6 身柄拘束の諸問題(3)

第1 設問(1)
1 本件は殺人の捜査を目的として、別件たる窃盗の令状・勾留状請求をし、逮捕・勾留しているが、これは許されるか。
(1)そもそも、逮捕状の表面から捜査機関の主観を裁判官が見抜くことは困難である。また、逮捕・勾留の要件は被疑事実について判断するものである。したがって、別件の逮捕・勾留の要件を満たしている場合、当該逮捕・勾留は適法である。
 もっとも、捜査官が専ら本件についてのみ取り調べる目的で別件逮捕・勾留を行なっている場合には、別件について逮捕・勾留を行う必要性を欠くとして、別件逮捕・勾留は違法になると解する。
(2)本件逮捕・勾留は形式的には,逮捕の理由(刑事訴訟法(以下、略)199条1項)、逮捕の必要性(199条2項但書,規則143条の3)、勾留の理由(207条1項,60条1項)、勾留の必要性(207条1項,87条1項)等の要件を満たしている。
 また、Kは、検察官から、勾留中は窃盗事件についてのみ捜査・取調べをするよう指揮を受けたため、予定した殺人事件についての捜査・取調べをするよう指揮を受けたため、予定した殺人事件についての捜査・取調べは、全く行っておらず、専ら窃盗事件についての取り調べを行った。
2 そうだとすれば、本件での捜査は適法である。
第2 設問(2)
1 本問では、Xを主として殺人事件について取り調べている。そこで、余罪取調べの適否が問題となる。
(1)198条1項但書の反対解釈より、身体拘束の効果として被疑者が取調室への出頭義務・滞留義務を負うと考える。そして、法が、逮捕・勾留に関し事件単位の原則を採用した趣旨からすれば、取調受忍義務は被疑事実となった事件についてのみ負うと考える。したがって、余罪取調べは原則として取調受忍義務が生じず、許されない。
 しかし、事件単位原則を厳格に及ぼすと、関連事件について逮捕・勾留を繰り返さざるを得なくなり、被疑者に不利益を与えてしまう。そこで、逮捕・勾留の基礎となる別件と余罪との間に密接な関連性があり、余罪に関する取調べが本件における取調べにもなる場合などには、例外として許容される。
(2)本件では、逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実たる窃盗事件と余罪たる殺人事件との間に関係性は見いだせない。また同種事案ということもできない。したがって、任意での取り調べでない限り、違法である。
2 では、余罪取り調べの違法が逮捕・勾留の違法に影響を及ぼすか。
(1)そもそも、余罪取り調べはあくまで取り調べの違法性を問題にしているだけであり、別件逮捕・勾留自体の適否とは別のものである。したがって、逮捕・勾留と切り離して考えるべきであるから、余罪取り調べの違法は逮捕・勾留の違法を導かない。
(2)以上より、取調は違法であるが、逮捕・勾留は適法である。
以上

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