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短編小説 「その日、ナプキンを盗んだ」


その日、私はナプキンを盗んだ。ドラッグストアの生理用品の棚から、かさばらない小さいやつをカバンに入れた。グミとみかんジュースとウェットティッシュをセルフレジで会計を済ませて外に出た。ナプキンなんてたいした値段じゃない、買えるだけのお金もあったし、パパに頼めば買ってくれた。だけど私は盗んだ、もしバレたら早稲田大学の受験はきっと無効になる。

すぐにドラッグストアから離れ、近くの格安衣料品店に向かった。腿にじんわり温かいものを感じながら、黒のストッキングを履いていてよかったと思っていた。衣料品でピンクのパンツとストッキングを買って、その店のトイレに駆け込んだ。ストッキングを下ろした、腿には擦れた乾いた赤黒い血がついていた。トイレットペーパーを股間にあてながらパンツを下ろした。水色のパンツには見るも無惨な血が広がって、血はまだ少し水気があった。

ストッキングとパンツを脱いで便器に落とした。ウェットティッシュで腿と股間を拭った。その時、まじまじと自分の股間を眺め、そこにはうっすらと陰毛が生えはじめていた。ふと、受験会場で騒いでいた人たちのことが頭によぎった。あの人たちは、私が座っていた席の血を見て驚いていたんだと。

「気持ち悪い」と、拭いてる間そう思っていた。このことは話には聞いていた、友達は生理痛は辛いなどと休み時間に話していたし、学校の保健体育の授業でも聞いていたから。女の子は生理があるから大変とよく言われる理由がようやくわかった。こんなのが何十年も続くと思うと確かに大変だし、そのうち私にも生理痛がわかるはず。そしたら、友達と共感しあえる。

買ったばかりのフリルのついたピンクのパンツに盗んだナプキンを貼りつけ、すこし不恰好になったパンツを履いた。すこし違和感はあるけど、履き心地は悪くなかった。ストッキングを履き、ゴミを便器の隅の小さなゴミ箱に捨て、水を流した。詰まらないことを願いながら、水が流れていくのを見届けた。

店を出て駅に向かった。早く帰りたい。

家に着くまで、パパに生理のことを話すべきか考えた。パパは私の生理についてどう思う?他の子と比べて初潮が遅かったことに疑問に思う?いまさら、ナプキンを買ってと言いだしたらどう反応するの?そもそもパパはナプキンのこと知ってるの?なにも決まらないまま家に着いた。パパはまだ帰っていなかった。

大学に合格すれば、あと数ヶ月で一人暮らしになる。それまで、いやずっと秘密にしていよう。そして、次はちゃんとお金を払ってナプキンを買おう。そう心に決めた。




時間を割いてくれてありがとうございました。

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