ヒッチコックから学ぶ、フレーミング×心理術
有名なヒッチコックの言葉。
"フレーム内のオブジェクトのサイズは、ストーリーにおけるその時点の重要性に直接関係している"
ここから、ヒッチコックルールが生まれました。
ヒッチコックルールの解説動画をご紹介。
このヒッチコック・ルールは現在では当たり前のように使われ、観客に与える情報伝達手段として大変重要な基礎とされています。
映画における観客とのコミュニケーションとは、観客にストーリーを理解させ、観客の注意を引き、感情を揺さぶることです。
その中で、最も顕著にそれらをコントロールするのが、ホラーとサスペンス。
ということで、サスペンスの巨匠、ヒッチコックから学ぶフレーミングとストーリーテーリングの関係性を見ていきましょう。
上記の動画は「誕生日のサプライズに料理をする」という情報を伝える観点から、適切なショットについて解説している動画です。
その中から基本の3点をみていきましょう。
広いショットは登場人物の置かれた環境を説明します。
ミドルのツーショットは登場人物の関係性を表現します。
そして、クローズアップはその瞬間に観客に最も与えなければならない情報を提供します。
この基礎を踏まえた上で、こちらの動画を見ていきましょう。
こちらは『めまい』を例題にヒッチコックのフレーミングが解説されています。ヒッチコックがいかに観客を映像によってコントロールしているか、その片鱗を学んでみましょう。
左右の意味
フレーミングは単に美しい画面を作るためにあるわけではありません。その位置や動きによって観客の持つ潜在的な感覚に訴えかけます。
画面上の位置関係には意味があります。
以前解説したハイアングとローアングルがパワーバランスを表すように、
左右にも意味が存在します。
一般的に左から右の動きはポジティブな印象を与えます。
その逆に右から左の動きはネガティブな印象を与えます。
ヒッチコックはこの左右の印象を巧みに映画に組み込んでいます。真実を語る場合は左から右の動きを、
嘘をつく場合は右から左へと動きます。
そして、中央の配置はキャラクターの中立、迷いを表します。
この3点を基本として、ヒッチコックは当然その法則をさまざまな手法で取り入れています。
例えば、こちらは有名なヒッチコックのカメオシーン。モブとしてヒッチコックは左から右に動きます。これは欧米の文化圏では文字の読みの流れでもわかるように、観客に自然な印象を与えます。そして、ショットの後半、右から左に動く、主人公が現れます。反対に右から左の動きは不安感だけではなく違和感を生じさせます。
このショットは真実と嘘ではなく、登場人物の印象づけの機能として、左右の動きを利用しています。
こちらはOP終わりのファーストシーンのファーストショットです。
手は右手から現れ、次に左手がフレームインしてきます。
このように、冒頭で手の動きによって右→左の動きを見せることで、観客に "何かただごとではない" というシグナルを与えています。
また右から左の動きには "困難" または "成し遂げられぬ挑戦" 当の意味合いを持ちます。この冒頭シーンでは不穏さだけではなく、登場人物の困難をも暗示しているのです。
こちらはセカンドシーンなのですが、ここでは主人公スコティは、トラウマによって高所恐怖症となり警察を辞めたいわば負け犬のような状態です。
画面上で左右のどちらにフレーミングするかにも意味があります。
左側が、強者、正義、真実を表し、右側がその逆を表します。そのため、このシーンの冒頭では主人公は後ろめたさの無いミッジに対し常に右側に配されています。ミッジはスコティに正論を投げかけますが、スコティは彼女の正論を受け止めることが出来ません。
唯一、その位置が逆転するのがこちら。
主人公がトラウマの克服について話だす部分です。彼の精神状態はポジティブに変化し、それに連動するように左右配置の変化にてビジュアル化しているのです。
そして、最終的にこの位置関係に戻ります。そう、みなさんもうお気づきですね。彼の挑戦は失敗に終わります。
次のシーンではさらに複雑なパワーバランス変化をヒッチコックは表現しています。
こちらは左側にスコティ、左にエルスターが配置されています。依頼をきく側、頼む側とどちらにイニシアチブがあるかを示しています。
しかし、シーンの中盤でポジションがこの様に変わります。
位置関係はそのままに、高さによってイニシアチブ変化をもたらしています。大事なのは上下左右が合わさった場合、力関係は上下が優先されます。
そして、先ほども言及したように、右側のフレーミングは弱者、悪、嘘を象徴するのですが、このシーンではそのどれを暗示しているのか…
実はプラスαでここには重要なヒントが隠されています。それは美術として使われている大量の絵は嘘の暗喩なのです。
これらの情報は無意識の印象として観客を刺激します。この常に与えられる微妙な違和感は観客の注意を引く上級テクニックの一つです。
右と左には当然、多くの意味が内包されており、ベースのキャラクターによってその意味が明確に変わってきます。冒頭のシーンを思い出してみてください。主人公がトラウマを持つ理由となったシーンです。彼は犯人を追いかけて右から左へと動いていました。この動きは "困難" または "成し遂げられぬ挑戦" の意味も含まれていましたね。
主人公スコティがマデリン/ジュディを追う時は必ず右から左となります。それは、主人公の置かれた立場の不安定な立場、困難さを表しているのです。
そして、左に配置されているシーンは、スコティがマデリンに向かってありのままの自分を見せている時です。
ストーリーテーリングの醍醐味は今目の前に起きている出来事とは違う何かを観客に暗示させることです。
二人が結ばれた後も、スコッティーは常に彼女を追いかけている構図になります。この刷り込まれた印象は観客の不安を増幅させます。
ヒッチコック『めまい』にはこのように、人物配置の入れ替えにより巧みに登場人物の深層心理を描いています。そして、観客の関心をもコントロールしているのです。
この役をどのポジションで演技させるかの決定は物語をより強固に、キャラクターをより魅力的に映し出す最上級のテクニックなのです。
今後、左右のポジショニングについてはさらに詳しく解説した記事でご紹介予定ですが、まずはみんさんも一度、『めまい』をみて、キャラクターの位置関係が何を暗示しているのかを分析してみることをお勧めします。
最後にこのヒッチコックルールを逆手に取った作品をご紹介したいと思います。
こちらは1995年に大変話題になった『ユージュアル・サスペクツ』です。その代表的なファーストシーンです。ネタバレになってしまうので、詳しく解説はできませんが、こちらをまるまる1本見た後に、ヒッチコックルールがどの様に破られているのかが理解できると思います。
ヒッチコックが作り上げた人間心理を利用した先入観を逆利用した作品です。
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