短編小説 「オオカミ少年」
「母さん、空にUFOが飛んでるよ!」
「二十歳になってまで嘘をついてはいけません。UFOなんて存在しないの。嘘ばっかついてるとオオカミ少年になっちゃうよ」
母は僕が幼い頃から虚言癖があると心配していた、僕が口を開けば空にUFOがいるとか、物陰には小人がいるとか言っているから、嘘ばかりついていると他人から信用されなくなってしまう事を心配している。
確かに僕は嘘ばかりついているが、他人に嘘をついた事はない。嘘をつく相手は母だけと小学生の頃から決めている。本当の事も母にしか言わないと決めている。
「いや、本当なんだって空を見てよ」
「どこなの?」
「いなくなっちゃた」
「さすが、天才漫画家さんは嘘がお上手ね」
嘘ばかりつく僕に母は漫画家にでもなったらと小学二年生の頃に言われて、その時に初めて僕は自分の嘘を物語にして絵を描いて漫画にした。その漫画を母に見せたら大喜びされた。生まれて初めて嘘を喜んでもらえて、また喜んでもらいたいと思ってそこから僕は漫画家を目指した。そして、十九歳の時に月刊連載を始める事ができた。
「本当にUFOいたんだってば〜」
「あなたの嘘を喜んでもらえる人は沢山いるんだから、もうお母さんに嘘をつくのは卒業して」
「とっくに卒業してるよ。本当にUFOがいたんだってば〜」
「どんなUFOが飛んでいたの?」
母はいつも僕の嘘を否定はするけど、僕の嘘には付き合ってくれる。その事が僕の漫画家としての能力を引き上げてくれたのかもしれない。だけど、今回は嘘ではなく本当にUFOが飛んでいたんだ。
「あーその〜星亀星人が乗る、亀のようなUFOだった」
「連載で疲れてるんじゃなの?そのUFOはあなたの漫画に出てくるUFOじゃない」
「う〜ん、だけど本当に飛んでいたんだ」
「もうすぐで日が暮れちゃうから帰るわよ」
「はい」
確かに、空にUFOが飛んでいたんだけど、空にUFOが飛んでいるって言葉は僕が幼い頃からよく言っている嘘だから母は信じようとはしない。だけど、本当にUFOは飛んでいた。
ドンッ!
「痛っ!母さん急に止まらないでよ」
「ツバサ、星亀星人が地球にやってくる目的ってなんだっけ?」
「えっ?地球人を変身ビーム光線で亀にして、星亀星人の代わりに星ザメ星人の餌にする事だけど……なんで急にそんな事を?」
「あれ」
母が指を指す方向を見るとそこには星亀星人が人にビームを当て、亀に変身させていた。
「ツバサ!走って逃げるわよ!」
「えっ?待って!」
「なんで、あんたの漫画の宇宙人が現実にいるのよ」
「知らないよ!でも、やっぱりさっき見たUFOは嘘じゃなかったでしょ!」
「嘘であって欲しいわよ。あんたの漫画だと地球の人口の半分は亀にされて食べられちゃうでしょ」
「あーそうだね、とにかく逃げよう」
終わり。
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