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短編小説 「月に咲く花の香り」


月に咲く白い花の話を聞いた僕は、興奮していた。

ジィバアが月夜について語る声には、いつもと違う神秘的な響きがあった。その花はどんな香りがするのだろう?どんな形をしているのだろう?そんな疑問が頭を巡って、胸がときめいていた。

「ブースターに会いに行かなくちゃ!」僕は小さな部屋を飛び出し、隣の町へと向かった。ブースターはいつも飛ぶものを作っている。月に行けるロケットなんて、きっと彼なら作れる。

町を抜け、森の小道を行くと、ブースターの工房が見えてきた。ドアをノックすると、中から物が落ちるような大きな音がしてドアが開いた。「おお、コロン!久しぶりだな。何の用だ?」黒ひげを生やしたブースターが出てきた。

「ブースター、僕、月に行きたいんだ!ジィバアが月に咲く白い花の話をしてくれて、それを見に行きたいんだ!」僕は一気に言葉を並べた。

ブースターは少し驚いた顔をしてから、にっこりと笑った。「月に行きたいだと?面白いな、お前は夢が大きい。いいだろう、ちょうど新しいロケットの設計を始めたところだ。一緒に作ろうじゃないか」

そうして、僕とブースターの大冒険が始まった。ブースターの工房は、夢と可能性で溢れていた。壁一面には設計図が並び、いろいろな部品が散らばっている。僕はその中で一番輝いているパーツを拾い上げた。「これは何に使うの?」

「ああ、それはエンジンの一部だよ。これがあれば、もっと速く、遠くへ行けるんだ」ブースターは嬉しそうに説明してくれた。

日々、僕たちはロケット作りに没頭した。時には失敗も重ねたが、それでも前に進むことをやめなかった。そして、ついにロケットが完成する日が来た。「これで、月に行けるんだね?」僕は期待に胸を膨らませながら聞いた。

「そう、これで月に行ける。でも、安全第一だからな。試験飛行を何度か行って、すべてがうまくいくことを確認しなくちゃ」ブースターは真剣な表情で言った。

試験飛行の日、僕はドキドキしながらロケットの横で待っていた。ブースターがコックピットに入り、エンジンがほえる音がした。そして、ロケットはゆっくりと持ち上がり、空へと昇っていった。僕はその光景に感動して、涙が出そうになった。

「成功だ!」ブースターがロケットから降りてきて、僕を抱きしめた。「次は本番だ。お前も準備を整えろ」

そして、ついに本番の日がやってきた。僕たちは月に向けてロケットに乗り込んだ。宇宙空間を進む感覚は、何とも言えない不思議な感覚だった。そして、月が近づくにつれて、僕の心も躍り出した。

月面に降り立った時、僕たちは手を取り合って歩き始めた。そして、そこには本当に、白くて繊細な花が咲いていた。「ジィバアの話した通りだ……」僕は感激して、その花をそっと触れた。

月の花は、地球の花とは違う、不思議な香りがした。溶接をしたときのような香り。僕たちはその花を前に、夢見た旅の終わりを感じた。それは、始まりの終わりでもあった。僕たちの冒険はまだまだ続くのだから。




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