見出し画像

小説版『アヤカシバナシ』増える女

若かりし頃の話。

どれだけ若かりしかと言えば、車で毎晩遊び歩いては

朝に帰ってきて寝ないで仕事行っても3日は平気だった頃。


友人の車に乗って2人で夜中の知らない道を走る。

こういうのがただただ楽しいわけで、

だったらカフェでダベればいいんじゃないの?と、

真面目な友人には理解してもらえなかったものです。


今日は海沿いを走ろう!

そう言って海岸線を、くだらない話をしながら、

爆笑爆笑の深夜のドライブ。


街灯のほとんどない暗闇に近い道なりに走ると、

やっと出てきた街灯の下に、体育で言うところの『安座』をした、

ノースリーブの白いワンピースを着た女性の姿を見た。

年齢的に20代前半と言った感じ。

車が進んでいるのだけれど、その女性が流れて行くように見える。


スー・・・・


目で追いながら、

ん・・・私たちのように遊びに行くために、誰かを待ってる・・・

そう思ったのですが・・・


それから何分走ったか覚えていないのですが、

明らかに私たちは進んでいます、

知らずに同じ道に迷い込んでも居ないのに、

街灯の下にまたあの白いワンピースの女性が。


それが・・・・先ほどと全く同じ人なんですよね・・・


気のせいと思うようにしたは良いが、そうはさせてくれませんでした。

車が彼女の座る場所に差し掛かり、通り過ぎるときに・・・

もう一人横に座っていました。


全く同じ人が。


簡単に分かりやすく説明すると『増えている』のです。


私は友人に『2人いた?』とわざと不確かな聞き方をしたのだが、

答えは『増えてた』でした。

最初は見逃したんじゃない?と言う話にもなったが、

そもそも何キロも進んでいるのに、私たちの前に同じ人がいる事態問題だ。


途端に気持ち悪くなり、帰る事にしたのだが・・・


細いその道を何度もハンドルを切り返して、来た道を戻る。

正しくは戻るしかなかったのだ、今まで走っていた道は海岸線の1本道。

どこまで行ったら脇道があるかなんかわからないくらいの道、

いや、あるわけがないとすら思える道だ、右側が削り取られた山で、

左側は海なのだから・・・。


来た道を戻り、恐る恐る、でも目を凝らして先ほど2人が座っていた場所へ

目を向けるが・・・・誰も居なかった。

緊張で声が出なかった2人はそれを確認した瞬間に『フゥー!』と、

訳の分からないマイケルジャクソン並みの雄叫びをあげた。


安心してまた他愛もない話をしながら数キロ、海岸線を戻るのだが・・・

1度目に白いワンピースの女性が座っていた場所に差し掛かったとき、

カーブを曲がったらもう街灯の下にその姿が見えた。


『ずっと座ってた?』


『まさか・・・結構寒いよ・・・』


運転していた友人はその女性がいる街灯まで5mと言ったところで

車を止めた・・・。

『なにしてんの?』


『ちょっと観察』


『いあ、やばいって』


『何が?さっきはビビったけど、やっぱただの・・・』


『違うって!見て!』


『うわぁああああああああああああああ!!!』


友人が目線を右にやると同時に悲鳴を上げた。

白いワンピースの女性が3人縦に等間隔で並び、

きっちり揃った手と脚の動きでゆっくりこっちに向かってきていたのだ。


映画のようにアクセルをドン!とベタ踏みした友人。

キャキャキャキャキャーーーーーーーーーと叫ぶタイヤ!

叫ぶだけで進まない車!近づく白いワンピースの行進!


ギュン!


一気に急発進して何とか行進の妨げになる事は無かったが、

振り向いてみると、その行進はガードレールを突き抜けて、

その下に下りて行った・・・その先は海しかない。


あれは何だったのか謎のままですが、

それ以来海岸線を夜な夜な走る行為はやめました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?