Q. あなたの大切にしたいものは、何ですか?
ゆうき君に大切にしたいことを聞いた後、彼は困った顔をしてうつむいてしまった。
そしてふと、何かを思い出したように顔を上げた。
ゆうき君
僕は、犬が好きです!
>考え込んでいた彼から出てきた言葉は、犬が好きということだった。
中島
そうか、犬が好きなんだね。
僕も、小さい頃に家で犬を飼っていたよ。いつか大きな家に住んだら、ゴールデンレトリバーを飼いたいと思っていたけれど、なかなかそうもいかないね。
で、ゆうきくんは、犬のどんなところが好きなの?
ゆうき君
僕は柴犬が好きです。シッポがクルンと上を向いているところとか、あの鼻をぎゅっと握ってちょっといじめたくなる雰囲気とか、黒い目の…
>放っておくと、このまま柴犬の魅力を聞く会で終わってしまいそうだ。
中島
柴犬LOVEなんだね!魅力がいっぱいで僕も興味が湧いてきたよ。
ちょっと質問を変えてみよう。
もしこの世の中に、犬がいなくなってしまうと想像してみると、君はどんなことを思う?
ゆうき君
そんなの絶対にイヤです。
だって、家族の一員になっていることもあるでしょうし、盲導犬や介助犬と行った人を助ける犬もいますし、警察犬のように人間の代わりをしてくれる犬もいます。犬をおまけのように言われると、ちょっと腹が立ちます。
>彼は、僕の質問にちょっと嫌な感情を持ったようだ。
中島
ごめんごめん。これは想像の世界だからね。犬がいなくなってもいいと言っているわけではなくてね。
でも僕らが思っている以上に、人の生活を犬が助けてくれているんだね。
ゆうき君
そうなんですよ、犬の嗅覚は人間の何倍もあって、耳もすごく良い。そういった犬の特性を借りて、昔から狩猟を一緒にしたり、番犬で家を守ってくれることだってあります。
>どうやらゆうきくんは、ただの柴犬好きだけではないようだ。
中島
ゆうきくんは、犬のことをよく知っているんだね。そんな頼りになる犬だけれども、何か気になるニュースとか、気がかりになることはある?
ゆうき君
そうですね、やっぱり、ペットショップに並んでいる犬を見ると、かわいいと思う反面、この子たちは大きくなったら、どうなるんだろうと心配してしまいます。
特に柴犬なんて、すぐに大きくなってしまいますから、割引で売られているのを見ると、つい引き取ってしまいそうになります。
世の中には、保護犬がいたり、子犬の譲渡会がありますが、なんだか物のように陳列して売られているのを見ると、モヤモヤした気持ちになりますね。
>彼の顔が真剣になっている。きっと何か頭でぐるぐると考えているに違いない。
ゆうき君
犬もそうなんですが、猫はもっと野良猫としてたくさんいると聞きます。他にも、虫や爬虫類が買えなくなって、自然に放してしまったり、飼っていたペットが脱走したりして、自然の生態系が崩れているなんて話も聞きます。
>話が柴犬から少し脱線して、壮大になってきた。
ゆうき君
僕は、小さい頃、よく家族でキャンプに行って虫を捕まえていました。虫って嫌いな人が多いんですが、僕たちの暮らしをかけて支えていることもあるんです。
果物だって、受粉しなければ実らないし、落ち葉は堆肥になって土に帰っていくし、動物の餌になってしまうこともあるけれど、それでも、昆虫がいなくなったら、僕らは地球に住めないんです。
>さっきの悩み顔とは違い、彼がとても頼もしく見えて、まるで地球防衛隊のようです。
中島
僕も畑をやっているけれど、来て欲しい虫と、困った虫がいるよね。でもそれは、人間にとって都合が良いか悪いからだけでしかない。そんなことだけをしていたら、やっぱり自然のバランスが崩れちゃうってことだよね。
…しかし、ゆうき君は物知りだねぇ。ただの柴犬LOVERかと思っていたけれど。
>彼は柴犬の話をしていたことを、今気づいた。
ゆうき君
あ、犬の話でしたね。話がずいぶん脱線してしまいました。すみません。
中島
いや僕は大切なものについて聞いていたから何でも大丈夫だよ。
最初は犬の話だったけど、昆虫になって、地球の話になった。
きっとゆうき君が大切にしている共通した何かがあるんだろうね。
ゆうき君
そうかもしれないですね。
やっぱり生き物って命があって、人間もそうですし、植物だって生きていますから。
…あ、ベランダで育てているトマトに水をやるのを忘れちゃった。ってもう三日くらい忘れてて萎れかけてて…先生、今日はもう帰ります。失礼します。
>ゆうきくんは、急いで出て行ってしまった。
柴犬から昆虫になってトマトにたどり着きましたね。
彼の中にある大切なものは、まだはっきりと見えないものの、私の大切にしているものと似ているような気がします。
あ、私も畑に水をやるのを忘れてしまったから早めに帰らないと…
↓つづく