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TRUMPシリーズ未履修のオタクがミュージカル『ヴェラキッカ』を観た感想

TRUMP作品初履修のドニワカオタクなんですが週末に『ヴェラキッカ』を観て以来頭の中が「ヴェ〜ラ〜キッカ〜♪」でいっぱいだからその感想をつらつらと書いていきます。

ちなみに「ヴェ〜ラ〜キッカ〜♪」の歌はこれです↓

前提の話

『ヴェラキッカ』って何?

いつも私のnoteを読んでくれてる人は『ヴェラキッカ』を知らない人が多いと思うので、まずはその説明から。
舞台『TRUMP』シリーズの最新作。

『TRUMP』シリーズの概要はピクシブ百科事典から引用します。

演出家・脚本家である末満健一が作・演出したオリジナル舞台作品シリーズ。 吸血種(ヴァンプ)の物語。
タイトルや登場人物・時代は異なるものの、同じ世界観の作品で、それらを総称した呼び名。
作品の特徴として「美しい残酷劇」の趣があり、数奇な運命や悪意に翻弄され、地獄のような状況へと至る描写が多い。

https://dic.pixiv.net/a/TRUMPシリーズ

そしてこのシリーズ最新作が今回の『ヴェラキッカ』です。

私なりに解釈したあらすじ的を書いてみると、

吸血種(ヴァンプ)の貴族ヴェラキッカ家の養子となったキャンディ。
当主・ノラの元に集められた養子達、ノラと遠縁で幼馴染のジョーとシオン、教師役のロビン、そしてノラの弟のカイ等、皆「ヴェラキッカ」の名の下に暮らしていた。
ヴェラキッカ家唯一の家訓は「ノラ・ヴェラキッカを愛すること」。
「私はまだ、ノラのことを知りません」と戸惑うキャンディもまた、その暮らしの中でノラを愛するようになるがーー……。

舞台は有観客及び配信があり、私はその中でも一番安い「定点カメラ配信」を購入・視聴しました。
※配信はアーカイブ期間終了。

『ヴェラキッカ』を観るに至った経緯

今度は逆に、ヴェラキッカ及びTRUMP作品のオタクの方が読みにきてくださってることを想定して、私が何者でありどうやってこの沼に足を踏み入れたかという話。

noteのプロフィール欄にも書いている通り、私は3次元の女性アイドルグループを推している女オタクで、主にももクロ・エビ中を筆頭とした「スターダストプロモーション」という芸能事務所のアイドルオタクをしています。
普段はスタダアイドルのライブやフェス、たまに舞台を観に行ってはその感想(ライブレポ)をnoteに書いています。

また、アイドル以外の推しとして、作家・紅玉いづき先生を敬愛しています。
デビュー作『ミミズクと夜の王』から十五年、変わらず最推しであり、紅玉いづき作品に出てくる「生命力の強い少女」「愛が深い少女」たちに惚れ込んだからこそ今のアイドルオタクである自分がいます。

直近観に行った舞台としてはこちら、『池袋裏百物語』。
男性声優による朗読舞台で、原作・脚本を紅玉いづきが書いています。
これは男性キャストですが、それでもやはり「愛が深い男たちの物語」です。

紅玉先生が演劇やミュージカルといった舞台を好きだということは以前から知っていたんですが、あまり具体的な作品名を挙げることは少なくて、だから今回『ヴェラキッカ』を観た、というツイートをしたときに驚いてすぐ『ヴェラキッカ』について調べました。

調べていくうちに「これは観なきゃいけない」と思った理由がいくつかあって、

・紅玉いづき作品への影響
紅玉先生が今カクヨムで連載している『サーカス団長 シェイクスピア』という作品があります。
角川文庫から出版されている『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』の続編かつ、過去編にあたる作品です。

この作品は「少女サーカス」でステージに立つ少女たちの群像劇なのですが、これは「サーカス」の皮を被った宝塚歌劇団であり、女性アイドルグループである、というのが私の解釈です。
解釈というか、実際の描写としてもそういった要素が数多くあって、中でも「少女サーカスにおいて文学者の名を冠してステージの中央に立つことができるのは、専門学校で2年間芸を磨き、その中でも認められた一握りの少女だけ」という設定はもう宝塚サーカス学校じゃん!っていう。
もちろんそれだけではないのだけど、それはともかくとして、そんな作品の連載中に、元宝塚歌劇団のトップスターが主演を務めるミュージカルを紅玉いづきが観たって??? 推しとして絶対観とかなきゃでしょ!!! となったのが一番大きな理由です。

・推しが好きなものはきっと私も好き
この世にどれだけTRUMPファンと紅玉いづき読者が被ってるか分からないですけど、『ヴェラキッカ』見終わった私だから断言しますけど、「紅玉いづき作品好きならヴェラキッカ好きだし、ヴェラキッカ好きなら紅玉いづき作品好き」だよ。
配信を見る前、事前情報を調べてる段階から予感はしてたけど、見終わった今、予感は確信になりました。好きです。

