短編小説 「パンを踏んだ娘:ブレンダ」
小さな村の中心に住む少女、ブレンダ。その美しさは村中の注目を集めていた。金色の髪は太陽の光を受けて輝き、透き通るような青い瞳はまるで宝石のようだった。彼女の美貌は村を超えて町中にも広まり、誰もが一目見ようと足を運んだ。
ある日、町の富豪が彼女の噂を耳にし、実際にその美しさに魅了された。富豪は彼女をメイドとして雇うことを決めた。「これがあなたの新しい仕事服よ」と富豪夫人は、上質な生地で作られた美しいメイド服をブレンダに手渡した。布の触り心地は柔らかく、まるで雲を纏うようだった。
ブレンダはその服を身にまとい、町に出るたびに男たちの視線を一身に集めるようになった。彼女が通りを歩くたび、男たちは息を呑み、心を奪われたように見つめた。その中には求婚を申し込む者も少なくなかったが、ブレンダは彼らに目もくれず、冷たく唾を吐き、暴言を浴びせるのだった。
「なんて醜い人たち」と彼女は心の中で嘲笑した。「私が求めるのはもっと高貴な存在よ」と。彼女の心には、自分の美しさへの誇りと他人を見下す冷酷さが刻まれる。彼女の美しさはますます際立ち、その傲慢な態度も一層際立った。しかし、その冷たさは誰にも止められなかった。ブレンダは美しさに恵まれながらも、その美貌を使って他人を踏みつけることに喜びを感じていたのだった。
ある日、里帰りをするブレンダに富豪夫人が丁寧に包んだパンを手渡した。「これを家族と一緒に食べなさい」と、優しく微笑みながら言った。しかし、ブレンダはそのパンに一瞥をくれただけで、無愛想にうなずきながら受け取った。
帰り道、空は曇り、風が冷たく吹きつけていた。ブレンダは新しいメイド服を汚さないように注意しながら歩いていたが、ふとした瞬間、ぬかるみに足を取られた。苛立ちとともに彼女は持たされていたパンを放り投げ、その上に飛び乗った。「こんなもの、ただの泥よ」と言い放ち、パンが沈むのと同時に、彼女の体も次第に深い闇に吸い込まれていった。
ブレンダが意識を取り戻すと、そこは暗闇に包まれた地獄だった。周囲には冷たい風が吹き、恐ろしい地獄の住人の目が赤く浮かびあがっていた。彼らの目には飢えと渇望が宿り、その視線がブレンダを貫いた。
地獄の住人たちは、ブレンダを無慈悲に裸にし、おもちゃのように弄び始めた。彼女の美しい金色の髪は乱れ、透き通るような青い瞳にも恐怖と怒りの色が浮かんだ。
「こんな場所にいるべき人間じゃない」と彼女は心の中で叫んだ。自分の美しさへの誇りが、彼女の心を支え続けた。地獄の住人たちの醜さと冷酷さを見下しながら、彼女はなおもその美しさにしがみついていた。
彼女の周りを取り囲む地獄の住人たちは、彼女の傲慢さに苛立ちを感じながらも、その美しさに引き寄せられていた。彼らはブレンダをますます激しく弄び、彼女の心と体にさらなる苦痛を与え続けた。
しかし、ブレンダの心の中には、他人を見下す冷酷さと自分の美しさへの固執が残り続けた。彼女の苦しみは終わりを知らず、その美貌が地獄でも輝き続けることを信じていた。地獄の住人たちにとって、彼女の美しさは同時に憎しみの対象でもあり、彼らは彼女を破壊することで満足感を得ようとしていた。
一方、地上では、ブレンダの墓が建てられていた。そこに一人の心優しき少女が毎朝訪れ、涙を流しながら彼女のために祈りを捧げていた。「どうか、ブレンダが天国に行けますように」と願うその声は、響き渡り、やがて天国の神々の耳に届いた。
少女の純粋な願いを聞き入れた神々は、彼女の祈りを尊重し、ブレンダに天国への道を示した。その瞬間、地獄の暗闇の中に一筋の光が差し込み、ブレンダの前に天国への扉が現れた。
しかし、地獄での生活にすっかり慣れ切っていたブレンダは、その光に目を細めながらも一歩も動かなかった。
「ブレンダ、天国へ行けるのよ」と、光の中から天使が優しく呼びかけた。しかし、ブレンダは首を横に振り、その誘いを断った。「ここが私の運命なのよ」と彼女は冷たく言い放った。
彼女の美しい姿は、地獄の暗黒に染まる中で徐々に変わり果てていった。かつての金色の髪は煤にまみれ、輝いていた青い瞳は光を失い、全身は無数の傷と汚れで覆われていた。それでも彼女は微笑みを浮かべ、「これが私、ブレンダよ」とつぶやいた。
ブレンダの選択は、自らの美しさを捨て去り、地獄の住人たちと共に生きることであった。地獄の住人たちは彼女を受け入れた。
ブレンダは地獄の住人たちと共に暮らしながら、少しずつ変わりゆく自分の姿を受け入れた。そして、地上の少女の祈りを心の中に秘めながら、地獄での新たな生活を始めたのだった。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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