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8 令状による捜索・差押え(1)

第1 Bに対する捜索行為について
1 本件では東京本部事務所を捜索場所とする令状が発付され、その捜索がなされている。もっとも、当該捜索行為はBのズボンの中という身体捜索である。そこで、本件令状はBの身体との関係で関連性を有するか。
(1)ここでも、場所に対する令状発布の際の「正当な理由」の判断対象に身体が含まれているかという観点から検討をすべきである。
 刑訴法は、「場所」と「人の身体」を区別していること(刑事訴訟法(以下、略)219条,222条1項・102条)、両者のプライバシーは異質であること及びその被侵害利益はさらに大きいことからして,令状裁判官は場所の審査でそこに存在する人の身体は審査していないと考えるべきである。
(2)ア もっとも、その場合でも、着衣や身体に差押目的物・捜索対象を隠匿していることを疑うに足りる相当な理由が有る場合に,相当程度の強制力を行使してその妨害を排除し原状回復をおこなうことは「必要な処分」(222条1項,111条1項)として許容される。
イ 本件では、KはBがそわそわした態度で立ち上がり、パソコンから何か取り出してポケットに突っ込み、事務所入口から逃げ出したのを目撃している。パソコンから取り出し、ポケットに入る大きさであることからして、差押対象であるUSBであり、それを隠匿していることを疑うに足りる相当な理由がある。
 そして、Kは100メートル離れた地点で本件行為に及んでいるが、これもBが逃げたからである。またUSBを回収するに際して、多少の押さえつけ行為もしているが、これもBが逃げている以上、それを制止する手段で、暴行なども特段なく相当程度の強制力の行使であったといえる。
 そのため、当該行為は「必要な処分」として許される。
2 よって、Bに対する捜索行為は適法である。
第2 差押行為について
 帳簿の差押は,令状記載物件であるし、その内容も被疑事実に関係する記載が有る以上、関連性が有り、218条1項より適法である。
 フロッピーのUSBをディスプレイ表示したのは、その内容を確認し差押の関連性判断をするためで、差押に「必要な処分」だったといえ、適法である。
1 もっとも、その後USB3本についてその内容を確認することなく差し押さえている。
差押えは、差押えの理由として対象が「証拠物又は没収すべき物と思料するもの」であること(222条1項、99条1項)が認められ、差押えの必要として当該差押えが「犯罪の捜査をするについて必要がある」こと(218条1項)が認められた場合に、実体的要件を充たすといえる。もっとも、電磁的記録媒体はそのままでは可視性・可読性がなく、その外観からは被疑事実との関連性を判断することができない。そうだとすれば、その記録内容を確認せず差押えをすることは認められないのではないか。
(1)この点、捜索の際に法(憲法35条、刑訴法218条1項)が令状の取得を求める趣旨は、捜査機関から独立の第三者たる裁判官による、具体的な対象につき捜索差押えを行うだけの「正当な理由」が存在するか否かの事前審査を行い、捜索差押対象及び範囲を特定・明示した令状の発付を通じて正当な理由に基づかない捜索差押えを防止することにある。
 ここにいう「正当な理由」とは捜査現場の状況を踏まえた具体的な捜査上の利益と、対象者の不利益の衡量によって決定されるものであって、一義的に決まるものではない。とすれば、被疑事実との関連性の存在が認められずとも差押の「正当な理由」が肯定される場合も考えられる。
 そこで、①差押目的物である電磁的記録媒体の中に被疑事実に関する証拠が存在する蓋然性が認められ、②実際にそのような情報が存在しているか確認することが困難な事情が認められる場合には、例外的に記録内容を確認することなくこれらを差押さえることができると解する。
(2)本件では、USBやフロッピーはそれ自体、無限連鎖講の情報が管理される可能性のある機器である。そして、いずれも犯行現場から発見されたもので、USBはBが持ち出していた。そうだとすれば、内部にはやましい、すなわち、証拠情報が存在している可能性が有る。また,その前に確認したUSBが情報消去加工されていたことからして、証拠情報が存在していた可能性が有る。そして、今回差し押さえているUSBも同様に情報が存在している可能性が有る。
 そのため、被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる(①)。
 また、Bが現にUSBを持ち出していること、情報消去措置が取られていたことからして、中身を確認していれば同様に情報が消去される可能性がある。そのため,その場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるといえ、中身の確認が困難な事情がある(②)。
2 以上から、関連性が肯定され、差押は適法である。
 なお、かかる関連性判断は差押時に要求されるもので、事後的に内容確認し判明した事情は結論を左右しない。
 また、未使用のUSBについても還付しているので問題ない。
以上

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