大体さぁ紅玉いづきの「強い女」「愛情深い女」を摂取して育ってきて女アイドルオタクになった私が『ヴェラキッカ』好きにならない要素なくないですか???
という(不純すぎる)不純な理由で『ヴェラキッカ』を見ました。

感想

前置きが長くなりました。
そんなわけで、TRUMP作品初見かつ今回定点映像しか見てないドニワカが書く『ヴェラキッカ』感想文です。
一応2回見ました。
大体の感想は1回目見終わってダーっと書いたけどその後いろいろネタバレやら考察やら漁ってからもう1回見てます。

※この先ネタバレしか書かないので自己責任でよろしくお願いします※


定点映像で見たから表情は分からないけど、それでも声や仕草から十分すぎるくらい感情が伝わってきたことにまず圧倒された。
ミュージカルなので物語のキーになる感情表現を全部歌に乗せて語ってくれるの、分かりやすくて初心者にも優しいし何より歌がべらぼうに上手い。

血の繋がりよりも家訓を大切にし、とにかく「ノラを愛しているし愛されたい」と語る奇妙なヴェラキッカファミリー。
不可思議な日常を見させられている、というのが最初の印象。
その不可思議さに「これは一体何を見せられているんだろう?」と思っていたのだけれど、物語が進むにつれ、少しずつ化けの皮が剥がれていくにつれ、右肩上がりでその世界観に没入していく感覚があった。

そして、「何を見せられているんだろう?」の違和感とはまた別に、その日常の中に散りばめられた「ん?」と思うような引っ掛かり。後の伏線がいくつか。
例えば、シオンとカイの会話やロビンの言う「罪悪感」というワード。彼らは一体なぜノラに罪悪感を感じているんだろう?
それから、キャンディも最初は「ノラのことを知らないのに愛せない」と言っていたのに、いつからか「ノラと出会う前から愛していた」と変化するノラへの感情。さっきと言ってたこと違うよね?どうしたの?

2周目見たときに「うわーっ!」ってなったのは冒頭、ノラ・カイ・シオンがいるシーンで、カイが養子を反対するところ。
カイが言葉に詰まったり、ノラへの愛を肯定できなかったりしたのは(腹違いとはいえ)血の繋がった弟だからだと思ってた。そのことに1ミリの疑問も持っていなかった。
2周目では「これも伏線だったのか……」と頭を抱えた。

そして日常は少しずつ壊れ始めていく。
最初の大きなきっかけは、ジョーがカイへキスしたこと。
「私はカイが好きだった。ううん、この気持ちは過去形なんかじゃない。今も好き。でも、ノラのことを愛している。ノラを愛する気持ちがカイに恋する気持ちに覆いかぶさっている」と、2つの感情に翻弄されるジョー。
そして、そこから導き出される一つの仮説、「ヴェラキッカ家はノラのイニシアチブに支配されている」?

※イニシアチブ:吸血種は対象を噛むことで、噛んだ相手を従属させる=イニシアチブを取ることができる。

同じ頃、繭期まゆきの吸血種達が暴走を始める。
繭期は吸血種にとっての思春期的なものだけど人間の思春期よりも衝動的で暴力的らしい。
繭期を迎えた吸血種は通常であれば専用の隔離施設に入れられるが、ノラが引き取った養子達は繭期の症状をコントロールする薬を与えられる代わりにノラの屋敷で暮らすことが許されている。
そんな彼らはこっそり薬を飲むのをやめてしまう。
「ノラを殺せば、もうノラは誰も愛せない。ノラは自分だけのものになる」
思春期特有のゼロかイチしかない極端な思考とノラへの愛が混濁して、暴走は加速していく。

ノラをなぜ愛しているのか。どう愛するのか。
それまで抽象的だったキャラクターそれぞれの歪な愛の形が見えてきて、この辺りからどんどん物語に没入していった感覚があった。
誰の愛が報われるのか、報われないのか。
ノラの愛は誰に向くのか。

使用人・ウィンターの愛し方が好きだったな。
愛ゆえの独占欲。
イニシアチブを解除されることで、ノラを愛せなくなることの恐怖に震える姿。
一番まっすぐ、愛に生きたキャラクターだと思った。
そのまっすぐさが狂気にも凶器にもなってしまう、脆さでもあって、それが愛おしかった。
あと繭期の子たちから「繭期よりタチが悪い」って評価されてるの愉快すぎる。

そして少しずつ物語の全容が分かっていく中で、最初に泣いたのはロビンがシオンに「頼む、私も共同幻想に連れて行ってくれ」と懇願するところだった。
ロビンに入れ込んだというより、そこまで積み重ねてきた感情がその一言で決壊して泣いたという方が正しい。
その一言に至るまでの全てが苦しかった。
ロビンもカイもシオンも苦しんでた。
その贖罪の気持ちが痛いほど伝わってきて、私も苦しくて堪らなかった。

そして静かに誰よりも愛に狂っていた男、シオン。
鉄の扉を隔てた向こう側で、声しか知らない存在を愛して、狂って、その狂気のままに共同幻想を生み出した男。
ノラの創った共同幻想、というミスリードから、シオンのイニシアチブによる共同幻想だと分かった瞬間はゾクゾクした。最高。
愛に狂った男のクソデカ感情が生み出したこの世界。この幻想。狂ってる。狂ってる。最高。

