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SDGsの達成に向けて運動指導者ができることについて考える-SDGsと健康経営を中心に-

日常生活の中で当たり前のように浸透しつつある「サステナブル」や「SDGs」という言葉。

今回は、サステナブルな社会の実現に向けて、運動指導者が貢献できることについて考えてみたいと思います。

1.サステナブルとは?

サステナブルやSDGsに対して運動指導者が貢献できることについて考えるために、まずは改めてサステナブルとSDGsについて簡単に整理をしておきましょう。

サステナブル(Sustainable)、サステナビリティ(Sustainability)とは、「人間・社会・地球環境の持続可能な発展」を意味します。サステナブル(Sustainable)とは、本来は「維持できる」「耐えうる」「持ちこたえられる」を意味する形容詞です。ただし近年は、地球環境の持続可能性、人間社会の文明・経済システムの持続可能性の意味や概念として一般的に用いられるようになりました。

出典:大和ハウスwebサイト

サステナブルと聞くと、「エコ」や「リサイクル」を発想してしまう人が多いと推察されます。

しかし、サステナブルは「エコ」や「リサイクル」だけを示す言葉ではありません。

私たちが地球で持続的に発展し豊かな生活を送るための考え方、行動、仕組み、システムがサステナブルということなのです。

人間が持続的に発展し、豊かな生活を送るためには、地球が持続的に存続することが大前提になります。

現代社会において、人間は自分たちの発展だけのために地球環境に負荷をかけ続けてきたといっても過言ではありません。

その結果、地球環境は大きく破綻しかけており、地球存続の危機にさらされているといえます。

地球環境が破綻し崩壊してしまっては、そもそも人間の豊かな発展は望めせん。

そのような考え方に基づき、私たち人間は自分たちが豊かに発展し続けるために、地球環境が破綻しないよう地球に負荷をかけない行動を心がける必要があります。

そして、その行動を支える仕組み、システムや考え方も重要になります。

地球に負荷をかけない優しい行動を心がけるという点では、サステナブルはエコやリサイクルなどの取り組みを総称する言葉であるといって間違いないかもしれません。

しかし、現代社会において求められているサステナブルとは、地球環境の保護に対する取り組みのみならず、さらに包括的な考え方であり取り組みです。

そのサステナブルな考え方や取り組みを具体的な目標として示したものが「SDGs」といえます。

2.SDGsとは?

サステナブルな社会を実現するために、私たちがすべき考え方や取り組みを目標という形で具体的に示したものがSDGsです。

SDGs(エスディージーズ)とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことで、貧困や紛争、気候変動による自然災害、感染症といった人類が直面している課題を整理し、2030年までに世界が達成すべき目標のことです。

「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」は、産業革命以降急激に活発化した人間活動により、経済・社会の基盤である地球の持続可能性が危ぶまれていることに端を発します。

1972年、マサチューセッツ工科大学のメドウズらにより発表された「成長の限界」は、地球資源をふんだんに使いながら拡大してきた世界経済の成長は、このまま続くと100年以内に限界を迎える、という衝撃的な提言でした。

その後、1987年に「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」による報告書『我ら共有の未来(Our Common Future)』で「持続可能な開発」の概念が提唱されたことが、SDGsの根底にあります。

それからしばらくの期間を経て2000年に開催された国連ミレニアム・サミットにて、SDGsの前身となる「ミレニアム開発目標(MDGs)」が採択されました。MDGsは2015年を目標年として、極度の貧困や飢餓の撲滅など、8つのゴールを設け、加盟各国がその達成に向け努力することとされました。

そして目標年が近づいた2012年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「持続可能な開発会議(リオ+20)」にて発表された成果文書『我々が望む未来(The Future We Want)』で環境・経済・社会の3つを統合したSDGsを採択すること、さらに SDGsをMDGsの後継として統合することが決定され、2015年9月の国連サミットでSDGsが採択されました。

出典:SDGs総研webサイト

このSDGsは具体的な「17の目標」で構成されています。

そして、この17の目標を達成することで、人間が暮らす地球や、その地球上で営まれる人間の社会、ひいては人間そのものが持続的に豊かな発展を遂げられるという訳です。

3.SDGsの達成に向けて運動指導者ができることとは?

