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「好奇心」という病と嘘、札束心中

 バンドをやっている。昔はギターボーカルだったが、今はボーカルになった。結成時から今まで、ずっと休む期間なく続けてきた。

 何枚もアルバムを出し、MVを出し、TVやインターネットTVにも出させていただいた。若手の頃はライブハウスで手売りしたり、メンバーと一緒に撮影できる権利を売ったりした。

 ワンマンで1000席以上、2階以上のホールでライブが行える迄になったのは比較的早かった、丁度そんな時代だったのだ。所謂、黄金時代、黄金世代。更に大きく有名なホールや海外でもライブが出来た、本当に運が良かった。

 その頃には、とっくに暇つぶしの不動産投資や、ロクに勉強もしていないFXや仮想通貨で何故か利益が出たりとしていたら、総資産は1億を超えていた。お金に不自由しない生活をしていた。…もし神様が居るとしたら、両性具有の代わりに金銭面のセンスだけ恵まれた。それでも僕は両性具有にした神様を恨んでいた、赦せる訳が無かった。


 しかし、それを身内以外は知らなかった。必死に隠していた。音楽活動に於いては特にそうであった。バンドに1人金持ちがいる…それだけで無茶苦茶な活動が可能になり、仲間の楽器も機材も簡単に買ってあげられる、整形もできる。沢山の広告を出し、より多くのファンが作れる。…そうなると実力なんて関係ないのだ。それは僕の目指したいものではなかった。

 だからこそ彼らとは対等で居なくてはいけなかった。常に金がないフリをした、貰い煙草、マクドナルド、居酒屋、1人でラブホテル、パチンコで勝ったり負けたりした。ユニクロの服で常に真っ黒な格好をしていた。高いものは自分の機材とシルバーアクセサリーだけに留めた。

 自分の持っているマンションの1室を「借家」としてメンバーには自分の住まいとして紹介した。親の仕送りで住んでいると嘘をついた。本当は、その部屋に僕が居るのはメンバーといる時と前日くらいだった。

 全て、メンバーや後輩や街中の人を観察し、雑誌で学んだ。情けないことに、そうでもしなければ「世間の常識」が分からなかった。それが僕の中になかった世界なのだ。


 「お金がない」と「給料日までムリだわ」…この2つの言葉は非常に有効だった。そして、友人の経営している店へホストとして入った。友人の為にも沢山売上は出した、会話が巧くなった。

 (客もスタッフも)素敵な子達と過ごせる、好きにお洒落が出来てカッコよいと褒めてもらえる、酒が呑める、フェイクにもなる…それで良かったので、給料は社会勉強代として貰わなかった。それは真面目に、生きるために頑張っている子の為に少しでも増やしてあげてほしいと友人に頼んでおいた。

 小さなライブハウスで唄っているインディーズ時代にホストは絶好の要素であり設定だった。メンバーもバイトをしていたから、昼間に家で遊んでいても何も言われない、スタジオも気軽に使えた。

 完全に店を辞める時に友人からヴィトンのジャケットを買って貰った、それだけ素直に受け取った。お客さんから貰ったプレゼントの殆どは興味がなく売却したりメンバーやお店の子にあげた。


 それにお客さんから「好き」と言われたら素直に喜んでいた。顔が好みの子も勿論居た。しかし店外では、ましてや枕営業なんてDSDには当然出来るわけもなかったが、頑なに店の中だけでしか会えないことを気に入ったらしい、物好きなお客さんは居た。

 きっと誰かを傷付けていたと思う。本当に僕を男性だと思って愛してくれて、高いお酒を入れ僕とずっとお話してくれた子、何度も売上1位にしたくて通ってくれた子、何度もセックスに誘ってくれた子、そんな人達が居るのに僕は突然辞めた。

 他にも知った事はたくさんあった。大して飲めないと思っていたが思いの外、酒に対して強かったこと、それに気が付いた時には完全にアルコール依存になっていたこと、容姿に自信を持ってよいこと、僕の為に誰かが大きな借金をして破産したこと、気持ちを振り回したこと、自己嫌悪から酒や薬に手を出したこと。



 お金があれば人は幸せになれるそうだが、持て余す程の金があったところで、ロクな人生ではないと僕は思い知った。人が怖いと思った時もあった。今でこそ結婚した(訳あって養子として籍を入れた)訳だが、当時、いや最近まで一生独り身で良いと思っていた。


 昔、誰かに「お金持ちになったら絶対楽しい!絶対働かない!高層マンションで見下ろすのとかさ!スポーツカーとか買いたい!毎日遊べるって最高じゃん!」と夢を語っていた気がする。…僕は今確かに金持ちと呼べる範囲に居るかもしれないが、心は貧しく廃墟の中で独り自分の愚かさに嘆いている。


……これは、あの頃夢見た"正解"なのだろうか?

 

…今日の話はここまで。
 

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