共同幻想を解除する直前、ノラの「この声が君(シオン)には届かない それだけが心残り」の歌声があまりに切なくて、二度目の号泣。

この事実を知った後に見た2周目、どのシーンもシオンの姿を追ってしまった。
あのシーンもこのシーンも……。
3人で会話してるように見えて、シオンはノラの言葉には反応してないし、ノラもシオンには話しかけない。
みんながノラの歌声に酔いしれていても、そこに混じらず、端っこで気配を消しているシオン。
世界でただ1人、ノラを見ることが叶わないシオン。
せ、切なすぎる……うぅ……。

からの、カイのイニシアチブによる再会は、「えっ!?そんなお手軽に会えていいのかよ!?」って思ったりもしたけど、じゃあこれが「会えたから良かったねハッピーエンドだね」という話かというと全然そうじゃないからまた地獄なんだよな。
シオンとノラは、もう手遅れなので。
どの選択肢を選んでももう2人はハッピーエンドには辿り着けないんだろう、と感じた。

どんな形で会えたとしても、それは幻想の中のノラでしかなくて、偽りの、シオンが生み出したノラでしかない。
カイが見せる幻想もそもそもはシオンが見せた幻想を元に創られてるわけだし。
本物のノラは、鉄の扉の向こう側にしかいないし、もうそこにもいない。どこにもいない。
でもハッピーエンドである必要ある?
狂った愛は狂ったままでもいいだろう。
「愛の形は人それぞれ」なのだから。

共同幻想が解けてノラがいなくなった世界で、その場にいる全員がノラへの愛をまだ持ち続けていて、それ故にシオンに全員が「ノラに会ってくればいい」と背中を押すシーンの異様さったら堪らなかった。
全員、狂ってやがるの、最高でしょ。

「ノラへの愛がイニシアチブによるものでも、ノラを愛してあげたい」「(共同幻想が解けても)ノラへの愛は残ってる。私たちはノラを愛していたのよ」と語っていたキャンディだけど、エピローグではその愛をもう過去のものとして未来に生きている感じがあって良かったな。
エピローグのキャンディの語り口調を見てると「ノラを愛した気持ち」はイニシアチブ解除直後にはまだ残っていたけど、そこから時間が経つにつれてその気持ちは薄れていってるんだろうなと感じた。
ヴェラキッカ家を離れて旅をするキャンディもそうだし、シオン以外の家人も城を離れたようだし。
どれだけ燃えるような恋をしても、失恋して、時間が経てば当時と同じ熱量を保つことは難しい。それは幻想でも現実でも同じこと。

エピローグで語られた「ヴェラキッカの屋敷では気の触れた老人が空想に耽りながら1人で暮らしている」について。
シオンは最初から最後まで愛に狂ってるんだけど、その狂い方も (本物の)ノラが死んだ直後の絶望→共同幻想中の使命感→カイのイニシアチブ下での幸福→エピローグでの成れの果て と徐々に変化しているように見えて、愛に狂った男サイコーって感じです。
2人はもうハッピーエンドにはなれない、とさっき書いたけど、死ぬまで愛を貫くことができたのなら、それはそれ、もうハッピーエンドと呼んでいいのかもしれない。


そういえば、キャンディが平野綾だって気づいたのは終盤だった(定点だから顔が見えてない)のだけど、改めてその存在感があるなと思った。
そういう役どころだから、ってだけじゃなく、華があるってこういうことなのだろうな。
自然体なジョーと冷静なキャンディ、という対比も良かった。

そして、書く場所がなかったから最後に書きますが、一番好きだったキャラはジョーで、あの明るく自然体なキャラクターが好きだったし天真爛漫に見えて自ら物語を切り拓いていく強さもあって、カイとの幼馴染の関係も好きだしその恋心が共同幻想解除後に報われてるといいなって思ってます。

おわりに

総じて、重くて深い愛の物語、最後まで愛に狂っていてとても最高でした。
楽しかった。
定点カメラで2回しか見てないのに、見終わってからじわじわと思い出しては「あそこ、ああだったな」とか感想が湧いてくる感じがあって、本当に良い舞台でした。

シリーズ物ではあるけど過去作との繋がりも薄めで、まっさらな状態で観るのに適していたとも思うし。
TRUMPシリーズ、機会があれば今度は生で観劇してみたいな。

そうそう、来月、大阪公演の配信もあるみたいですね。私の見た東京公演の配信は終わってしまったけど。
愛に狂いたい方は、ぜひ。
ノラ・ヴェラキッカを愛してあげてください。


(おまけ)

そんなわけで『ヴェラキッカ』好きなオタクは紅玉いづきの『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』及び『サーカス団長 シェイクスピア』絶対好きだと思うので読んでください。
『サーカス団長 シェイクスピア』はただいまカクヨムで絶賛連載中です。ブランコ乗りの続編ではありますが過去編にあたる話なので、シェイクスピアから読み始めてもいいと思います。こちらは無料です。
よろしくお願いします。


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