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右と左の心理効果

さて、以前にヒッチコックのフレーミングという記事で少し言及した左右の心理効果について、今回は説明していきたいと思います。

映画を作るとき、多くのビギナーは左右の動きについて考えていません。

その理由は多くの作品でが左右について明確に意識して作られていない事も理由として挙げられます。

左右を意識しなくても物語は理解できるし、進んでいきます。

しかし、この左右の持つ意味を理解し、作品に組み込むことで、より印象的かつ力強いストーリーテーリングが可能となります。

例えば2013年ポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』は最もシンプルな左右表現-登場人物の選択を左右のビジュアル表現にて見事に描いている作品です。

特にこの左右の画面の動きは映画を通してその効果を=主人公の選択を観客に学習させることで、よりハラハラ感を誘導し、期待感や裏切りを演出するのも可能です。

基本的には画面の動きには6つしかありません。

右から左

左から右

上から下、下から上

そして、手前と奥、その逆です。

このカメラ(キャラクター)の動きによって、支配と攻撃性、または弱さを表現することができます。

上下に関しては皆さんも何となくわかると思います。

上への動きはポジティブなイメージを、下への動きはネガティブなイメージを与えます。

では左右はどうでしょう?

右から左への動きは不明確な印象を与えます。しかしそれは何故でしょう?

その理由は時間軸と文化によって形作られました。

西洋文化では時間軸は左から右へと動きます。時計もそうですね。

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当然、文章の書き方は左から右です。

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ビデオゲームの画面も基本は左から右へ流れます。

これらは無意識的に自然さに加え、表現よっては安定感や安心感へを与えます。さらにポジティブなイメージがある理由には…

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こちらの理由があります。

この様に日常的に我々は左から右の動きに慣らされています。

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その為、右から左の動きは時間的な表現でいうと後退や過去に遡ることを意味します。

これらをベースとして映画理論上も左右の動きについて左から右の動きは自然で日常的表現という意味づけがされています。

その応用として『ロード・オブ・ザ・リング』では左から右の動きはゴールがはっきりした旅や向かう相手が明確にいる場合に使用されています。

また別の例としてこちら『フルメタルジャケット』の二つのショットからなるラスト・シーンをご覧ください。

突然、進行方向が変わります。(こちらでは180度ルールも破られています)

フルメタルジャケットは泥沼化したベトナム戦争を描いています。戦争の末期にはその戦争意義が失われ、アメリカ国内だけでなく世界中で反戦活動が行われるほど、その戦いは混迷しました。

この突然のカメラムーブメントの変化は表面では秩序だって行動している様に見える彼らが軍隊が、実は当ても、大義も、終わりも見えない絶望的な状況を徘徊していることを象徴しています。

またこちらの映画では安全地帯へ向かう動きには左から右の動きが使われています。実は、フルメタルジャケットだけではなく多くの戦争映画でこの法則が使用されています。

ということで、左から右の動きはポジティブと平常を意味します。

実はこの動きに関する心理的効果は理論上ではなく、実験によって証明されています。

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2012年クリーヴランド州立大学で以下のような実験が行われました。

1つのグループに8つのショットを見せます。そしてもう1つのグループにも全く同じショットを見せます。ただし、左右の動きが反対になったものを。

ショットの内容は結末がオープンな物…いわゆる、どちらとも取れない内容です。

この実験はいくつかのキーワードによってデータ収集されました。右から左の動きのグループが答えた回答として多かったものは以下です。

24.8%の人が不安、憂慮、心配、サスペンス的
11.9%の人が怯えや恐怖を感じたと答えました。

この結果では具体的な印象を感じた割合は3割ちょっとしかいません。

しかし、質問を以下の様に変えていくと2つのグループには大きな差が出ました。

好き嫌い、良い悪い、面白い・つまらない、強い弱い

すると左から右の動きの場合はポジティブな評価が、右から左の場合はネガティブな評価が圧倒的になったのです。

この結果をうまく利用することで、映画監督は新たな表現の可能性を見出すことができます。ここで大事なのはこの左右の動きは登場人物の感情や置かれた状態を強調する意味を持ちます。

さて、ここでもう1つ大事なことを。

実はキャラクターの位置関係の典型的な意味は左が悪、右が善を象徴します。

その典型的なシーンがこちら。

左から右の動きにはポジティブ⇨しかし、位置関係では右が善を
右から左の動きにはネガティブ⇨しかし、位置関係では左が悪を象徴します。

一見逆に見える位置関係ですが、いくつかのショットを分析すればその理由が見えてきます。

ここで、ヒッチコックのフレーミング術で解説した右から左の動きには "困難" または "成し遂げられぬ挑戦"の意味があると言いました。フレーミングの基本として進行方向、視線の先には空間を作ります。

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そうすると、左を進行方向とした場合、被写体は右寄りに置かれることになります。

これがベースとなり、左右の善悪の位置関係が設定されました。

次回はこちらのオープニングシーンを左右の効果を使ってどんな狙いがあるかを解説したいと思います。


参考動画


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