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スクラム採用に取り組む上で人事がぶつかる「11個の壁」とその乗り越え方

どうも、ナイルで採用やっているワタナベです。HERPさんにお声がけ頂き、「スクラム採用Advent Calendar 2019」に参加しました。

先日公開のHERP徳永さんのCXとスクラム採用の記事、体系的にまとめられていて学びが多かったです。

今回は「スクラム採用に取り組む上で人事がぶつかる11個の壁とその乗り越え方」というテーマで記事を書きました。

人事に異動して1年半、まだまだスクラム採用体制になっているとは言えませんが、これまでやってきて、こんな壁にぶつかったよ、こんな取り組みしてきたよという内容をお伝えします(この記事中で使う人事は”採用人事”のことを指しています)。

誰向けの記事か
スタートアップ、ベンチャー企業の採用人事の皆さま
何を伝えたいか
「スクラム採用サイコー!みんなやろうよ!」
「戦略人事になるにはこれが必要!」
とかの、それっぽいけど結局何やればいいんだっけ?という内容ではなく、
「実際のところ、何のために、どうやって、採用力を上げていくべきか」
という明日から活かして頂けそうな考え方と取り組み内容をお伝えします。
前提:ナイルの採用について
・ナイル=「デジタルマーケティングで社会を良くする事業家集団」をビジョンとするベンチャー企業
・150名規模
・採用チームは5名(マネージャー兼リクルーター1名、リクルーター2名、イネーブルメント1名、オペレーター1名)
・3つの事業(コンサル/アプリ/自動車)があり、それぞれ採用要件が異なる
・多事業/多サービス展開のため、採用職種が70ポジション以上ある
前提:スクラム採用とは
・ジョブ型(ポジションマッチ)採用
・現場社員主体の採用活動
・人事のPM化

参考:「リクルーティング・イネーブルメント」という役割〜スクラム採用の実現に向けて〜

スクラム採用やっていく上でぶつかる11個の壁

人事のスキル、業務内容や進め方、現場社員の巻き込み…など色々な壁にぶち当たってきました。どんな壁だったのか、どうやって乗り越えてきたのかを以下述べていきます。

【①人事のスキルの壁】

壁1. 採用スキル≠PMスキル

ぶつかる壁

現場社員の巻き込み(啓蒙・育成)、リファラル採用強化、タレントプール作り、ミートアップ、採用広報など色んな取り組みをしていくにあたり、プロマネやディレクションスキルなど、これまでの採用人事に求められていたスキルに加えて、PMスキルが求められるようになりました。

PMスキル

これは現場面接官として採用をやっているだけではなかなか身につかないスキルです。

1年前にこんな記事書いてました↓

これまでの人事に必要とされたもの
・理念共感と事業理解
・調整力と交渉力・面接力(ヒアリング、アトラクト)
これからに人事に求められるもの
・発信力(文章力、コピーライティング)
・マーケティング力(テクノロジーによるHack含む)
・コミュニティ、人の繋がり(社内外ともに)
引用:これからの採用人事に求められるものは何か

どうやって乗り越えるか

リクルーターとしての人事ができるようになるのが理想ですが、そもそもリソース問題や適性問題もあるので、以下のいずれかが現実的な解決策だと考えています。

・リクルーターと機能を分ける(HRチームにマーケや分析、PMスキルある人をいれる)
・その職能をもった現場社員に協力してもらう
・上流の設計ができるコンサルやアドバイザーを入れる

ちなみにナイルでは、採用人事領域の機能を下記のように分類しています(現状は機能ごとに担当がいるのではなく、1人が複数機能を担当しています)。

採用人事の役割

壁2. 経営視点を持つことへの限界

ぶつかる壁

「経営視点をもって、経営者のように、戦略的に意思決定をする。」これをできるのが理想ですが、事業部と採用のマネージャー双方を経験した立場として感じるのは「やはり経営と現場は違う」ということです。

経営と人事の間にある壁

視座の高さ・視野の広さ・見ている視点すべてが異なるので、「経営者として意思決定する」というのは現実的には難しいです。

余談①)bosyu石倉さんの先日のnoteに書かれていた「人事のコア」について、ほんとにおっしゃるとおりですね。

”私が思う人事のコアは、たった1つしかありません。
それは、「事業や会社の成長に資する」これしかないと思っています。
つまり「事業や会社が成長するために人や組織の面からできることをする」のが人事のコア(=本質的な仕事)です。”
引用:https://note.com/hideakiishikura/n/n6dbd86b655e3

