短編小説 「ドラキュラはトマトがお好き」
かつて村人から恐れられたドラキュラ伯爵がいた。だけど、彼には一つ、人知れずの悩みがあった。
ドラキュラ伯爵、血が大の苦手。彼の体は、血を吸うとたちまちかゆい蕁麻疹に包まれてしまう。もちろん、彼も普通のヴァンパイアと同じく血を好む心は持っている。でも、その度に体がかゆくなり、蕁麻疹が出て、とても辛いのだ。
名はヴラド。彼が大好きなのは、トマトジュース。血よりも濃厚で、その赤い色合いがなんとも心をくすぐるからだ。
ヴラドは夜な夜な村のトマト畑を歩き、赤く熟れたトマトを摘み取っては、城で一人、美味しいジュースにして楽しんでいた。彼の城には、無数の色とりどりのトマトで壁や天井に飾られ、それが彼の顔をいつも明るくしていた。
しかし、村人たちはヴラドを恐れ、避けていた。ヴラドが血を吸わないことを知る者はいなかったからだ。
ある晩、一人の小さな女の子がヴラドの城を訪れた。彼女の名はエラ。村のトマト畑の隣の家に住んでいる女の子。 エラはヴラドがこっそりとトマトを摘むことを知っていた。でも、彼がトマトをこんなに愛しているのならと、許していた。エラは、自分が育てた一番美味しいトマトをカゴいっぱいに詰め、彼にプレゼントした。
ヴラドは少しびっくりし、でもエラの無垢な笑顔に心を打たれ、彼女を城に招いた。エラはヴラドに手作りのトマトジュースを作ってみせ、ヴラドもそれに応えて彼女のために美味しいトマトディッシュを作った。
そして、エラがヴラドの城を訪れ始めてから、村人たちの彼に対する見方も徐々に変わり始めた。彼が恐ろしいヴァンパイアではなく、ただトマトを愛している、ちょっと変わった伯爵であることを、彼らは理解し始めたのだ。
そしてヴラドも、村人たちと少しずつ交流を持つようになった。彼は村の子供たちに、自分の畑で採れた新鮮なトマトを分け与え、楽しいトマトパーティーを開いた。
エラと村人たちとのふれあいを通して、ヴラドは外の世界の温かさに気づいた。
時間を割いてくれて、ありがとうございました。
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