SDGsの17の目標のうち、運動指導者として取り組むことのできる目標が「目標3:すべての人に健康と福祉を」であるといえます。

運動指導者として、より多くの人の健康維持・増進活動をサポートし、人々の健康に寄与することができればSDGsの達成に貢献できるといっても過言ではありません。

実際、多くの運動指導者は、すでに世の中の人々に対して、さまざまな健康増進支援に取り組んでおり、少なからずSDGsの達成に貢献しているといえます。

今後さらに、運動指導者はSDGsの達成を目指すべく活動の幅を広げていく必要があるのではないでしょうか。

そして、運動指導者が今後、さらに取り組めることの1つとして「健康経営」の支援があげられると私は考えています。

4.健康経営とは

健康経営とは、企業が従業員の心と体の健康維持・増進へ取り組む活動のことです。

企業が健康経営に取り組むことで従業員の企業に対する満足度や信頼度が高まるといえます。

その結果として、企業力が向上することになります。

企業力の高さは、企業の社会的信用度に結びつき、企業価値も高まることになります。

また、健康経営に取り組んでいること自体が社会における信用度や企業の価値を高めることに結びつくといえるでしょう。

つまり、現代社会において企業活動をしていく上で健康経営は重要な取り組みであるといえる訳です。

そして、その健康経営を支援することも運動指導者が貢献できることの1つであると私は考えます。

5.健康経営の第1歩は企業が抱える健康課題を解消する取り組みから

現在、多くの企業は、さまざまな健康課題を抱えていると推察されます。

多くの企業が抱える健康課題は大きく、
メタボリックシンドローム
メンタルヘルス
の2つに集約されると考えられます。

これらの健康課題を解決する手段として運動は不可欠であるといっても過言ではありません。

企業における健康課題を解決する上で運動によって期待される効果は、以下の図に示す通りです。

そして、これら運動で期待される効果は、運動を継続することで期待できる効果であるといっても過言ではありません。

しかし、運動を継続する上では多くの障壁が存在します。

例えば、
忙しくて運動する時間が作れない
運動に対する優先順位が低い
どんな運動をしたら良いのか分からない
そもそも運動が嫌いで面倒
など、運動に取り組む人の意識や考え方が運動継続の障壁になることが多いのです。

それらの障壁によって「運動の重要性を理解しつつも運動を継続することができない」というジレンマが生まれています。

こうしたジレンマを解消するためには、まず健康や運動に対する意識変容が必要になります。

また、意識変容に合わせて行動変容に結びつく介入をすることも重要です。

トランスセオリティカルモデル」によれば、人の行動変容には5段階のステージがあり、それぞれの段階に応じた介入が必要であるといえます。

そして、その各ステージは簡単に逆戻りしうるとされています。

例えば、意識変容がなされても行動を起こすけっかけがなければ、振り出しに戻ってしまったり…

意識変容を起こし行動変容に向けての準備が整っても、その行動を継続していく介入がなければ、また行動を起こすきっかけ作りから再出発しなければならないことが多いのです。

したがって、
・意識変容を促すための介入
・行動を起こすきっかけ作りなどの介入
・行動継続を促すための介入
など、さまざまな機会の提供や介入が必要になります。

それら多くの機会を提供し、さまざまな介入ができるのは運動指導者であるといえます。

指導対象者の状況を見極め、必要とすべき介入をしていくことができるのは、運動指導者の強みであり、運動指導者は多くの企業が抱える健康課題の解消に貢献できるものと考えています。

6.健康経営を支援するための具体的な提案として

健康経営を実現するために運動や運動指導者が貢献できることについては何となくご理解頂けたのではないかと思います。

しかし、どのような形で企業経営に運動を取り入れるべきなのか疑問を感じている人も多いと考えられますので、さらに具体的な提案をしていきます。

(1)健康維持増進コンテンツのデジタル化とクラウド化

健康経営の第1歩としての従業員の意識変容や行動変容に関する介入として用いられている手法は、企業から従業員への健康維持増進コンテンツなどの提供や共有であると考えられます。

