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進退両難:企業の危機とその克服の事例

進退両難(しんたいりょうなん)
→ 進むことも退くことも両方とも困難な状態で、物事が行き詰まって身動きのとれない様子。

進退両難とは、どちらに進んでも、どちらに退いても困難な状況を指す。

山岳でいう「背水の陣」のように、前には深い崖、後ろには急な山が迫る状況だ。

進むも地獄、退くも地獄といった具体的な状況に直面するとき、それを進退両難という。

人生でもビジネスでも、こうした進退両難の状況に直面することは避けられない。

一方で、そうした困難を乗り越えて成長したり、新たな道を開拓したりすることもある。

ということで、ネガティブなことはあまり書きたくないので、世界の有名企業が直面した進退両難の状況と、それをどのように乗り越えたかを事例に取り上げていこう。

困難を感じるメカニズム

と、その前に、そもそもどのようにして困難という感情を抱くのかについて知っておいた方がいいだろう。

困難を感じる感覚は人間の脳の一部である前頭葉と深く関係している。

前頭葉は意思決定、問題解決、計画立案などの高度な認知機能を担当している。

脳は困難な状況に遭遇したとき、前頭葉を活用して可能な選択肢とその結果を評価し、最適な行動を選び取る。

このプロセスは「行動の選択」や「意思決定」などと呼ばれ、ニューロサイエンスの研究対象の1つである。

最近の研究では、前頭葉の一部である前帯状回がこの意思決定プロセスに重要な役割を果たしていることがわかってきている。

前帯状回は環境からの情報を収集し、それを以前の経験や現在の目標と照らし合わせて最善の行動を選ぶ。

ところが、どの選択肢を選んでも問題が解決しないような状況では、人間は困難と感じる感情が生じる。

この感情は、ストレス反応の一部として視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)の活動を高め、コルチゾールというストレスホルモンの分泌を促す。

