見出し画像

14 訴因の特定

1 裁判所は、訴因変更を許可すべきか。訴因が特定されているか問題となる。
(1)訴因特定の趣旨は、審判対象を画定し、裁判所が他の事実から識別して審理を開始・進行できるようにした点にあり、その裏返しとしてその限度で防御範囲を明示し、被告人の不意打ちを防止する点にある。
ア.そうだとすれば、①当該訴因事実によって特定の構成要件該当性を判断することができ、②他の犯罪事実と識別できれば、訴因の特定があったといえると解する。
イ.本件で、検察官は、「被告人Xおよび被告人Yは、共謀の上、平成25年12月30日ころ、東京都西多摩郡内の山林において、V(当時40歳)に対し、その頭部等に手段不明の暴行を加え、頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、よって、そのころ、同所において、同人を上記障害に基づく外傷性脳障害またはなんらかの傷害により死亡させたものである」との訴因を明示している。
 この訴因事実によれば、傷害致死罪という特定の構成要件該当性を判断することができる(①)。そして、たしかに、暴行の態様、傷害の内容、死因等が概括的記載ではあるものの、犯行の日時・場所、被害者について具体的な記述がなされており、被害者Vの死亡は一回限りであるから、他の犯罪事実との識別は可能である(②)。
ウ.よって、以上から訴因は特定されていると言える。
(2)もっとも、このような幅のある記載では、「できる限り」の要請に反しないか。
ア.この要請は、公判において裁判所が実際に審理をし、被告人が防御を行うためには、その対象ができる限り具体化されることが望ましい点からくるものである。そうだとすれば、幅のある記載は許されないわけではないが、それ以上の具体化が困難であるといえる特殊事情が必要である。
イ.本件で、暴行の態様、傷害の内容、死因等が概括的記載がある。しかし、本件においては、死体が白骨化しているため、正確な死因は不明であり、頭蓋骨骨折以外の傷害が存在したかどうかも不明である。また、頭蓋骨骨折は、木刀によって生じ得るが、手拳による強打だけでは生じ難いものの、被害者が点灯して頭部を岩などにぶつけたときには生じる可能性があった。さらに、被告人Yは、公判において供述を翻していることからも真実についての具体化は困難であったといえる。
ウ.よって、このような概括的記載ではあっても、「できる限り」の要請に反しない。
2 よって、以上から、訴因特定がなされていることから、訴因変更を許可すべきであると言える。
以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?