どうやって乗り越えるか

経営者と同じように意思決定が出来なくても、それに近づけていくことを諦めているわけではないです。むしろ、限界を理解した上で、経営の考えを理解しようとすること、トレースできるようになることにはこだわり続けるべきです。

↑難易度:高
・経営者になる(経営権の一票を持っている人になる)
・HR専任役員をおいてもらう(事業側と兼任ではなく)
・人事が複数ミッションを持たない(採用に集中する)
・経営会議に参加する(経営課題や経営者の考えを知る)
・経営者と交渉ができるコンサルやアドバイザーを入れる
・経営者と定例で1on1をやる、コミュニケーションをとる
↓難易度:低

自分自身も偉そうなことは言えず、下記のような失敗をしていました。

”人事に異動してきたばかりのころは、ただでさえ慣れていない中で予算策定に追われたり、30職種もの新規ポジションの求人票を急いでつくったり…。現場や経営から要望されることすべてに対応しようとしたら、いっぱいいっぱいになってしまって。
元々、昨年末まで私の上司は社長だったのですが、採用人事の管掌役員であると同時に、経営者でもあり、「カルモ」の事業オーナーでもあります。人事の視点、経営者の視点、事業責任者の視点がある。それらすべてに真摯に向き合おうと思ったら、パンクしてしまったんですよね。今年に入ってからは体制変更があり、事業役員が社長室管掌専任になって、人事領域全体をハンドリングしてくれるようになって。散発的に打っていた施策を整理して、私がやるべき業務も整理してもらいました。”
引用:https://www.dodadsj.com/content/190508_nyle/

余談②)先日のメドレー加藤さんの記事を読んで思ったのは、「この悩みを概念レベルではなく、心から理解できる人事の人はどのくらいいるんだろう?」ということでした。そのくらい経営と人事は近いけど遠いものだと考えています。

壁3. 事業視点を持つことへの限界

ぶつかる壁

人事が現場経験者ではない場合、ざっくりとした事業内容や職種要件は話せても、「実際のところ何やっているのか、どんな人を採用するべきなのか」の理解をするには限界があります。

現場と人事の壁

どうやって乗り越えるか

↑難易度:高
・事業部経験者を人事に異動
・HRBPを配置する
・事業部にハイアリングマネージャーを配置する
・事業戦略MTGに参加する
↓難易度:低
※その他、個別施策については後述します。

【②採用業務の壁】

壁4. この施策何のためにやっているの?

ぶつかる壁

・求人票作成して媒体更新する
・スカウトメール送る
・面接出る
・オウンドメディアの記事を更新する
…など、採用活動が活性化すればするほど、目の前の業務に追われてしまいます。

「とにかくやることが大事!とにかくやり続ければ成果がでる!」テンションで何も考えずにやっているわけじゃないのに、気がついたら目の前の業務に追われて一日終わってしまう人事の方も多いのではないでしょうか。

どうやって乗り越えるか

求職者視点で、戦略→作戦→戦術→施策…への落とし込みをしていく。施策の意味づけをする。

企画→施策への落とし込みを考える上で、コンセプトダイアグラムとジャーニーマップというフレームワークが使えます。

・コンセプトダイアグラム

コンセプトダイアグラム

・ジャーニーマップ

ジャーニー

それぞれについて解説しだすと長くなってしまうので、詳細についてはこちらをご覧ください↓

LINE青田さんの本も企画〜実践までの採用施策の落とし込みをするのに参考になるので、読んだことのない方にはおすすめです↓

壁5. オペレーションコストの増大

ぶつかる壁

施策いろいろ

求人票作成、媒体運用、スカウト送付、エージェント対応…これまでの採用活動に加え、ミートアップ企画、採用オウンドメディア運用、社員の巻き込みなど採用活動施策が増えれば増える分だけ、「見えないオペレーションコストと必要なコミュニケーションコスト」が爆増します。

採用のために施策を増やすほどに、人事がオペレーションを回すことに終始していく…なんとも悲しい事態です。

どうやって乗り越えるか

・オペレーションの可視化、細分化
・適切な業務設計とツールやアウトソーシングの活用

結論はこれです。人事業務って属人的になりがちですが、その業務を可視化、細分化した上で、ツール導入したり、アウトソーシングを活用することで効率化していくことが大事です。

例えば、応募〜面接までのオペレーションを考えると以下のようなフローが一般的だと思いますが、

オペレーション一般的

ナイルの場合は下記のように細分化し、ツールやRPOを活用しています。

オペレーションナイル

壁6. 優先度つけて動けているの?

