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🍷【ノンネイティブの流儀11】【「処理水」は汚染されていないのか?】【言い換えのトリックに留意する】

2011年3月の東京電力福島第一原発事故を受け、現地の敷地内にたまり続ける放射性物質を含んだ水はいま、計画されている海への放出を前に「処理水」(treated water)と呼ぶのが、日本政府の立場です。英字版を含む日本メディアでも、それに沿った報道が一般的になっています。

私が新聞社の英字版にいたころは、何の疑問もなく「汚染水」(contaminated water) を使っていました。それがいつからか、そうしたネガティブな印象をそぎ落とした「処理水」を日本政府が使い始め、おそらく強い要請があったのでしょう、日本の英字メディアもその英訳を使っています。処理されたところで、汚染されていることに変わりはないのにです。

そんなことを思い出したのは、米IT企業で相次ぐ大量解雇にまつわる英文ニュースを最近読んだ際、「人員の最適化」(workforce optimization)という言葉に出会ったからです。クビきりも経営者から見ると「最適化」というキレイごとになる点を、改めて思い知らされました。

実はこうした例はあちこちで散見されていて、英訳の際に巧みにすり替えられている例もあります。例えば、「沖縄における米軍基地負担を軽減する」といった内容の日本政府の英訳は mitigate the impact of U.S. Forces on Okinawa で、 これを日本語に直訳すれば、「沖縄における米軍の影響を緩和する」となります。「負担」を直訳の burden とせずに impact とするのは、米国に対する配慮なのかもしれませんが、地元感情を逆なでしているようにも思えます。

こうした言い換えのトリックを知るには、違った視点からの記述を見るのが手っ取り早いでしょう。沖縄の「負担」については、日本の英字メディアでは burden を使っています。さらに、中国や韓国の英字メディアが contaminated water を使い続けているのをよく見かけます。日本政府が放出に際していくら安全性を主張しても、それをすんなりとは受け入れないでしょう。

英BBCの最近の記事に、下記のようだくだりがありました。

処理後、放射性粒子はほぼ国の基準を満たすと事業者(=東電)は述べている」(After treatment the levels of most radioactive particles meet the national standard, the operator said.

毎日、原発では地下水、海水、原子炉冷却用の水が混ざった100立方メートルの汚染水が発生していて、ろ過されてタンクに貯蔵される」(Every day, the plant produces 100 cubic metres of contaminated water, which is a mixture of groundwater, seawater and water used to keep the reactors cool. It is then filtered and stored in tanks.

記事は contaminated water を使いながら、 treated water は一度も使っていません。それでいて、しっかり「処理」には触れていて、これなら日本政府も文句がつけられないでしょう。工夫をすれば、当局の言いなりにならなくても済みます。頷きながら読み入った次第です。

(主宰講師・飯竹恒一)

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