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ジョーカーは「はひふへほ〜!」と言え

映画史に残る名演の一つが「ダークナイト」でのヒース・レジャー演じるジョーカーであることに異論はあまりないと思う。「ブロークバック・マウンテン」でのカウボーイの跡形も無く、ヒース・レジャーはジョーカーそのものであった。きっとジャック・ニコルソンの演じた役を引き継ぐプレッシャーが力になったはずだ。
ジョーカーとは何者なのかということを巡っていろんな人が小難しいことを書いているが、要するにアンパンマンにおけるばいきんまんなのだ。吹替の役者は「は〜ひふ〜へほ〜!」と言う方が良い。バットマンをヒーローたらしめている敵役としてジョーカーは存在するのだ。バットマンというシリーズを麻婆豆腐にたとえると、麻婆がバットマンで豆腐がジョーカーだ。
ところが、数年前の「ジョーカー」というホアキン・フェニックス主演の映画はいただけない。トゥレット症候群、貧困、病んだ母など、コメディアン志望のアーサー・フレックという男がゴッサム・シティの中で恵まれない様をこれでもかと描いた。これではジョーカーという男やその狂気が「恵まれていないこと」の帰結になってしまう。世の中の格差がジョーカーを生んだという分かりやすさは多くの観客にとって演歌のようなものかもしれないが、ジョーカーの狂気とはもっとポジティヴなもののはずだ。純然たる狂気と言っても良い。ジャック・ニコルソンもヒース・レジャーもそれを全身で表現していた。
では、「ばいきんまん」という映画を撮るとして、幼きばいきんまんがドキンちゃんにフラれたり学校などでバイキン扱いされて「は〜ひふ〜へほ〜」と言い出したと描いたら、みんな感動するのだろうか。「ジョーカー」という映画は興行として大成功したらしいが、本作は同情ポルノでしかない。そもそも、恵まれていないからジョーカーになった男が病院を爆破する訳がない。
世の人はどうしても狂った輩の狂うタイミングあるいはキッカケを設定して理解した気になりたいようだが、他人とはおぞましいほど理解しがたいものだ。いくら捜査官たちがプロファイリングしてみたところで、それが犯人の何かの説明になっているのだろうか。「バットマンの敵役はジョーカーというイカれたやつです! 今回はどれくらいイカれているんでしょうか!」というノリでいいのだ。
ちなみに、「ジョーカー」の筋書きはともかく、ホアキン・フェニックスの演技はとても良かった。
なお、10月にジョーカーの続編「Joker: Folie à Deux」が公開されるという。主演のホアキン・フェニックスの相手役はレディ・ガガらしい。観る前から嫌な予感しかしない。

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