ぶつかる壁

・求人票作成して媒体更新する
・スカウトメール送る
・面接出る
・オウンドメディアの記事を更新する
…など、採用活動が活性化すればするほど、目の前の業務に追われてしまいます(2回目)。

どうやって乗り越えるか

・歩留まりデータ算出
・データに基づいて、施策の効果検証と優先度付け

歩留まりデータ

今のところナイルでは下記数値を計測しています。
・採用数の予実管理
・応募者の選考歩留まり
・スカウトの歩留まり
・エージェント紹介の歩留まり

今年ATSを導入して、ちゃんとデータを取るようになってから、ようやく「ムダなスカウト稼働多すぎじゃない?」「このエージェント紹介数は多いけど、ほぼ書類落ちじゃない?」「媒体応募多いけど、この求人閉じていいんじゃない?」みたいな話ができるようになりました。

結果的に求人を閉じ、スカウト対象ポジションを絞り、エージェントコントロールをしたことで、応募数を抑えて、書類選考通過率をかなり改善することができました。

【③現場との間に生じる壁】

壁7. 採用要件どっちがわかるの?問題

ぶつかる壁

・現場:超絶優秀スーパー人材をお手頃に採用しようとする、市場にそんな人いないよっていう内容になってしまう

・人事:事業や職種に対する現場理解が乏しいため、求人広告のようになってしまう

現場と人事の壁

どっちが悪いわけでもなく、事業理解・採用(市場)理解のいずれかが片手落ちになってしまうため、双方が協力して補完しながら要件を決めることが大事です。

どうやって乗り越えるか

”現場”と”人事”が一緒に協力してジョブ・ディスクリプションを作成する。

ジョブ・ディスクリプション

壁8. 人事じゃスキル判断できない問題

ぶつかる壁

よくエンジニア採用ではエンジニアでないと面接できないとは言われますが、他ポジションについても現場業務をやっているわけではない人事では、スキルマッチを完全には判別しきれません。

人事で判別できる
・キャラクター
・コミュニケーションスキル
・(全社)カルチャーマッチ

人事では判別しきれない
・スキルマッチ
・(部署)カルチャーマッチ

どうやって乗り越えるか

・スキル判断ができる現場社員が面接担当・同席
・ワークサンプルテストの実施

ナイルでは人事も現場も面接に出ていますが、面接の中だけでスキルマッチを完全に判断するのは難しいと考えているため、選考プロセスで「ワークサンプルテスト(入社後の業務内容に模したワーク課題)」を入れています。

そのため、必ずしも初回面接で現場社員が担当しなくてもいいと考えています。ワークサンプルについての記事はこちら↓

壁9. 現場の面接力どうやって上げる?問題

ぶつかる壁

・適切な会社紹介、事業紹介が出来ない
・適切なヒアリングや見定めができない
・適切なアトラクトができない
・今やっていることばかり話して、未来を語らない
・一方的に”選ぶスタンス”になり、”選ばれる立場”であることを忘れている
…現場社員の面接力の低さに悩んでいる人事も多いのではないでしょうか。

面接力の低さは現場に問題があるのではなく、”人事が面接についてインストール出来ていない”ことによる要因がほとんどじゃないでしょうか。

どうやって乗り越えるか

・面接マニュアル作成
・面接勉強会の実施、現場インストール
・面接評価項目の策定
・面接同席してフィードバック
・オウンドメディアの活用

面接力強化

面接スキルも一種の専門スキル。自社の面接フォーマットを定義したうえで、現場社員にインストールしていかないと、現場任せでは面接力は上がっていきません。

壁10. 人事ちゃんと動いているの?問題

ぶつかる壁

「人事ちゃんと動いている?」
「いつになったら採用できるの?」
「できること全部やれてるの?」
…人事にとってはかなり殺傷能力の高いセリフですよね。

こんなセリフを言われたら
「ふざけんな!こっちだって忙しい中やってるんだよ!」
「せっかくやっているのにそんな言い方されたらやる気失せるわ」
といった感情になってしまいそうですが(というか、一時期自分もなってしまってました笑)、これの原因は”人事の動きが見えていないからです。