企業における健康維持増進コンテンツなどの提供や共有は、これまで、健保組合などで制作される健康関連冊子など紙媒体の提供や、お昼休みや就業時間外に健康セミナーなどを開催するというものでした。

実際に、私もさまざまな健康関連冊子の監修や多くの企業で健康セミナーなどの講師を担当させて頂いた経験があります。

そのような経験の中で、以前から取り組まれている健康関連情報の提供や共有には、いくつかの問題点があるのではないかと考えています。

まず、紙媒体による健康関連情報の提供については、情報冊子を配って終わり、情報冊子を社内に設置して終わり、といった取り組みになりやすく、実際の意識変容や行動変容に結びつかないことが多いのではないかと考えます。

冊子を一方的に配っただけでは、実際に読んで貰っているのかも不明です。

また、冊子を社内に設置して自由に持ち帰ってもらう形でも、実際にどれだけの従業員が持ち帰ったのかを把握するためには、冊子の残数カウントといった煩雑な作業が伴います。

したがって、現実的には多くの企業が、そこまで着手できていないのではないかと推察されます。

一方で、健康関連セミナーについては、セミナー中に参加者の反応に合わせて、さまざまな介入ができるため非常に効果的であると考えます。

しかし、セミナー開催日時が限定され、会場のスペースによっては参加人数も限定されてしまうため、一部の従業員のみへの介入になってしまうことが否めません。

このような問題点を解消できるのが、健康維持増進関連コンテンツのデジタル化、オンライン化、クラウド化であると考えます。

現在、感染症予防対策の一環としてリモートワークや在宅勤務が一般的になりつつある状況の中で、オフィスのクラウド化が進んでいる企業が増えてきていると推察されます。

さまざまなデータや情報をどこからでも入手できる環境、そして、場所や時間に捉われないワーキングスタイルにおいては、健康維持増進に関するコンテンツの提供や共有が、以前よりも容易くなっているといっても過言ではないでしょう。

健康維持増進関連コンテンツをデジタル化し、そのデジタルコンテンツをクラウド化し、従業員がいつでも、どこでも、好きな時に閲覧できるようにしておくことで、企業内における健康関連情報の共有が容易になります。

また、コンテンツのデジタル化、クラウド化は「いつ、どのくらいの閲覧があったか」というモニタリングができるため、コンテンツの閲覧数が少ない場合はプッシュ通知、リマインド通知も可能になります。

これまでのオフラインコンテンツでは、モニタリングやリマインド通知などが不十分であったことも否めません。

そのため、十分な介入ができず、トランスセオリティカルモデルにおける逆戻り現象を起こしてしまうといった課題を生んでいました。

しかし、コンテンツのデジタル化、クラウド化によって、従業員への介入におけるモレやムダがなくなり、より効果的に意識変容や行動変容を促すことが可能になります。

また、コンテンツにアンケート評価機能を設け閲覧者に任意で回答してもらえれば、コンテンツの評価が可能となり、新たなコンテンツ作りのアイデアや判断ができます。

このように健康維持増進関連コンテンツをデジタル化、クラウド化することで、健康経営実働部隊ともいえるHR部門が健康経営におけるPDCAサイクルを回しやくなるというメリットが生まれます。

運動指導者は、そのコンテンツ作りやコンテンツ内容の検証、具体的な改善提案、実行、という健康経営におけるPDCAサイクルを回すお手伝いができるといえます。

(2)リフレッシュタイムの導入、システム化

リモートワークや在宅ワークの浸透、普及は、ビジネスパーソンの働き方を大きく変化させています。

そして、その変化する働き方の中で、注目されてきているのが「時間管理術」ではないでしょうか。

これまでの働き方は、オフィスに行き、そのオフィス空間で仕事をするというものであり、就労管理を含めて、ある意味で時間規律が定められていました。

ところが、リモートワークでは、いつでもどこでも仕事ができるため、就業時間などの規律は個人の裁量に委ねられることも少なくありません。

企業が管理をする働き方から個人の裁量による働き方に変化していく中で、改めて時間管理が問われる状況となり、時間管理術が改めて注目されているのです。

現在、時間管理術の中でも特に重要であるといえる「タイムトラッキング」関連のアプリが数多く提供、販売されていることから考えても時間管理術に注目が集まっているのは間違いないといえるでしょう。

