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物書き。東京に住んでいた外国人。 小説、脚本、エッセイ、日常の風景。 外国人の変な文章…

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物書き。東京に住んでいた外国人。 小説、脚本、エッセイ、日常の風景。 外国人の変な文章ですが、大目に見てください。 楽しんでいただけると嬉しいです。

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  • 短編小説

    気軽に読める短編小説。昔のものから最新のものまで、PCの中に眠っていたものを取り出してお届けします!

  • 【短編小説・シリーズ】セラセラハウス

    ある都市、ある街のありふれたマンション「セラセラハウス」。そこに住んでいる住民24人の話をお届けします。シリーズですが、一話ずつ完結なので、どこから読んでも大丈夫です!

最近の記事

【短編小説】MISSING 3.どこにもいない人、Nowhere Man

遅い梅雨が始まった。今日も朝からざあざあと雨が降り出した。翼が濡れるとこんなに重いとは知らなかった。羽が乾く間もなく雨が降る。雨が止んでいる少しの間も、空気は湿気を含んでいる。体が弱ってきていた。 そのまま屋上に身を潜めて一日を過ごしたが、結局家に帰ることはできなかった。家には黄色い帯が張回され、警察が最低一人、常にその場を監視していた。住民たちは僕が人を殺したと言った。誰かは僕が行方不明になったと言った。また違う誰かは僕が自殺したとも言った。それもそうで、ここ数か月間僕を見

    • 【短編小説】MISSING 2.失踪、Missing

      その日以来、夜の空を飛ぶ日が多くなった。都会の夜は眠れない人も多いけど、ある瞬間になると、みんな眠りにつく。待っている間、そのような瞬間は必ず一度はやってきた。都市の夜は相変わらず美しかった。一つずつ街の明かりが消えて、まだ眠っていなかった窓の明かりも全て消える。その時が、僕が一日を始める時間だ。夜が明けるまではわずか1、2時間しか残っていないが、僕は外出の準備をする。 そうしている間、翼は少しずつより元気になって輝いていた。空を飛びことも一層楽になり、夢のように角度を調整し

      • 【短編小説】MISSING 1.翼、Flying

        空を飛ぶ夢を見る。それはどういう意味だろうか。重力を軽く遡って空を飛ぶ。空気が割れて髪の毛がひらひらとなびく。そして夢は青色に変わる。視界の中には青空が果てしなく続くだけだ。朝になって目を覚ますと、窓の外に青空が見える。生まれたての空だ。一晩中、僕はあそこを飛び回っていただろうか。ぼうっとしているうちに、また眠りにつく。そしてまた空に飛んでいく。ゆらゆら… この頃は眠りにつくのが怖い。睡眠の通路に足を踏み入れた瞬間、必ず現われるその青色がうんざりするほど長い。起きると肩が痛

        • 【短編小説シリーズ】セラセラハウス 105号室:好雨

          105号室 好雨 ポツンポツンと雨が降り始めた。居月涼介はカッパを取り出そうかと迷ったが、もうすぐ着きそうでそのままペダルを漕いだ。23時を過ぎた住宅街には人影もなく、雨音だけが静かに道を叩いていた。配達用のバックが濡れる前に届けないと。自転車を漕ぐ涼介の足に力が入った。 涼介は目的地に着いて、もう一度マンション名を確認した。そう言えば、先通り過ぎる時見たら、近くの駅前にも同じチェーン店があったのに、なぜ隣駅のチェーン店に注文したのかよく分からなかった。まあ、涼介とは関係

        【短編小説】MISSING 3.どこにもいない人、Nowhere Man

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        • 短編小説
          7本
        • 【短編小説・シリーズ】セラセラハウス
          6本

        記事

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス 104号室:お見合い

          104号室 お見合い 鏡の中にスーツ姿の中年男性が立っている。紺色のスーツにグレーのストライプ柄のネクタイまでつけている。身体は54歳の割にすらっとしている。お腹も出ていない。どちらかというと、細身でしっかりと筋肉がついている方だ。それは、仕事柄、30年以上肉体労働を続けているからでもある。今着ているスーツも10年前のものだが、滅多に着る機会がないので新品のような状態だった。10年前と体格が変わっていないことに、平石正人はほっとした。 しかし、顔だけは10年分肌が黒くなっ

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス 104号室:お見合い

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス 103号室:BREEZE * FREEZE

          103号室 BREEZE * FREEZE あの人から電話がかかってきた。電話というより、メッセンジャーからの通話だった。そういえば、未だに彼の電話番号も知らない。大塚有海は今更そのことに気が付いた。 『何してるの?』 ちょうど帰宅して玄関のドアを閉めるところだった。入って右側にある姿見鏡の中に映っている有海は濡れていた。冬の雨は寂しい。心の中で独り言を言いながら、今日は初雪が降ると、声を弾ませて天気予報を伝えていたお天気お姉さんの言葉を思い出した。コートから雨粒がぱら

