見出し画像

カリフォルニアで本屋を作る #5 本のある風景

 本年もよろしくお願いいたします! 

 11月、12月と本屋さんの場所探しをしながら、構想と妄想を重ねているうちに新年を迎えてしまいました。

 新年早々に地震のニュースもあり、心がどこか落ち着かず、そこに来て、割と近所でマグニチュード4.7の地震(米国時間1月5日)もあり、また、落ち着かず。

 カリフォルニアは北米プレートと太平洋プレートの境界に位置することから、日本と同様に地震が頻発する場所。しかも地震の原因となる有名なサンアンドレアス断層 San Andreas Fault の上に諸都市が連なって存在しているので、やはり落ち着かない。

サンフランシスコもロサンゼルスも過去に大震災を経験していて、
いずれまた大きい地震が来ると言われている。僕の生活圏はLos AngelesとSan Bernardinoの間のエリア(日本で言うと

 日本のことに気を奪われながらも、対岸の火事ではなくプレートを共有しているカリフォルニアでも警戒を怠らず、良い年になればと祈るばかりです。

場所探しについての雑感 

 この2ヶ月ほどの間、ヒマを見つければ、ロサンゼルス郡の中の様々な街、特に郊外とされる地域、またその周辺地域を訪れ、実際に歩き回ってみた。

 人の流れ、その街の持つ雰囲気、安全面や治安を含めた環境などを知りたければ、自分で歩いてみるのが一番。

 ちなみに、本日はMontebelloという街のカフェ「Cafe Santo」でこの記事を書いている。

Cafe Santoは通りに面してカウンターがあり、そこでオーダーする。
カウンターの後ろがオープンテラスになっていて、パソコン広げて作業できる。
1月の気温は場所にはよるけれど、LA周辺は昼16-20℃くらい、夜は4-10℃くらい。

 2024年1月現在においてまだ場所は決まってもおらず、この文章に結論はないけれど、日本の都市とカリフォルニアの都市との違い、そこでの本屋さんの存在感の違い、みたいなことを一度書き留めておきたい。

土地のバカでかさと車社会

 南カリフォルニアは車社会。
 どこへ行くにも車が必ず必要で、とにかく広い。

カリフォルニア州の面積は約42万平方キロメートルで日本(約37万2千平方キロメートル)の約1.1倍です。LA郡は約1万2千平方キロメートルで新潟県とほぼ同じ、またLA市は約1,200平方キロメートルで東京都の約半分の大きさです。

在日本国ロサンゼルス総領事館のホームページより

 ニューヨークのマンハッタンのような高層ビルを想像してロサンゼルスに来ると驚くだろう。

 ビルなどはポツンとダウンタウンに僅かにあるぐらいで、あとはせいぜい高くても3階立てくらいの建物が平地にどこまでも広がっている感じだ。
したがって、空が大きい。そして晴れている。

 とにかく土地が広いから、都市生活者の生活のリズム(特に消費行動)も日本のそれとは全く違う。

「自分と関係ない場所」と思われる場所に人はわざわざ行かないどころか、フリーウェイを使ってA地点からB地点に移動するので、自分の興味のない店や場所を意識することすらできない
(だからこそ、マッチングアプリやレビューアプリの需要が高い)。

 そして、その移動には渋滞が必ずつきまとう、のでやはりどこへ行くのも時間がかかり、手軽さを求めるならば、近所(近所に行くのも車が必要)で全てを済ますのが楽、という発想にもなりやすい。

LAから東へと延びる60番のフリーウェイ。本日13時頃撮影。
比較的小さなフリーウェイだけど5車線あり、写真のように日常的な渋滞が起きる。
通勤時間は人によるが30分から1時間30分。

