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いかにして自分がアダルトチルドレンだと気づいたか。彼と小さな部屋での生活編。

彼が転がり込んできた部屋は当時1Kのとても小さなマンスリーマンションで、勤務先の本社にほど近かった。
本社で2ヶ月間の研修ののち各地に配属されるということで、東京のとの字も知らない私は下見にも来ずとりあえずどこになるか分からない配属に備えて都心の小さなマンスリーマンションを借りたのだった。
家具家電つき、光熱費込みで、テレビは小さく黄色いカーテンも趣味とは違い部屋は狭かったが、家賃以外ははじめての一人暮らしには向いていたと思う。

そこに同期の彼はお世話になりますと米を抱えてやってきた。やってきた当時はまだ”同期の人”だった。
しかし狭いキッチンでごはんをつくる私をずーっと眺めていたり、洗濯物を干すのを頼めばズボンがゆるくて半ケツになりながらベランダに干すのを見て大笑いしたり、朝ヘアセットに彼が使ったヘアスプレーが思いのほか部屋中に煙幕を張り、火災報知器が鳴り始め、ふたりで組体操のようなことをしてなんとかあのけたたましい音を止めヘアスプレーを禁止にしたり、あの狭さだからこそ、あの部屋だったからこそ笑ってゆるせることも沢山あったと、いま痛感している。いずれ出ていく部屋。お互いが借り暮らしの部屋。

”同期の彼”から告白を受けてまもなく正式な恋人となった。
休日は私と鏡の取り合いだった。彼も化粧をするのだ。女性的な化粧ではなく、V系の化粧だった。
車で都内をドライブして案内してくれたり、いまはなきお台場 大江戸温泉に行ってみたり、プリクラを撮ってみたり、至極真っ当な恋人らしいことをしたとおもう。

私がスマホを水没させた際には「おれの携帯使っていいよ」と当たり前のように言った。
母との連絡は取りたかったのでありがたかった。
私のスマホを呑み込んだ立川のスーパーのトイレには未だに恨みしかない。落としたのは私なんだが。

代わりになのかなんなのか、会社から支給されたiPadを開いた時、待ち受けが彼の画像になっていて笑った。


彼が一日だけ実家に戻ると居なくなった時は寂しかったが、正直にそういう気持ちを伝えられない自分もそこに居た。
これまで1人で暮らしたことのなかった私にとって、彼はいつでも一緒にいてくれるエンタテインメントだった。

しかし彼はとてもやきもち焼きだった。私が鯖の水煮缶くらいサッパリしているとすれば、彼は味噌煮だった。こってりとした濃いめの愛をくれる。
研修中は同期と飲み会が多く、また男社会のため女性は3分の1程度。
研修で男に触らないで欲しい!飲みの席であいつと距離が近かった!と飲めない酒を飲んで嫉妬してはたびたび私を怒らせた。
付き合っていることも彼は公言したかったのだが、私は黙っていてほしいと頼んだ。

しかし彼はなぜか上司に言ってしまい、私の怒りを買うのだった。
構って欲しかったのだとおもう。いつどこにいても私に。


彼は場所を選ばずどこででも不機嫌になった。
家で、飲み会で、帰りの駅で、子どものように駄々を捏ねてむすーっとしている。
きっと言葉にするだけでは理解できないだろうと思って、そういう時は手を握り、目を見て話そうと言って諭した。
研修期間中のあいだだけでも、何十回とこの話し合いは繰り返され、果たして彼はこのコミュニケーションを取りたいがためにわざと私を呆れさせているのかと感じるほどだった。

彼の家もなかなか複雑な事情だったようで、父親にどこに住んでいるかバレないように生活しているとのことだった。
彼も「親の愛」を欲している人だったに違いない。彼の愛着スタイル、恋愛依存体質はそこからきているのだ。
ただその時の私はまだまだ未熟で、そういったことを見抜く知識はなく、私自身も家を出たばかりでまだ母親を崇拝している最中だった。
母子家庭で育ち、私は定時制高校、彼は通信制高校を卒業したという共通点が、磁石のように一気に私たちを近づけただけだ。

2ヶ月間の研修も終盤に近づき、現場研修がはじまり、引越しの手伝いのために母が1人で上京してきた。

その頃にはもうお互いの配属先の中間地点で家を借りたいね、という話になっていた。

母に、会わせたい人がいるんだけど、携帯を貸してくれた人、と言うと
「あ、あの人ね。ええ人もおるもんやね〜お友達に携帯貸してくれるなんて」と言い、まさか上京してたった2ヶ月で彼氏ができているなんて思いもしない母は、ホイホイと約束の新宿ルミネまでついてきた。

そこに待っていたのはV系のスラ〜っとした男性で、母は面食らっていた。
ハワイアンのお店でパンケーキを食べながら、母が来るまでほとんど同棲状態で、配属先が決まったら一緒に暮らしたいと話した時には、母の周囲からハワイアンのアロハオエな雰囲気は消え、シベリアの空気がただよっていた。

初対面を終え、小さな部屋に母とふたりで帰り、母は「やっと久々に会えたと思ったら彼氏作って一緒に住みたいなんて!!」とバナメイエビのようにぷりぷりしていた。

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