そして、時間管理術の1つとして、改めて見直されているのが「ポモドーロテクニック」と呼ばれる手法です。

ポモドーロテクニックとは、細かいワーキングタイムとレストタイムを設定し、効率的かつ集中して物事に取り組むというテクニックです。

ポモドーロテクニックについては以下の記事も参照下さい。

そのポモドーロテクニックにおけるレストタイムをリフレッシュタイムと位置づけ、「ポモドーロテクニック」アプリなどと連動し、レストタイムに座ったままでもできる簡単なリフレッシュアクティビティをポップアップ表示させることなどで従業員に対して健康維持増進活動を促すことができると考えられます。

もちろん、リフレッシュアクティビティを実施するもしないも個人の判断や裁量によるものではありますが、健康維持増進に関する意識変容や行動変容に関する介入として、ポモドーロテクニックを利用した介入は有効な手段になると考えます。

ちなみに、基本的なポモドーロテクニックは、25分に1回の頻度でレストタイムが訪れるため、多頻度で健康維持増進に関する介入が入ることになります。

その結果として、ザイオンス効果で健康維持増進に関する意識変容や行動変容に結びつく可能性が高くなるといえるでしょう。

こうした提案やコンテンツ作りのお手伝いができるのも運動指導者の強みであるといえます。

(3)チャットカウンセリングの導入

健康維持増進のための取り組みは、より個別に介入した方が効果的であると考えられます。

なぜなら、体の状態は個々それぞれに異なり、ある人に対する介入が、別の人に当てはまるとは限らないからです。

トレーニングの原理・原則に「個別性」というものがある通り、特に健康維持増進おける運動に関する介入は個別に実施した方が良いといっても過言ではありません。

したがって、人それぞれ異なる体の悩みや健康に対する悩みなどを個別にカウンセリングする仕組みを作ることも健康経営においては重要になるといえるでしょう。

そこで、提案したいのがチャットシステムなどを活用したチャットカウンセリングの導入です。

チャットによって、いつでもどこでも手軽に健康に関する相談や、運動に関する相談ができる仕組みや環境を作ることで従業員の健康に対する意識変容や行動変容を促すことが期待できます。

また、このチャットカウンセリングは運動指導者による運動関連カウンセリングのみならず、栄養士による栄養関連カウンセリングや、産業医による医療相談などと、さまざまな連携が可能となります。

産業医を中心に、運動の専門家、栄養の専門家、メンタルの専門家、などが連携することで従業員1人1人に「かかりつけ」体制を構築し、健康診断結果に基づき個別に運動や栄養、メンタルに関する介入をしていくことは健康経営を実現する上で極めて重要になると考えます。

このように運動指導者が企業の健康経営に貢献できることは多岐にわたるといっても過言ではないのです。

合わせて読みたい:
運動指導者が健康経営を支援する上で留意すべきこと・・・

7.健康経営とSDGs

現代社会においてSDGsの達成に向けた取り組みは企業の使命であるといっても過言ではありません。

そして、SDGsの達成に向けた取り組みの1つとして健康経営は不可欠といえます。

なぜなら、企業の健康経営への取り組みはSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」ならびに目標8「働きがいも経済成長も」を通じてSDGsの目標達成に結びつくからです。

サステナブルな社会の実現に向けて、より多くの企業が健康経営に取り組むことを切に願うとともに、運動指導者として健康経営のお手伝いをすることでSDGsの目標達成に貢献できればと考えています。

*健康経営の支援業務などのご依頼は以下を参照下さい。


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