恋愛短編小説 「桜と梅」
桜が咲けば、梅は散る。
恋も同じだった。
誰かが恋をすれば、失恋する者もいた。そんな春の日のことだ。
「やっぱり、桜はいいなぁ」と、僕は満開の桜の木の下でため息をついた。隣には、長年の友人であるユウが座っていた。彼女はいつものように、照れくさそうに笑っていた。
「でも、梅の花もきれいだよ。桜ばかりが注目されるけど、梅が散ってから桜が咲くんだから、梅も大事だよね」とユウは言った。
「そうだね。でも、なんだか恋みたいだよな。新しい恋が始まると、古い恋が終わる。いつもその繰り返し」と僕は少し寂しげに言い返した。
ユウは少し考え込むように黙ってから、ぽつりと言った。「でもね、そのたびに人は成長してるんじゃないかな。失恋も新しい出会いも、全部が自分を形作る一部だよ」
「うん、その通りだね」と僕は答え、ちょっと考え込んでしまった。僕も昨年、大好きだった人にフラれて、それから恋愛から遠ざかっていた。だからユウの言葉が身に沁みた。
「ユウ、ずっと思ってたんだ。僕たちって、いつも一緒にいるけど……」
「え?」ユウが驚いた顔で僕を見た。
「いや、何でもない」と僕は言葉を濁した。本当は「好きだ」と言いたかった。
でも、友情を壊すのが怖くて、言えなかった。
ユウは少し察したように僕を見て、「ねえ、桜の下で何か言いたいことがあるんでしょ?昔から桜の下で願い事をすると叶うって言うしね」と励ますように言った。
「本当に?」僕は少し勇気を出して、深呼吸をした。そして、思い切って言った。「ユウ、実はずっと……お前のことが好きだったんだ」
ユウは少し驚いた後、優しい微笑みを浮かべた。「ありがとう。私も……実はね、同じように思ってたよ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かが弾けた。まるで桜の花びらが風に舞い上がるように、心が軽くなった。
「本当に?」と僕は言った。
「本当よ。だから、今まで言えなかったの。友達としての関係を壊すのが怖くて」とユウは目を伏せた。
「ユウ、これからもずっと一緒にいようね」と僕は言い、彼女の手を握った。
「うん、ずっと一緒にいよう」とユウも僕の手をしっかりと握り返してくれた。
桜の木の下で、新しい恋が始まった。古い友情が恋に変わり、僕たちは新しい一歩を踏み出した。それは、恋も人生も、何もかもが循環していることを象徴しているようだった。桜が咲き、梅が散るように、何かが終われば、必ず何かが始まる。そうして人は、一歩一歩前に進んでいくのだ。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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