「刑事モースのオックスフォード事件簿」
まだまだ残暑が引きませんね。今夜は今年のお正月からBS11にて再放送中、英国ITB放送局製作の「シャーロックを凌ぐ程の人気ドラマ」と称賛される「刑事モースのオックスフォード事件簿」をおススメ。
元々はコリン・デクスター氏原作の「警部モース」スピンオフシリーズ。主役エンデバー・モース主任警部の若き日の活躍ストーリーで、彼がオックスフォード大学を卒業し新米刑事として市警に入ってからの物語になっています。
主演のショーン・エヴァンスもこのドラマに抜擢されるまでは、かつてのマーティン・フリーマンのように、小さな劇団でちょっとした脇役にてテレビ出演していた俳優さんでした。今ではシーズン8が製作決定されるまでのスターになっています。
私は2018年秋にBSNHK吹き替え版90分×4話で構成された第2シーズンを観たのが最初で、冒頭から流れるオペラの旋律とオックスフォード眺望の美しい共演に引き込まれてしまいました。吹き替え版の方が分かりやすいのでNHKでもまた再放送して欲しいんですが、今のところ予定は無いみたい。日本ではBlu-rayも発売未定のままです。
物語は1960年代の英国、オックスフォード警察にて展開されます。オックスフォードカレッジを中退せざるえなくなった青年、エンデバー・モースは、陸軍通信部に入隊し、その除隊後にカーシャル・ニュートン市警にて巡査を二年体験。
シャイで真面目でイマイチ人付き合いが不器用な世渡り下手な彼は、保守的な警察社会に嫌気がさしつつも、ある事件をキッカケにオックスフォード市警に派遣されます。そこで名優ロジャー・アダム演じるベテラン、サーズデイ警部補に、その独特の審美眼と観察力、ズバ抜けた心理読解センス、何より警察に染まりきっていない一途さを買われ、彼の愛弟子として数々の謎深く人間の愛憎ひしめく事件を解決していく。
「お前は巡査長なんかじゃなく、警部の器だ」
この青年期のモース刑事を、聡明さと堅物さと、傷付きやすいピュアさを実に絶妙なテイストでショーン・エヴァンスが演じていて……。昔に「機動戦士ガンダムSEED」のアスラン・ザラを石田彰氏が好演していた頃を思い出さずにはいられませんでした。本当に優しく繊細で、生きるのが下手くそな真面目青年なんですよ。
第一次世界大戦後のイギリスの混沌とした空気感。派手だが退屈な社交界に生きる貴族や、暮らしに閉塞している労働階級の人々。そこに生きる周囲の登場人物も個性が強く鬱屈していて、しかし誰もが上品で、また大都市ロンドンの人達とは趣きが違うんですよね。
かつてインドに赴任していた歴戦の勇者であるブライト警視正や、変わり者扱いされながらも優秀な犯罪視点を持つ監察医の先生。そして第2シーズンから登場した、ブロンドの美しい闊達とした才媛、トゥルーラブ巡査。彼女には繊細なモースの複雑な心理を何気なく理解する共感能力があるようで、おそらくこれ以降もキーパーソンとして活躍するのではないかと。
この若き日の屈託したエンデバー・モースの、一見どこにでもいそうな平凡さの中に潜む聡明さのナイフみたいな存在感が特に素晴らしいんです。やんわりと語られる過去にあった恩人の娘との婚約破棄や、どうにも幸せでは無かったような幼少期の記憶とか……。恋人からDVを受けていたサーズデイ警部補の娘に「僕と結婚しよう」とか同情心で告げてしまう残酷な稚拙さとか。「人間って哀しいよなあ」と、そこはかとなく匂わせるとでも言いますか。
コリン・ファースの出世作「高慢と偏見」も楽しめましたし、「シャーロック」と共にBlu-rayBOXを購入してしまいました。「第一容疑者」以降の英国ドラマは本当に傑作揃いです。これからの続編をまた楽しみに待ちたいと思います!
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マダム、ムッシュ、貧しい哀れなガンダムオタクにお恵みを……。