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映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』

2019年/製作国:アメリカ/上映時間:93分 
原題
 Eighth Grade
監督 ボー・バーナム



予告編(日本版)


予告編(海外版)


STORY

 中学の卒業を1週間後に控えた友達の少ない内気な女の子ケイラは、「学年で最も無口な子」に選ばれてしまう。そんな自分のイメージを変えようと決意し、クラスメイトと繋がるためにSNSへの動画投稿を開始する。
 しかしカースト上位者には無視され、気になる男の子にはアプローチの仕方すらわからず、視聴数は伸び悩み、あせりからくるストレスばかりがつのってゆく……。そしてその溜まったストレスを何かと気遣ってくれる優しい(けれども若干鈍い)パパにぶつけ(八つ当たり)しつつ、目前に迫る高校生活への不安に恐れおののきながら、自己嫌悪のプールに浸る地獄の日々が、こんにちは……

 はたしてケイラの思春期に、「救い」はあるのか?  


レビュー

 人と人との繋がりをより豊かにするために開発されたはずの道具が、逆にその繋がりを阻害している現状もチラホラな、今日この頃。
 
 ケイラ(主人公)は物心がついた時にはスマホもネット環境(特にSNSによる動画投稿)も普及していたアメリカZ世代。
 そんなケイラが中学の卒業を間近に控えながらも周囲に馴染めず(というか周囲の自分に対するイメージにビックリして疎外感を感じ)、操っていたはずのスマホには逆にアッサリ操られて、モヤモヤするところから物語は始まります。
 
 スマホやPCを低年齢から使用する世代は、そうでなかった世代よりも、ある部分でより強いプレッシャーの中で生きざるを得ない状況に置かれていて……
 例えば学校でイジメを受けて、ネット上に自分のことを書かれてしまったなら、スマホやPC(ネットへの接続環境)が常に傍にあることにより、まるで24時間イジメを受け続けているような感覚に陥ってしまったり、自分が動画や書き込み投稿をしてもなんの反応も無かったりすると、「周囲どころか全世界」から無視され、孤立してしまっているような感覚に陥ったりもします(その不安や孤独感を利用され、さらに危険な目に合ってしまうことも……)。
 
 特にスマホは何処にでも持ち歩けるため中毒性も危険性も飛びぬけて高く、販売会社等はそのことを知っているにもかかわらず、そういったデメリットをきちんと警告することもなく(というよりむしろ隠蔽し)、次々に新機能を開発&改良して、そのメリットばかりを強調します(「いいね!」の機能なども、間違いなく快感や寂しさを催す脳内物質の分泌につながっていて、しっかりしていないとその数字を自分の価値と混同してしまい、精神的にも肉体的にも操られかねません)。
 ゆえに自意識肥大化真っ盛りの、思考も、体も、感情もまだ安定していない(不安定な)年齢の子たちが、そういう物に周りを囲まれてしまうとどうなってしまうのかは、自明のことなわけです。
 
 世界(世界中の他人)や家族や同級生のみならず、実は一番手強い存在であるスマホと、不安定な自分を抱えつつも何とか折り合いをつけていこうと奮闘するケイラの姿は、たまらなく痛々しく、しかし同時に、とても愛おしい。
 監督自身がユーチューバー出身ということもあり、その心理描写は恐ろしいまでにリアルで(音楽と映像の使い方も巧い)、最初から最後まで「わかる!」を連発しながら、ときに自分の過去を思い出し目を背けたくなりつつも、すっかり魅了されて、物語の世界へと没入してしまいました。
 
 この作品の素晴らしさは、ツールのメリットとデメリットを明確に描いた上で、その折り合いのつけ方を爽やかに提示しつつ、同時にケイラの人間としてのステップアップの過程を、くっきりと鮮やかに描いてみせたことにあるのではないかと思います。
 特にお父さんとの関係において(ケイラは父子家庭)、その一番難しい時期を共に乗り越えてゆく姿には、沢山笑わせてもらったし、心をポッポして(温めて)もらいました。
 
 これまでもこれからも、周りの「物」がどれほど大きく変化しようとも、良くも悪くも人間という生き物の本質はそう簡単には変わらないということを、甘酸っぱく伝えてくれる良作。
 楽しく笑えてハッピーエンドなところも好きです。

 というか、お父さんがケイラに伝えた言葉、沁みました。


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