「刑務所のルールブック(賢い監房生活)」 - アスリートの本分を思う

★★★★★+

賢い医師生活」が純粋に良いドラマだなと思ったことから見始めた姉妹作品。こちらが元祖でしょうか。冒頭で「あ、これもチョン・ギョンホが出てるんだ」と好きな俳優さん登場で加速して(彼の軽妙な演技が大好きです)、最後までとても大事に観た作品でした。一気見!というより、一話一話が重量感があって面白いので、なんというか、丁寧に観ました。

大まかなあらすじとしては、韓国野球界のスター選手で、メジャー進出を控えていたキム・ジェヒョク(パク・ヘス)が、妹を襲った男を捕まえようとした時にもみ合いの中で逆上して思わず相手に重傷を負わせてしまいます。正当防衛が認められず実刑を受けることになったジェヒョク。当然メジャーの話は消えてしまい、絶望はあれど、根が実直なジェヒョクは刑務所生活にも真摯に向き合っていきます。そして刑務官として働いているかつての親友ジュノ(チョン・ギョンホ)と再会したり、元恋人のジホ(チョン・スジョン)とのラブストーリーもあり、何より刑務所の仲間たちとの喜怒哀楽あふれる日々が広がっていって…。そんな物語です。

刑務所が舞台だからか、多種多様な揉め事が満載で進んでいく物語は「賢い医師生活」以上に演出のテンポの良さが際立って、ヘヴィな展開でもちょいちょい紛れ込む"お約束"みたいなシーンが、まあよく笑えます。韓国のドラマはこの笑いの配分が巧いものが多いですが、中でも秀逸。

囚人仲間たちはいちいちキャラが仕上がっていて、どの人物にも感情移入せずにいられません(出所してしまうたび、寂しくて!)。チョン・ヘインのユ大尉は何がなんでも助けてあげなければと思わされました。

もちろんドラマなので実際はそんなわけないだろう!と突っ込みたい場面もありますが、それ以上にやりきれないこともあり、心に爪痕が残ります。ハニャンが出所するなりまた薬の誘惑に負けてしまうシーンは、鉛を飲み込んだような鈍痛を憶えました。そう、どんなに素敵なキャラクター揃いでも犯罪者たち。そしてここは刑務所なのです。居心地が良くて楽しい場所であってはならない。

ですが罪も経緯も十人十色、そしてそれぞれが主人公のジェヒョクとの出会いで人を応援する気持ち、卑下していた自分をスターが人間として扱ってくれる喜びを知る。ジェヒョクがこれまでも様々な苦難を乗り越え選手として成功してきたスーパースターであるという設定が何よりも強く物語を支えています。

私は日頃はサッカーが好きでよく観ていますが、このドラマを観て感じたのは、スポーツ選手というのはまさにヒーローなのだと言うこと。「人々に夢と勇気を与える」と言うとなんだか気恥ずかしくもありますが、でもそれこそがスポーツ選手の本分なのです。人は誰かを応援することで自身も強くなれるし、希望を託した相手が活躍すれば晴々とした気持ちに、スランプに陥れば共にそこを脱しようとこれまた奮い立てる。そんな象徴でいる側も大変でしょうが、選手とファンと言うのは実に素敵な間柄です。

そしてジェヒョクのファンであり、仲間でもある囚人仲間のみんなをひとりずつ見送り、最後は見送られる側としてジェヒョクが出所していく。そこからまた始まる新しい人生。簡単ではないけれど、どこからでも、いつからでもやり直すことは可能で、ただ諦めるか諦めないか。じんわり、だけど力強い想いが全編に溢れていました。

刑務官たちの存在ももちろん特筆すべきもの。これまた硬軟様々に取り揃えられ、物語を動かしていきます。本当にいい役者さんが多いんだなぁとしみじみさせられるキャスティング。ついでに音楽も程よくエッジの効いたものが多く、必要以上の感傷も重苦しさも残しません。このあらゆる匙加減の絶妙さが、作品をよくまとめている気がします。地力を感じさせるドラマです。


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