 場所探しをはじめて、痛感したことが、自分の持っている「本屋のイメージ」がいかに日本の都市構造の中で培われてきたか、ということ。

 シンプルに言うと、大阪や京都(の下町)で育った僕は
「多くの本屋は駅から歩ける場所にある」
という文化に慣れ親しんているのだ。

 だからダメというわけではない。
 それでも、
「歩ける場所が限られている土地、南カリフォルニアに本屋を作る」という部分はしっかり意識しないといけないだろう。

ロサンゼルスの作家ブコウスキーの作品では、Trafficなど交通にまつわる単語が散見される。

日本の鉄道文化との違い

 鉄道文化、と言うべきか、より長い歴史の文脈で言うと、日本では街道の文化の中に本屋がある。日本の都市では駅前から商店が広がり、地下街にも店舗が入っていて、鉄道に沿って住宅地も作られる。

 それは江戸期の参勤交代による街道整備と小売業の発展があり、また明治以後の鉄道事業の普及、また鉄道に住宅事業と娯楽産業(野球、宝塚)を結びつけ、鉄道を「乗客」を創出した小林一三の功績なのかも知れない。

‥電車の乗客を、鉄道会社が自ら作るのだ。需要の創出である。
 それまでの鉄道会社は鉄道そのもので利益を出そうとしていた。実際、儲かる沿線はそれで利益を出していた。だが小林は鉄道を通すことで都市開発を思いついた。(中略)小林の最初の構想は見事に成功した。需要のないところに需要を生み出した手法として日本商業史に残るものだった。当然、以後の民間鉄道会社はこれを真似していく。東京の西武、東急はその見事な模倣だった。

『プロ野球「経営」全史』中川右介

 鉄道を中心として「人が歩けるように」で都市が設計されていて、また住宅地と商業地域の境界も曖昧でほとんど混じり合っている。

 通勤・通学者は「沿線沿い」に住み、そこで「人通り」が作られて、沿線から住宅地までに商店があり、その中で本屋も存在する。

鉄道と野球はほぼ同時に日本にやってきた。
そして乗客の創出や産業発展のためにも、沿線に球場や劇場などの娯楽施設が誕生した。


 本に関心がなくても、日本の都市部であれば何かしら本や本屋が視界に入る環境にあると言うことだ。

 もちろんだからと言って本が売れるわけではないだろうけど、ここ南カリフォルニアでの生活と比較すると、日本の都市部での生活は圧倒的に本が身近に、すぐ手に取れる条件にはある。

ヴェニス・ビーチの海岸沿いにあるSmall World Booksは、海岸線の人通りがある場所にある。
しかし、海岸線やハリウッド・West LAなどの観光地としても有名な場所は家賃は高い。
ちなみに本記事のヘッダーの写真はSmall World Books店内。店内に黒猫がいます

わざわざ運転して歩ける場所まで行く

 アメリカ文学者の都甲幸治さんもこちらで書いておられるが、

そもそも、

ロサンゼルスの観光地以外の生活空間で「歩いている人などいない」し、観光地やショッピングや公園やハイキングなど歩ける場所まで、わざわざ車を運転して行くのである。

だから

  • 一家に車が5台、6台というのも珍しくはない。家族の数だけ車がいる。

  • フリーウェイには2人乗り優先車線(Car Pool Lane。一人以上乗車している車のみ使える車線)→ほとんどが一人で乗車しており、そのことが交通量を増やし渋滞を引き起こす原因となる為、二人乗りを推奨している。

  • 高校生同士のデートは親がデート場所まで送り、迎えに行ったりする

日本であれば電車とバスを使えば、都会なら大抵どこでも行ける。けれどもロサンゼルスはそうはいかない。こんなに広いのに電車の路線はほんの申し訳程度で、バスもものすごく不便だ。
 これは歴史的な理由があって、もともとロサンゼルスは市電が縦横無尽に走っていた。だがそれでは人々は車を買わない。だから市電を自動車やタイヤの会社が買い取って、そのまま廃止したんだという。

