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小説版『アヤカシバナシ』河童と幽霊

とあるタクシー会社に勤めていた親戚の叔父の話です。

上がり時間が一緒になった運転手仲間の吉田(仮名)が着替えながら叔父にこう呟いた。


『おれ・・・昨日河童乗せたんだよね』


吉田さん、疲れているんだろうと一瞬で理解した叔父は

『そんな日もありますよ、タクシーやってりゃ』

と、対応したのだが吉田は顔を赤らめて、半歩前に出て顔をズイ!と近づけ強い口調で言った。


『信じてないでしょう?本当なんです!長い髪の女だったけど、消えたんだ、真っすぐ進んでくれってそういうから暫く進んで、ミラーみたら消えたんだ、シートを水でぐっしょり濡らしてさ・・・』


『それってよく聞く幽霊じゃないんですか?』


『シートを濡らしたんだから河童だろ!』


吉田は河童だと言い張り、譲らないのでじゃぁ河童かもねって事で話を終えた。


数日後、同僚の渡辺(仮名)が叔父と吉田が着替えている後ろにトコトコと歩み寄って来た。

渡辺は入社間もない若い社員だった。

『あの・・・・』


『どうした渡辺くん』叔父が声をかけると、話し始めた渡辺。

『昨夜なんですけど、〇〇通りを通った時に女性を乗せたんす、どこまでか聞いたら真っ直ぐ行って欲しいって言うんで、俺、真っ直ぐ走ったんですけど無言に耐えられなくて、お客さん!って声かけたらその女性がいなかったんすよ・・・・』


『シートは?シートは濡れてなかったか?』吉田が食いつく。


『ええ、コップの水をこぼしたように濡れてました』


『渡辺君、それ河童!』吉田が間髪入れず入ってきた。


『か、河童っすか!?河童って化けるんすか?』

半笑いの渡辺のツッコミに吉田は

『河童なんか何百年も生きるんだ、化けもするさ』と

当たり前のように答えた。


叔父は渡辺に目で合図を送ると、思いのほか勘が良い若者で、

『なるほど河童っすか!』と上手く乗ってその場を収めた。


それから数日、その髪の長い消える女性の噂はタクシー業界でも広がり、事故も起きているとの事で緊急会議が開かれた。


社長が集まった社員に対し、幽霊の話をする・・・考えられない事だが、叔父のタクシー会社では割とポピュラーな事らしい。

『みんな噂で知っていると思うが、事故が起きてしまっては放っては置けない、信じない人も居るとは思うが、どうか〇〇通りで女性の1人待ちを見たら、気を付けて欲しい。幽霊と言うのは・・・』


『河童ですよ!』


社長の話に吉田が割って入る。


『かっぱ?』あっけにとられる社長に対し、吉田は

『河童河童、うかうかしてたらケツの毛抜かれちまいますよ!』


河童もどうかと思うが、ケツの毛を抜かれる程度ならさほど怖くはない、尻子玉(人間の尻の近くにあると言われている魂の塊、一説によると肝臓とも言われている。)じゃなかったか?と叔父は思った。


『吉田君、幽霊ならともかく河童ってキミィ』


ニヤニヤする社長を見て集まった社員もせせら笑い始めると吉田は

『河童信じないと三代目まで呪われますよ!』とキレた。


なぜ三代目で呪いをやめるのかを考えたらおかしくて仕方が無かったそうですが、本気モードの吉田を見ると、笑い顔見せたら殴られそうだったと言います。


その後、吉田は会社を辞めた。


河童を信じてもらえなくて辞めたのか、河童である証拠を探しに行ったのかはわからない。


もしかしたら吉田が河童だったのかもしれないし、吉田が呪われていたのかもしれない。

吉田本人に聞けば何かわかるかもしれないが、今となっては何一つ知ることは出来ないのだ、


彼はダムに飛び込んで亡くなったのだから。

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