どうやって乗り越えるか

・全社経営会議での採用報告(四半期1回)
・事業部オールメンバーズMTG(定例会)での採用報告(月1回)
・現場との定例採用MTG(隔週)
・事業部とのSlackチャンネルでの報告(適宜)
・採用分報Slackで、人事の動きを垂れ流し(適宜)

ナイルの場合、上記のようにとにかく報告・共有する機会と回数を増やしていきました。定例MTGでの共有は他社でも当たり前に取り組まれていると思いますが、”今この瞬間に人事がどんな動きをしているのか”はそれだと伝わらないため、「採用分報Slack」で思いついたタイミングで情報を垂れ流すようにしています。

採用分報

情報を流すタイミングの一例
・求人票作成した時
・スカウトに返信あった時
・リファラル紹介あった時
・いい感じの候補者エントリーあった時
・内定承諾出た時
・オウンドメディアの記事公開した時

余談③)RoomClipまつもらさんの記事にも採用のブラックボックス化について言及されていました。

壁11. 採用に関心ない、非協力的問題

ぶつかる壁

「現場が面接に協力してくれない」
「現場がリファラル紹介に非協力的」
「現場がオウンドメディアの記事拡散に協力してくれない」
…こんなことを感じている人事の方も多いのではないでしょうか。

これも、”現場社員が採用に非協力”なのではなく”採用で何をすればいいかわわかっていないだけ”であるケースが多いです。

どうやって乗り越えるか

・入社時点での意識醸成大事(特にリファラル採用)
・人事の採用活動を可能な限りオープンに(壁⑩参照)
・採用に興味をもってもらうきっかけ作り(採用オウンドメディアで取材、採用マーケットの情報を共有)
・リファラルの定期アナウンス(どんなポジションがあるのか、誰に紹介したらいいのかなど意外と伝わっていない)
・SNSシェア(これは強制するものではない、やる人はやるし、やらない人はやらない。シェアしたくなる情報発信の努力をする)
・人事がSNS発信頑張る(現場で協力してくれる人とのコミュニティ作り)

と、人事からの情報発信・啓蒙活動などを当たり前レベルでやりきれているのかを突き詰めると結構出来ていないことありますよね(ちなみにナイルも最近ようやくやりだしたことも多いし、まだ出来ていないことも多いので、あまり偉そうなことは言えません)。

まとめ(スクラム採用体制作るのって大変)

■人事スキルの壁
1. 採用スキル≠PMスキル
2. 経営視点を持つことへの限界
3. 事業視点を持つことへの限界
■採用業務の壁
4. この施策何のためにやっているの?
5. オペレーションコストの増大
6. 優先度つけて動けているの?
■現場との間に生じる壁
7. 採用要件どっちがわかるの?問題
8. 人事じゃスキル判断できない問題
9. 現場の面接力どうやって上げる?問題
10. 人事ちゃんと動いているの?問題
11.採用に関心ない、非協力的問題

以上、スクラム採用を進めていくうえでぶつかってきた壁とその乗り越え方についてのお話でした。

余談④)BASE米田さんのイベント登壇スライドもスクラム採用を進めていく上で参考になります。

ナイルは150名規模で、今年の後半からスクラム採用体制にもっていこうとしているのですが、一気に移行しようとはしていません。

一定規模以上の企業が途中からスクラムに移行するには、制度やオペレーションの問題ではなく、現場とのコミュニケーションの取り方を丁寧にやって、段階的に移行していくのが現実的なのかなと考えています(スタートアップフェーズで経営主導でスクラム採用体制にする方がスムーズに移行できそう)。

余談⑤)フェーズ別の特徴についてはSpready株式会社の柳川さんの記事で書かれています。

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スクラム採用という言葉だけがバズワード的に流行るのではなく、色んな会社の人事がスクラム採用について学び、実践し、試行錯誤し、発信するなかで「人事レベル」「企業の採用レベル」が上がっていくといいなと思ってます!

明日はスクラム採用を提唱したHERP CEO庄田さんの記事です!お楽しみに!ではまた!

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