見出し画像

ショートショート 「新入社員のガチャ」


ハズレだった、新入社員になってまず感じたことだった。


配属ガチャハズレ、都内勤務を希望していたのに地方勤務になった。上司も先輩も四、五十代のおじさんばかり、それと太った四十代おばさん社員が一人。仕事中は終始無言で雰囲気は葬式のようだった。

就職パンフレットに載っていた明るい雰囲気を期待していたのにガッカリだった。


上司ガチャハズレ、上司は仕事を任せっぱなしで指示も大雑把、言葉づかいも荒く、やっとけ、まとめとけ、早くしろが口癖。部下の失敗の責任も取らない、慰めもしない、人によって態度も変える。理想の上司とはかけ離れたていた。

優しく慰めてくれて、なんでも丁寧に教えてくれて、責任感のある上司がよかった。頼りなくて不安ばっかりだ。

アタリかもしれない、三ヶ月経ってまず感じたことだった。


配属ガチャアタリかも、地方勤務も悪くない、なんとなく地元に似て静かで、爆音宣伝カーも人混みなくて両手を広げて歩ける。上司も先輩も歳が離れすぎているから、親戚のおじさん感覚で気軽に話せる。変に歳が近くなくてよかった。

最初の頃よりも雰囲気は少し明るく親戚の集まりみたいで、少し楽しい。

上司ガチャアタリかも、仕事を任せれぱなしのおかげで思ったりよりも早くこなせるようになった。責任を取ってもらうような失敗も少ない、取引先の理不尽な暴言や態度の変化にも動じずに取引件数を伸ばせた。

仕事を任せてくれるから、やりがいがあって仕事が楽しくてしょうがない。


アタリだった、一年経ってまず感じたことだった。


一年経って気づいた、ハズレだと思っていたガチャがアタリだった、不安や恐怖でいっぱいだった新人の頃には思いもしなかった。

仕事ガチャは、引いてからじゃないとわからない、中身を見てからじゃないとわからない、よく確かめないとわからない、時間が経たないとわからない。

結構面白いガチャだった。

そろそろ、新入社員がやってくる、ハズレかな、アタリかな、どっちでも構わない。




時間を割いてくれてありがとうございました。

この記事が参加している募集

私の作品紹介

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?