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「Inside Out & Back Again」by Thanhhà Lai / レビュー


Inside Out & Back Again by Thanhhà Lai

Inside Out & Back Again

by Thanhhà Lai

【作品情報】

ジャンル:Middle Grade(8~12歳)以上
#フィクション #ヒストリカルフィクション #リアリズム #ミドルグレード
出版:2013年(HarperCollins)
受賞:全米図書賞、ニューベリー賞オナーブック
ISBN:978-0061962790

キーワード:ベトナム戦争、難民、成長物語、人種差別、家族愛、自由詩

【あらすじ】

ベトナム戦争で難民となった少女とその家族の軌跡。
ベトナムの首都サイゴンに生まれ育った10歳の少女Ha。サイゴンには市場の活気、伝統的な祝祭、隣人の温かさ、そしてパパイヤの木があった。10年以上続く戦争の戦火がついにサイゴンに迫った1975年4月、少女と家族は故郷を捨て、生きるために船に乗る。ベトナムからアメリカに渡った1年間の様子を詩で綴る、少女と家族の物語。


【感想】

個人的に★5つでした。ベトナム戦争は、1964年~1975年4月30日まで続いたベトナム南北の対立による長い戦争。物語は1975年のテトの日(ベトナムの旧正月)に始まり、同年4月30日(南ベトナム首都サイゴンが陥落した日)を経て、一家がアメリカに渡り、翌年のテトの日を迎えるまでの様子が自由詩の形で綴られています。

著者はベトナム人のThanhha Laiさん。本作はヒストリカルフィクションで「物語」の区分ですが、Laiさんはあとがきで「これは私自分の体験でもある」と語っており、読み始めてすぐに分かりますが、幼少期の著者の目線で描かれています。

作品は史実に基づいているので、歴史に弱い私は事前にベトナム戦争のことや、テトなどのベトナム文化をさらっと予習しました。ヒストリカルフィクションに関しては、歴史的背景を知っているのと知らないのとでは、読んだ時の物語の入り方が全然違うので予習はおすすめです。

連想を誘う詩的な表現がたくさんあり、ただただ字面を追うだけでなく一歩踏み込んで理解していく楽しさがありました。例えば、本文にはWrapped in whiteと書かれているだけなのですが、「白に包まれた」=「白い包帯で巻かれている」=「けがをしている」んだと分かったり、「時期の早いモンスーンが来たんだと思うことにした」=「銃弾の雨が降り注いでいる」だったり。

文字数は、詩なので1ページ1分くらいで読めそうなほど少ないですが、表現力はすさまじいです。じっくり読むと奥深く、英語圏では学校の授業で教材として使われることもあるそうですが、それも納得。上っ面だけでない、難民の当事者となった少女でないと描けない目線、異文化に飛び込む不安や戸惑い、差別や偏見にさらされる苦しみ、戦争で引き裂かれる家族の悲しみや、母や兄を大切に思う少女の思い、そして生きることへの希望や人々の温かさ。いろいろなものが詰まっています。さすが表紙に2つのメダルが輝いてるだけあり個人的にはかなりおすすめの作品です。ぜひ読んでみてください。


【訳書情報】

邦題:「はじまりのとき」
著者:タィン=ハ・ライ
翻訳:代田 亜香子
出版:2014年(鈴木出版)
ISBN:978-4790232889


#洋書
#児童書

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