都甲幸治さんの記事。書肆侃侃房 web侃づめさんのNoteにて
Car Pool Lane。一人以上乗車していると使える専用車両

 例えば、今日来ているモンテベロ Montebello。

 ロサンゼルス市から13km東にある街。
 決して中心からも家からも遠くないけれど、こうしてここで時間を過ごすのは初めてのこと。

 来る理由がないから、意識もしたこともないし毎度フリーウェイで通り過ぎていただけだ。

 今回は店やポップアップに使えそうな棚を譲ってくれる人がたまたまオンラインで見つかり、売り手さんの住むMontebelloまで引き取りに来たという次第。

 ちなみにオンラインでの個人間取引をサポート・仲介するアプリはかなり活発だ。

 少し余談であるが、ピアノなどの楽器も安く売買(あるいは無料)などがあって、90年代末の日本のWEBの賑わいを思い出す。当時は掲示板やBBSがSNSの代わりをしていて「ピアノ売ります買います」というBBSで、僕も安価でピアノをゲットしたこともあったっけ。

 アメリカ全土ではどうか知らないけれど、南カリフォルニアではネットを通した不用品売買がまだまだかなり活発なので、店内で使えそうな家具も全てではないけれども、安価で手に入るものも多数ありそうだ。

譲っていただいた棚。ポップイベントにも使えそう。
近所の人が日常品から商品・中古品・不用物などを取引できるOfferUp(アプリ)でこれを発見

しかし、
 こうした特別の理由でもない限り、わざわざフリーウェイから出口を出て、知らない街に行ったりもしない。

一方で、
 作業できそうな良いカフェないかな? と
 Yelp(イェルプ。口コミ・レビューアプリ)で検索し、
 僕もこのCafe Santoたどり着いたのだから、
 やはり、店が人を呼ぶ、という可能性もモチロン感じる。

Yelpのロゴ


 オンラインや口コミで広まる、というのは日本だろうがカリフォルニアだろうが同じだし、店や場所の魅力で、近所だけでなく他の街からも人を呼ぶことも、日米で違いはないだろう。

「人目につくかどうか」を基準にしてみた時に、日本の本屋さんは、日本の都市が人通りを前提にした街づくりであるために、南カリフォルニアのそれよりも「身近に感じる」あるいは「物理的に視覚に入る」。

 逆にいうとカリフォルニアの本屋は、本に関係ない人にとって、その存在感は現状、圧倒的に薄いと言わねばならない

手紙としての本

 勿論、本好きは遠くからでも本屋に来る。
 僕などは他州まで本屋に行ったりする。

 しかし、本屋あるいは本を扱う店をはじめるにあたって、本好き以外の人(少し本でも読んでもいいかもくらいの人)が、本を手に取れる身近さが欲しい、と思っている。
 ふらっと、知らない人が立ち寄るような。

 それは購買層を増やす、という意味だけではない。
 本棚に並んだ本、装丁、紙質、あるいはレコードのジャケットからでも
我々は言外に色々と吸収してし、刺激を受けてしまうものだ、と僕は信じている。

 だから、気になって本を手に取り、また本棚に戻す、だけでもいい。
 もうそれで何かは起こってしまっている。

 そして、前回書いたことと関係するけど、本というのは届かないかもしれない手紙や回覧板のようなものだ、と思う。
その手紙を人から人へ旅させたい。

 物理的に本が目の前にある、ということ自体が、一つのメッセージだし、メディアであるし、娯楽でもある。

 そうした空間を作りたいと思い、現在ロサンゼルスの郊外に絞って、比較的歩ける通りのある(勿論そこまでは多くの人は車で行くわけだが)、小さな街をターゲットにして探している。

 またそれについては書いていきたい。

最後に - スコシフ東京の活動報告!

 さて、東京・神保町のスコシフの棚(猫の本棚さん内)が年末に更新されております!

 今回のテーマは年末ということでベタではありますが、
「紅白本合戦」

年末年始にゆっくり読んでほしい本をセレクトしました。
色縛りシリーズは今後もやりたい

 是非、猫の本棚さんまで覗きに来てくださいね〜。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?