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事例演習刑事訴訟法解答

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事例演習刑事訴訟法の参考答案です。
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事例演習刑事訴訟法 1.任意捜査と強制捜査

第1 小間1について
1 本件捜査は、写真撮影として五官の作用により対象を認識し、その私的領域に侵入する「検証」(刑事訴訟法(以下、略)218条1項)に該当するものであるが、令状の発付を受けることなく実施している。そこで、本件捜査は令状主義とならないか。「強制の処分」(197条1項但書)の意義が問題となる。
2(1)197条1項但書の趣旨は、国民の重要な基本的権利・自由を制約する処分について、厳格

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2 職務質問・所持品検査

1 K及びLの各職務執行は適法か。警察官職務執行法(以下、警職法)2条1項の規定に基づく職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為であるか問題となる。
2(1)まず、本件においてXとYは薬物密売の外国人が出没する通りを歩行していたところ、警察官の姿を見て急に向きを変えて、もと来た道を急足で戻り始めたことから、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは

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3 任意取調べの限界

1 本件取調べは、形式的には刑事訴訟法(以下、略)198条1項の任意同行後の取調べとして任意捜査の一環として行われている。そのため、「強制の処分」(197条1項但書)にあたれば、令状主義に反することとなるので違法となる。そこで、「強制の処分」の意義が問題となる。
(1)197条1項但書の趣旨は、国民の重要な基本的権利・自由を制約する処分について、厳格な要件手続きを明らかにすることで、国家権力の発動

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4 身柄拘束の必要性

第1 設問(1)
1(1)まず、Kによる現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下、略)213条、212条1項)は適法か。
ア そもそも現行犯逮捕が令状主義(憲法33条)の例外として許容される趣旨は、犯人が特定の犯罪を行ったことが明白であり誤認逮捕のおそれが少なく、緊急に逮捕する必要性が認められる点にある。そこで、①犯罪と犯人の明白性、②時間的場所的接着性が認められれば、現行犯逮捕として適法であると解する。

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5 身柄拘束の諸問題(2)

5 身柄拘束の諸問題(2)

1 捜査機関は、B、C事実によりXを逮捕・勾留することはできるか。
(1)ア 同一の被疑事実について複数の逮捕・勾留を同時にする、いわゆる重複逮捕・勾留となり許されないのではないか。重複逮捕・勾留は、不当な蒸し返しとなる恐れが高いことから、禁止される。
 そして、対象となる「一罪」とは、実体法上一罪を言うと解する。なぜなら、実体法上一罪を構成する事実は、相互に密接な関係があるため、分割して逮捕・勾

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6 身柄拘束の諸問題(3)

第1 設問(1)
1 本件は殺人の捜査を目的として、別件たる窃盗の令状・勾留状請求をし、逮捕・勾留しているが、これは許されるか。
(1)そもそも、逮捕状の表面から捜査機関の主観を裁判官が見抜くことは困難である。また、逮捕・勾留の要件は被疑事実について判断するものである。したがって、別件の逮捕・勾留の要件を満たしている場合、当該逮捕・勾留は適法である。
 もっとも、捜査官が専ら本件についてのみ取り調

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7 令状による捜索・差押え(1)

1 本件捜索に関して,令状には「同所に存在する者の身体及び所持品」との記載がある。かかる概括的記載は刑事訴訟法(以下、略)219条1項の要求する令状の特定に反し無効ではないか。その判断基準が条文上明らかでなく問題となる。
(1)法219条1項が捜索場所・押収目的物の特定を要求した趣旨は、令状審査に当たり、「正当な理由」(憲法35条)の存在についての令状裁判官による実質的認定を確保する点、及び捜索の

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8 令状による捜索・差押え(1)

8 令状による捜索・差押え(1)

第1 Bに対する捜索行為について
1 本件では東京本部事務所を捜索場所とする令状が発付され、その捜索がなされている。もっとも、当該捜索行為はBのズボンの中という身体捜索である。そこで、本件令状はBの身体との関係で関連性を有するか。
(1)ここでも、場所に対する令状発布の際の「正当な理由」の判断対象に身体が含まれているかという観点から検討をすべきである。
 刑訴法は、「場所」と「人の身体」を区別して

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9 令状に基づく無令状捜索・差押え(1)

9 令状に基づく無令状捜索・差押え(1)

1 Kの逮捕に伴う捜索・差押え(刑事訴訟法(以下、略)220条1項2号)は適法か。
(1)まず、無令状捜索差押えについていかに解するべきか問題となる。
 確かに、憲法35条が令状主義を原則と理解するならば、その例外を限定的に理解する緊急処分説の方が令状主義の趣旨に適合的であると言える。
 しかし、憲法35条は、令状による捜索差押えと逮捕に伴う無令状捜索差押えについて、原則例外の関係ではなく、並列の

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10 逮捕に伴う無令状捜索・差押え(2)

10 逮捕に伴う無令状捜索・差押え(2)

第1 設問(1)
1 本件捜索は刑事訴訟法(以下、略)220条1項2号より適法か。本件ではGを通常逮捕(199条1項)で「逮捕する場合」(220条1項柱書)の「逮捕の現場」(220条1項2号)である411号室で,そこにたまたま居合わせた第三者であるXに対して身体捜索している。
 かかる捜索場所にたまたま居合わせた第三者に身体捜索することを220条1項2号は許容されるか。
(1)そもそも、220条3

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11 おとり捜査

11 おとり捜査

1.Kの捜査手法は適法か。
(1)まず、本件捜査はおとり捜査に当たるか。
ア おとり捜査とは、捜査機関またはその依頼を受けた捜査協力者が、その意図や身分を相手方に秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するものである。
イ 本件では、捜査機関たる警察Kから依頼を受けたSがその逮捕の意図を秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方Xがこれ

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12 接見交通

12 接見交通

1  Pの本件接見指定は適法か。
 まず、乙は勾留され「身体拘束を受けている…被疑者」(刑事訴訟法(以下、略)39条1項)にあたる。そのため、「弁護人」甲と接見できる。
 そして、本件では未だ「公訴の提起前」(39条3項)である。
(1)ア.そもそも、接見交通権は弁護人依頼権(憲法34条前段)の保障に由来すること、及び被疑者の身体の利用をめぐる調整(203条以下)という接見指定の制度趣旨に鑑み、「

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13 一罪の一部起訴

13 一罪の一部起訴

第1 設問(1)
1 まず、本件では売却による横領(刑法252条1項)行為に先立つ、抵当権設定による横領を起訴していない。かかる一部起訴も事案の軽重・立証の難易等諸般の事情を考慮したもので、刑事訴訟法(以下、略)248条より許される。
 では、そのため、本件における訴因は売当行為による横領であるが、その訴因外の事実である抵当権設定行為による横領行為を主張できるか。
(1)当事者主義的訴訟構造の下、

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14 訴因の特定

14 訴因の特定

1 裁判所は、訴因変更を許可すべきか。訴因が特定されているか問題となる。
(1)訴因特定の趣旨は、審判対象を画定し、裁判所が他の事実から識別して審理を開始・進行できるようにした点にあり、その裏返しとしてその限度で防御範囲を明示し、被告人の不意打ちを防止する点にある。
ア.そうだとすれば、①当該訴因事実によって特定の構成要件該当性を判断することができ、②他の犯罪事実と識別できれば、訴因の特定があった

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