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9 令状に基づく無令状捜索・差押え(1)

1 Kの逮捕に伴う捜索・差押え(刑事訴訟法(以下、略)220条1項2号)は適法か。
(1)まず、無令状捜索差押えについていかに解するべきか問題となる。
 確かに、憲法35条が令状主義を原則と理解するならば、その例外を限定的に理解する緊急処分説の方が令状主義の趣旨に適合的であると言える。
 しかし、憲法35条は、令状による捜索差押えと逮捕に伴う無令状捜索差押えについて、原則例外の関係ではなく、並列の関係と理解していると解することも可能である。
 しかも、無令状捜索差押えにおいて省略されている令状審査は蓋然性審査であるところ、緊急の必要性の存在が蓋然性審査に代替する事情になるとは考え難い。
 そこで、相当説によるべきである。
(2)次に、本件でのKの捜索差押えは現行犯逮捕に基づきなされていることから、「逮捕の場合」になされたと言える。
(3)もっとも、現行犯逮捕は、X方の応接間でなされたのに対し、捜索は、応接間以外に書斎・寝室等全ての部屋にまで及んでいる。そこで、これは「逮捕の現場」と言えるか。
ア そもそも、220条3項が、無令状の捜索・差押えを認めた趣旨は、逮捕の現場には逮捕に係る被疑事実に関連する証拠存在の蓋然性が一般的に認められるところ、裁判官による事前の司法審査を経る必要性は低いことにある。
 そこで、「逮捕の現場」とは、令状発布を受ければ捜索できる範囲をいう。具体的には、逮捕の場所と同一の管理権の及ぶ場所及びそこにある物について捜索が許される。
イ 本件で、書斎・寝室等の全ての部屋はX方の部屋であり、Xによる管理権が及んでいる。
ウ よって、「逮捕の現場」での捜索がなされたと言える。
(4)では、Kの差押え物品について、差押えの物的範囲内であるか。
ア 前述のように、220条3項が、無令状の捜索・差押えを認めた趣旨は、逮捕の現場には逮捕に係る被疑事実に関連する証拠存在の蓋然性が一般的に認められるところ、裁判官による事前の司法審査を経る必要性は低いことにある。
 このように、逮捕の現場には「被疑事実に関連する証拠」が存在する蓋然性を前提としているところ、差押えの対象物は被疑事実と関連する証拠物に限られる。
イ 本件での現行犯逮捕は覚醒剤所持を被疑事実とするものであるところ、天秤、注射器、ビニール袋はいずれも覚醒剤の分量を測ったり、使用に供したり、所持に供したりすることがままある物品である。そのため、被疑事実に関連する物品であると言える。
ウ よって、差押えの物的範囲内といえる。
2 よって、以上からKの捜索差押えは適法である。
以上

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