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス 103号室:BREEZE * FREEZE

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス 102号室:三つ子の料理教室

          102号室 三つ子の料理教室 どうもー みっちゃんです!三つ子の末っ子だからみっちゃん、そろそろ覚えた?(部屋の奥でカメラを回しているいっちゃんにスマホを向けて)長女のいっちゃん!(自称監督を勤めている目の前のふうちゃんにスマホを向けて)次女のふうちゃん!(撮らないでと言わんばかりに手袋が飛んでくる)、はいはい(自分にスマホを向けて決め顔)三女のみっちゃん! というわけで、今日は特別企画として、三つ子の姉妹が集まってお届けしてまーす!今日の料理教室のテーマは「おうちの変わ

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス 102号室:三つ子の料理教室

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス 101号室:名前のない猫

          101号室 名前のない猫ねーねー 彼女の声が聞こえて目を覚ました。昨夜飲みすぎたせいか頭が回らない。ここはどこだっけ。カーテンは見慣れた淡い青。ああ、お家だ。よかった。ちゃんと帰ってきたんだ。慌ててベッドの隣を確認した。見知らぬ女の子も連れてきていない。よかった。 ねー また僕を呼ぶ声。1週間ぶりかな。先週は飲み屋を転々しているうちにどこかで出会った見知らぬ女の子を連れてきたのを彼女にばれてしまった。それから彼女は来てくれなかったのだ。ごめんね。 ねー 「はーい、いるよー

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス 101号室:名前のない猫

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス プロローグ:引っ越し

          プロローグ 引っ越し駅からまっすぐ4分ほど歩いて、右に曲がって4分ほど歩くと、承和色(そがいろ)の3階建てのマンションが現れる。路地から見える3階の角部屋の窓は、今日もオレンジ色の光を発している。この暗い地球の街角に光る四角のお月様のように。18時32分。帰宅時間が早いのか、在宅勤務が続いているのか、毎日この時間その窓はオレンジ色に染まっている。301号室。当然のことながら誰が住んでいるかは分からないけど、遠くから見えるその光に、「あ、うちに着いた」と思う住民も結構いるらしい

          【短編小説シリーズ】セラセラハウス プロローグ:引っ越し

          【短編小説】Re: 2046 – SUPERSONIC

          Re: 2046 – SUPERSONIC* 映画「2046」では、失ってしまった記憶を取り戻すために2046に向かう列車に乗る。 「記憶をなくすためには、どの列車に乗ればいいですか?」 女の子に声をかけられた。夜の風が当たる彼女の首元が寂しそうに見えた。 「6番トラックですけど… 本当に乗りますか?」 彼は駅員の帽子をそっと持ち上げながら、好奇心溢れる顔で彼女に聞いた。なぜなら、みんな失った記憶を探して2046に向かう列車に乗りたがるだけで、6番トラックの名前のない

          【短編小説】Re: 2046 – SUPERSONIC

          【超短編小説】買い物

          買い物  彼女は裸のまま市場に並べられていた。 生くさくて鋭くて青い魚たちと一緒に。 白い肉を剝き出している豚たちと一緒に。 豚たちは死んで、魚たちは死んでいって 彼女一人だけが生きて苦しい息を伸ばしていた。 跳ねる魚の鰓の呼吸のように 彼女の胸がぴょンぴょン跳ねていた。 彼に会うまでは この息が切れないように 彼女は願っていた。 生きているこの心臓を彼にあげなきゃ。 夕方になって、買い物に出た彼は 死んだ魚たちと豚たちと彼女を通り過ぎた。 突然、彼は不意打ちを食らわせ

          【超短編小説】買い物

          【短編小説】Slow Happy

          Slow Happy ここ一年間、付き合ってもいない彼と三回別れた。春、夏、秋。季節ごとに一回ずつお別れをしたわけだ。そして、本当の最後となる四回目のお別れのために、ハンナは鏡の前に立って、一番色の明るいコートを着た。そう。いつの間にか冬になっているのだ。四季のある国だから四回別れるのだと、鏡の中のハンナが面白いことでも見つけたかのように笑っていた。 「あ、プレゼント!」 ハンナはしばらく前からキッチンボードに置いておいたプレゼントをカバンの中に入れた。これで準備完了!鏡の

          【短編小説】Slow Happy

          【短編小説】君の意味

          君の意味君は夜の宇宙船に乗っていた。目の前にはもうすぐ散ってしまいそうな星たちが瞬いていて、君はいつか地上で見たことのある花びらの雨を思い出した。真っ黒でひっそりとした空間にさらさらと星の花びらが散らばっていた。ここですれ違うともう二度と会うことはできないと、星たちも君も分かっていた。 なぜここにいるのだろう、君は思った。音も追憶もない世界に、一人でぽつんと。なぜ君だけがここにいるのだろう、君は思い続けたけど、消された記憶は君に何の答えもしてくれなかった。 何かヒントがほ

          【短編小説】君の意味