映画「ナポレオン」に見るキャラクターの向きの重要性(ネタバレあり)
まえがき
映画制作において意外と知られていないのが左右の向きの関係性です。
実は進行方向やキャラクターの位置、向きなどが心理的に及ぼす影響は左右で違っており、優れた映画監督はこれを使い分けています。
映画を楽しむモードで観ていたのでそんなにきっちりした分析ではないですが、記憶を頼りに、今回左右がどのように影響していたのかを考えてみたいと思います。
※なお、左右の持つ意味は他の要素とも絡み合って決定されますし、意図的に逆向きを使って不快、意表をつくような使い方もあるので、あくまで私の個人的な想像です。実際には複数の要素の中から一番優先したいものを選んで左右を決定しています。他の考察があればぜひコメントで教えてください。
左右のルールについて
私が書くよりも以下に詳しくまとめられているのでよかったら事前に目を通してみてください。
ジョセフィーヌとの関係
ナポレオンがジョセフィーヌと初めて会った時。ジョセフィーヌは右からやってきます。心理的に右から左へ登場人物が動くと不快感、不安感を与えます。これからナポレオンに問題を引き起こすジョセフィーヌの印象のフォアシャドー(未来に立ち込める暗雲)かもしれませんし、ナポレオンが感じるドキドキなのかもしれません。
次に子供に剣を届けにいってジョセフィーヌが出てくる場面。ここは右から出てきますが、同時に階段で上下がつけられているので、パワーバランスの描写がメインかもしれません。ただし、グラフであるように、左下がりはネガティブな印象です。
ジョセフィーヌとナポレオンが椅子に座って話すとき。いつもナポレオンが右側です。主人公は右(達成したい困難なことに向かう)というルールもありますが、同時に弱者は右、というルールもあります。
それに加え、後述しますが、ナポレオンの(内的な)ゴールである栄光、権威に対して近づくときは右、遠ざかるときは左を向いていることが多い気がしました。それはジョセフィーヌとの関係の時も同じであると思います。
覚えている限り一度だけナポレオンが左だった時があります。それはナポレオンが浮気したジョセフィーヌを問い詰める際、「私なしではお前はただの女だ」といったのに対し、ジョセフィーヌが「あなたは私なしではただの男だ」(英語だと"You are nothing without me"的なことを言っていた気が。)というような主旨の事を言った時です。
弱者は右側ルールに則れば、責められているジョセフィーヌが右に来るような気もしますが、ここでのジョセフィーヌは浮気を責められるどころか、ナポレオンに上記のセリフを認めさせてしまうのです。
そして、後にわかることなのですが、このジョセフィーヌを捨てたことこそがナポレオンの栄枯盛衰の分かれ目でした。
後に、王の座を手にしたナポレオンは、離婚したジョセフィーヌに別れを告げた後、画面左に去っていきます。ここからナポレオンの転落が始まります。
進行方向とナポレオン軍の勝敗
勝利に向かって進むとき、ナポレオンの率いる軍隊は常に右向きに進みます。最初のイギリスとの闘い、王政復古派?のフランスの民衆に容赦なく大砲をぶっ放すとき、エジプト遠征、ロシア・オーストリア連合軍を氷に沈めるとき。島から戻ってジョセフィーヌに会いに行き、フランス軍に止められた時。逆に、ロシアにて敗北に向かう際は左向きです。(最後のセントヘレナに向かうところも記憶が正しければ船は左奥向きです)
唯一の例外は最後のイギリスとの戦いですが、ここでも敗北し、画面左へ敗走します。
映画では物理的な進行方向を統一するために左右が整理されている場合があります。例えば潜水艦映画の「Uボート(Da Boot)」では敵地に向かう際は左から右、戻ってくるときはその逆です。ですが、「ナポレオン」では前述のように、地理的な説明でなく、ナポレオン自身の浮き沈みを画面の進行方向で表現しているのではないかと思われます。
そして、先ほどのジョセフィーヌとの関係がここで出てきます。本人(劇中のナポレオン)も認めている通り、彼は彼女を手放すべきではなかった。彼女を手放した瞬間から転落が始まりました。でも、それ以前、言ってみればジョセフィーヌと出会ってしまったことが、そもそもの転落を予言していたという見方もできるかもしれません。(浮気、出産の問題がナポレオンを苦しめた)
その他のキャラクターとの位置関係
ナポレオンが力を持っている時には基本的に左に位置し、右向きに話します。食事中に部下から妻の浮気を報告され、「デザートはなしだ」と追い返したとき。
※そしてその後、わざわざどうやって浮気を知ったかを聞きに部下のテントに来た時、彼は右に座ります(パワーの喪失)
オーストリア・ロシア連合軍を破った後、オーストリアの将軍?を招いて乾杯したときも彼は左。妹を妻にする政略結婚を迫った時も左です。
逆に彼が力を持っていない時、画面右に来ます。モスクワまで辿り着いたのに街は間抜けの殻、鳩のフンまみれの玉座に座るとき。イギリス軍に敗れ、イギリスの将軍と話すとき。ジョセフィーヌが亡くなったことを娘から聞くとき。
思えば、最初に処刑されるマリー・アントワネットも右から左へ入場し、ギロチンに差し出す頭も画面左向きです。
そしてラストシーン
決闘する少女達に向かい合うナポレオンは右に位置し、左向き。
ラストカット、中央に座る彼の後ろ姿がゆっくりと倒れる。
もちろん、左に。
あとがき
一度しか観てないので思い出せるのはこれくらいです。
もしこういった時はどうだったか?というのがあればぜひコメントをお寄せ下さい。皆で考察していくのは楽しいですね。
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