないことです。

誤解しないでいただきたいのは、僕らは今の流通の仕組みや他の農家さんを批判したいわけではありません。食料の安定供給は農家の一番重要な役割ですし、プロですからその中で美味しさにもベストをつくすことは当然です。僕らも他の農家と同じく誇りをもって、美味しく命のもとになる食べ物をたくさん作っています。

高く売れるものを作ることが地域の経済にも貢献する


皆さんに美味しく栄養を届ける食料の安定供給はとても大切なことです。しかし美味しさにとことんこだわることも、これから先の農業には同じくらい大事だと思います。これからの農業は、この両方が必要なのではないでしょうか。
地方の農村では、なかなかIT産業のような新しい産業は生まれにくい現状があります。大量生産大量販売にも限界があります。だから、地方の経済には、たくさん売る以外にも高く売るという選択肢が必要なのではないかと思います。
農家が究極に美味しい野菜を作って高く売れれば地域にお金が入ってきます。そして、それを使った加工品を作ることや、観光につなげることで地域の産業にもよい影響が生まれます。

美味しさに全振り畑

僕らはせっかく食べ物を作る仕事をしているからには、美味しさの究極にもチャレンジしたいと思っています。
だから僕らは、本業の畑とは別に、100%美味しさに全力を注ぎこんで作る畑を別に作りました。美味しさに全振り畑です。
ここで作る野菜は、毎年研究を重ねて、その時に一番美味しい品種を選び、最上級に美味しくするという作り方をしています。生育に手間暇がかかったり、歩留まりが悪くても美味しい品種を選びますし、美味しくなるのなら手間暇も惜しまないと決めています。

ホワイトコーンを美味しく作るには

もうすぐ収穫できるホワイトコーンを例にお話しましょう。


美味しい野菜を作る1つのポイントは品種選びです。元々甘くない品種はどんなによい土で手間暇かけて育てたとしても、あまり甘くはなりません。品種のもっている特性は味に大きく影響します。農作物の品種改良は、種苗会社がたくさんの研究に投資して、日進月歩で美味しい品種が開発されています。常にそのとき一番美味しい品種を作付けすれば、味のレベルは向上し続けます。
しかし、品種の入れ替えは地域全体で入れ替えないと出荷や販売に支障を来すのですぐにはできません。特にコーンは、花粉を遠くまで飛ばす受粉させる力が強すぎるという特徴があります。地域の中で1件だけ切り替えると他の農家のコーンを交雑させてしまいかねないので、なかなか入れ替えが進まずホワイトコーンは人気があってもなかなか生産量が増えにくい状況があります。須田農場では、ホワイトコーンは毎年新品種を試して一番美味しいものを翌年のエースとして多くつくることにしています。そのために、通常のコーンとは別に、ハウスの中で早く育てて、受粉時期をずらしながら他のコーンと交雑しないように特別に栽培しています。とても手間暇がかかりますが、品種は美味しさに直結するのので、手間を惜しまずにやっています。
今年は今一番美味しい品種、「雪の妖精」がたくさん収穫できます。


皆さんとつながっていけたら嬉しいです

これから、このnoteでは、この美味しさに全振り畑で作っている色々な作物や、その実験を通じた農業や野菜のいろいろなお話をしていきたいと思います。ここを通じて、他の地域の農家の皆さんや野菜を買ってくださる消費者の皆さんとつながっていけたらとても嬉しく思っています。

7月から収穫できるホワイトコーン「雪の妖精」です。精魂込めて作った特別に美味しい野菜が高く売れるようになることで、農家も地域もチャレンジできることが増えていきます。

僕らの畑でとれた野菜も販売していますので、気に入ってくださったら買っていただけるととても嬉しいです。


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