これにより、身体はストレス対策のためのエネルギーを確保しようとする。

ただし、長期的なストレスは心身の健康を害する可能性がある点には注意が必要だ。

一方で、困難な状況に直面することは、新たな視点を見つける機会でもある。

ストレスは、新しい解決策を見つけるための創造性を刺激することもある。

これは「ポジティブなストレス」や「ユーストレス」と呼ばれ、適度なレベルならば成長や学習に対する刺激になる。

進退両難の事例 その1 - アップル

ということで、困難を乗り越えた企業を紹介していこう。

第一の事例として、世界的に知られるアメリカのテクノロジー企業、アップルの歴史を振り返ってみよう。

アップルは、1976年にスティーブ・ジョブズ、スティーブ・ウォズニアック、ロナルド・ウェインによって創業されたことは有名だ。

当初はパーソナルコンピューター、Apple Iを製造および販売していたが、ここから先は困難が続く。

1980年代後半、アップルは市場シェアをIBMやMicrosoftに奪われ、業績が低迷。

さらに、1985年には創業者の1人であるスティーブ・ジョブズが経営陣との対立からアップルを追放されるという危機に直面する。

ところが、進退両難の状況を乗り越え、アップルは新たな道を開拓する。

それは、1997年、スティーブ・ジョブズがアップルに復帰したところから始まる。

スティーブ・ジョブズの復帰は、アップルの歴史において最も重要なターニングポイントの1つだった。

彼はアップルの製品ラインを大幅に整理し、iMac、iBook、Power Mac G4 Cubeなどの新製品を発表。

これらの製品はデザイン性と使いやすさで評価を受け、アップルの危機を一転させる。

そして2000年代に入ると、アップルは新たな製品カテゴリーへとシフトする。

2001年には音楽プレーヤーのiPod、2007年にはスマートフォンのiPhone、2010年にはタブレットのiPadを発表。

これらの製品はそれぞれの市場で革新をもたらし、アップルを世界のトップ企業の1つへと押し上げた。

アップルの事例から学べるのは、進退両難の状況でも諦めずに新たな視点を持ち、時には大胆な決断を下すことで困難を乗り越えることができるということだ。

進退両難の事例 その2 - ニンテンドー

次の事例は、日本のゲームメーカー、ニンテンドーだ。

多くの人が知るように、ニンテンドーはもともとは1889年に創業した花札製造会社。

しかし、時代の変化に合わせ、1970年代にはゲーム機の開発に乗り出す。

初期のビデオゲーム市場は未開拓で、ニンテンドー自身も手探りの状況だった。

そして1983年、ファミリーコンピュータ(ファミコン)を発売。

マリオやゼルダの伝説などの人気ゲームを生み出し、一大ブームを巻き起こす。

しかし、1990年代に入ると、新興のソニーからプレイステーションという強力なライバルが登場。

ゲーム機市場でのシェアを奪われ、ニンテンドーは進退両難の状況に立たされる。

そんな中、ニンテンドーは新たな市場を開拓することを決断。

2006年にはWiiを発売し、家庭用ゲーム機に新たな風を吹き込む。

Wiiは「運動を感じる」新感覚のゲームとして、幅広い世代に受け入れられ、大ヒットを記録する。

ところが、その後のWii Uは期待ほどの成功を収められず、再びニンテンドーは困難な状況に立たされる。

その困難を乗り越え、2017年にはハイブリッド型ゲーム機「Nintendo Switch」を発表。

Switchは家庭用ゲーム機と携帯ゲーム機の両方の利点を持ち、世界中で大ヒットを記録。ニンテンドーは再びゲーム業界のトップへと返り咲く。

ニンテンドーの事例から学べるのは、市場の変化に対応し、新たな価値を提供することで困難を乗り越えることができるということだ。

進退両難の事例 その3 - ネットフリックス

最後の事例として、アメリカの動画配信サービス企業、ネットフリックスを取り上げよう。

ネットフリックスは1997年にマーク・ランドルフとリード・ハスティングスによって設立され、当初はDVDレンタルビジネスを行っていた。

ところが、ネットフリックスの真価は、その後のビジネスモデルの転換によって示されることになる。

2007年、ネットフリックスはDVDレンタルからストリーミング配信へとビジネスモデルをシフト。

これは新たな市場を切り開く決断であり、その後のネットフリックスの成功に大きく寄与した。

ただし、この転換はすぐには成功をもたらさなかった。

2011年、ネットフリックスはDVDレンタル事業を「Qwikster」として分離すると発表。

ところが、この決定はユーザーから大きな反発を受け、株価は大きく下落。

ネットフリックスは進退両難の状況に立たされる。

そんな中、ネットフリックスはこの困難を乗り越え、新たな戦略を打ち出す。

それがオリジナルコンテンツの製作だ。

2013年には、自社制作のドラマ「ハウス・オブ・カード」を配信開始。

この作品は大きな成功を収め、ネットフリックスの名を世界に知らしめる。

それ以降、ネットフリックスはオリジナルコンテンツの製作に力を入れるようになり、多くのヒット作を生み出している。

その結果、ネットフリックスは世界最大の動画配信サービスとなり、エンターテイメント業界に新たな潮流を作り出している。

ネットフリックスの事例から学べるのは、市場の変化に素早く対応し、新たな価値を提供することで困難を乗り越えることができるということだ。

進退両難からの脱出 - 共通する要素

例に挙げたアップル、ニンテンドー、ネットフリックス。

これらの企業はそれぞれ異なる産業で活動しているが、進退両難の状況から脱出するために共通する要素がある点に注目したい。

1つ目は、新たな視点を持つことだ。

  • アップルはパソコンから音楽プレーヤーやスマートフォンへ。

  • ニンテンドーは従来のゲーム機から新感覚のゲーム機へ。

  • ネットフリックスはDVDレンタルからストリーミング配信へ。

それぞれが新たな視点を持つことで新しい市場を切り開いた。

2つ目は、大胆な決断を下すことだ。

  • アップルはジョブズの復帰と製品ラインの大幅な整理

  • ニンテンドーはWiiとSwitchの開発

  • ネットフリックスはビジネスモデルの転換とオリジナルコンテンツの製作

これらの大胆な決断が、各企業を進退両難の状況から脱出させるきっかけとなった。

3つ目は、顧客に新たな価値を提供することだ。

  • アップルのiPhoneやiPad

  • ニンテンドーのWiiやSwitch

  • ネットフリックスのオリジナルドラマ

各社の製品やサービスは、それぞれの市場で新たな価値を提供し、顧客からの高い評価を得ることで大成功を収めた。

また、こういった要素を通じて、あなた自身が進退両難の状況に直面したときにどう対処すべきかが見えてくるはずだ。

新たな視点を持ち、大胆な決断を下し、新たな価値を提供する。

この3つの要素が、困難を乗り越えるための鍵となることを覚えておいてもらいたい。

まとめ

進退両難の状況を乗り越えて成功を収めた企業を見てきたが、その背後には「成長マインドセット」がある。

これは、困難や挫折を避けるのではなく、それを成長や学習の機会と捉える考え方だ。

心理学者のキャロル・ドゥエックによれば、成長マインドセットを持つ人は、困難を挑戦と捉え、失敗を学びの機会とする。

このような視点は、進退両難の状況に立たされたときにも力を発揮するというわけだ。

困難な状況から逃げ出すのではなく、その中でなにが学べるのか、どうすれば状況を改善できるのかを考える。

アップル、ニンテンドー、ネットフリックスの各社は、困難な状況に直面したときにも、新たな視点を持ち、大胆な決断を下し、新たな価値を提供するという行動をとった。

これらはすべて、成長マインドセットの具体的な表れと言える。

進退両難の状況に立たされたとき、その状況を乗り越えるためには、まず自分自身の思考を変えることが重要だ。

困難を恐れず、困難から学び、困難を乗り越える。

これが、進退両難の状況を乗り越えるための第一歩となる。


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株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。