小説版『アヤカシバナシ』渇き
我が家で起こった話です。
由来とか一切聞いたことが無いのですが、気づいた時には箪笥の上に日本人形が1体、ガラスケースに入れて飾られていました。いや、正確には置かれていたと言うべきか。要するに場所が無いから箪笥の上に置かれているのだ。
その姿は、とても質の高い日本人形で、子供ながらになんて美しい顔なんだ・・・と思ったほど。足元の何かを気にするように、裾をそっと払いながらうつむき加減でその何かを見つめているような立ち姿。なびく着物、全てにおいて美しすぎる人形でした。
ある日の夜、母親の悲鳴を聞いて寝室に走ると、天井から手が出てきて首を絞められたと言うのである。
誰か死ぬのかな?縁起でもない事言わないでよ、そんな会話が日常になるほど、お恥ずかしながら我が家は霊現象と思しき事態に遭遇すると誰かの死を疑うようになっていた。知人が亡くなる時にほぼほぼ母親のもとに来るからです。
その日はそれで終わったのですが、翌日の深夜、絵を描いて起きていた私の耳に母親の唸り声が聞こえてきた。変だなと思い、母の寝室に向かうと自分で首を絞めて苦しんでいた。直ぐやめさせて話を聞くと、カーテンがクビに巻き付いたと言うのである。
その翌日も、その翌日も、何かに首を絞められる母親。一体何なんだろうと家族会議を開いているとボン!ボン!ボン!とやたらと苦しそうに柱時計が音を立てた。夜中の12時にはボーン!ボーン!と12回も鳴る。だんだんと昼夜を問わず一時間おきに鳴り続けるその音が苦痛になってきたため、ネジを回すのをやめてもう数年が経つ。
『なんで鳴った?』
『それより何あの音・・・』
『苦しそうだったよね・・・』
『くるしい?・・・苦しい・・・何か関係あるのかな』
家族会議を終えて眠りに付き、何も起きずに朝を迎えたのですが、母親が号泣している事に気が付いた。
その手には日本人形がケースごと持たれていた。
どうしたか尋ねると『人形の髪が伸びている』と言うのである。TVでは何度も見たが、実際言われると信じられなくて、どれどれと日本人形のケースを覗き込んだ。束ねられていた髪がほどけ、明らかにボサーっと毛が乱れ伸びていた。よく1本だけほら、伸びてますよね?って感じのアレとは大違いで、ほんと、もうボサー!!!!っと伸びてるんです。
『うわ!ほんとだ!』
しかし母親が号泣する意味が分からず聞いてみた。答えはこうだった・・・
『ずっと箪笥の上に邪魔者にしたままで、水をやるのを忘れてしまっていた、
だから苦しくて水が欲しかったんだよこの子・・・』
湿度の調整とかもあるだろうが、我が家ではケースに水の入ったショットグラスを入れて人形に飲ませると言う習慣があった。いつしかそれを忘れ去ってしまい、人形は喉が渇いて訴えた・・・
と言うのである。
怒りと訴えで髪が伸びたのか、湿度やそういう科学的なもので髪が伸びたのかはわかりませんが、水をあげてから不思議な事は起こらなくなりました。
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