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短い言葉で学ぶデザイン

こんにちは、デザイナーの坪田です。デザインについて教える機会があるものの、デザインというとどうしても意味合いの幅の広さ、奥行きの深さから説明が長くなりがちです。そのデザインを短い言葉で理解できるようにしてみました。

短い言葉+説明文の構成にしていますので、もし気になった言葉があったら説明文も読んでみてください。

1:デザインの前提

世の中にデザインされていないものはない

まず「世の中にデザインされていないものはない」と知ることが第一歩です。デザイナーが手がけていても、デザイナーではない人が手がけていても、すべてデザインされているのです。デザインされているもの・されていないものではなく「プロによるデザイン・プロでない人のデザイン」、「良いデザイン・悪いデザイン」があるだけです。

デザインとアートは異なる

本屋に行くと美術とデザインがまとめられていることがよくあります。切っても切り離せない関係ではあるものの、この二つは違います。
山中俊治さんが以下のように話しています。

絵の上手な友人に「じゃあこのパンフデザインしてくれないかな」って頼むのは、彫刻家に家を建ててくれと依頼するのと同じぐらい無謀な話なんです。美術とデザインの違い。

山中俊治さんのTwitterより

デザインが上でもアートが上でもありません。「この二つは違う」というだけです。ただ、アートとデザインの融合したようなものや、中間に位置するようなものも存在しています。スペキュラティブデザインも融合しているように見えます。

絵が描ける=デザインできる ではない

デザインとアートが異なるように、絵が描けることとデザインできることは異なります。デザインをしていると「ロゴデザインをイラストが描ける人にお願いする人」を見かけます。ロゴは時代に対する耐久性も求められるものですし、パンフレットやチラシであっても目線の誘導や、1行あたりどのくらいの文字量が読みやすいか、行間はどのくらいが読み間違いが起きにくいか、なども考える必要があります。
もちろん、イラストを描けるデザイナー、デザインできるイラストレーターは存在しています。ですが、絵すら描けないデザイナーも存在します。両方できる人はレアで、両方できる場合は「強みにできる」と思ってください。

センスは「知識+経験」

「デザイナーです」と自己紹介した時に最も言われるのが「センス良くて羨ましいです。私は美術の成績悪くて……」という言葉です。デザイナーの多くは絵(イラストとは別物)を描けますが、それは天性の能力ではなく長年訓練したからです。そしてセンスというのは天性のものではなく、知識をたくさん身に付け、長年の経験をビッグデータのように溜め込んだからこそ身についた後天的なものです。本を読んだことも文章を書いたこともない人が小説を書くぞ!と思っても難く、たくさん読んでたくさん書いて、少しずつ成長して行くのと同じです。

アイデアは「降りてくる」のではなく「たどり着く」

鉛筆を咥えていれば、自動的にアイデアが降りてくる訳ではありません。関係者にインタビューしたり、様々な本や資料を読み漁り、動画や映画を観て、料理を楽しんだり、無関係なもの同士をくっつけたり、過去の体験を思い出したり、人の行動を観察して、分析して、それらを頭の中でまとめることで、やっとアイデアに辿り着くのです。本人が「降りてきた」と感じていたとしても、これらのことを無意識に行っているだけのことなのです。何もしていない人にはアイデアは出せません。

2:デザインの本質

もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。

これはアップルの創業者であるスティーブ・ジョブスが好んで用いていた、自動車を普及させたヘンリー・フォードの言葉です。当時、馬車が一般的な乗り物で、車という概念が一般的ではありませんでした。そんな中、顧客は「早い馬が欲しい」と答えるのですが、深層心理としては「早く移動したい」という気持ちでした。この言葉は「顧客は何を望んでいるのか顧客自身も気づいていない」という意味を持っています。現代においても「ジョブ理論」という考え方があります。「ドリルを買う人はドリルが欲しいんじゃない、穴を開けたいのだ」という考え方です。この考え方は優秀なデザイナーは持っている基礎となる考え方です。

デザインとは単に「どう見えるか」や「どう感じるか」ではない。デザインとは「どう機能するか」だ。

これはスティーブ・ジョブズの有名な言葉です。先述した通り、デザインは美しさのことだけではありません。

デザインは美しい解決法

「デザインは見た目を作る仕事だ」と捉えている人が多いです。ですが上で紹介したヘンリー・フォードの話でも分かるように、デザイナーは見た目だけではなく「何かしらを解決できる仕事」なのです。売上を解決する、使いやすさを持たせる、一貫性を持たせる、ターゲットに刺さるようにするなどなど……。ですが、解決するだけでは足りません。美しいだけでもデザインではない。美しく解決できることこそがデザイナーに求められる能力です。

デザイン = 機能 + 審美 + 背景

デザインを構成しているものは機能と審美(美しさ)、そしてそれらを繋ぐような背景(物語やコンセプト、ブランド)です。

デザイン = 理論 + 感覚

理論的な人、感覚的な人、どちらもいますが、デザイナーはどちらも使えなくてはいけません。デザインというのは人が使う(見る)ものです。なんとなく作ってしまうと使いにくかったり、見にくかったりします。かといって理論だけで作ってしまうと面白味がなく、無機質で近寄りがたいデザインになります。理論と感覚をバランスよく使ってデザインしたデザインが良いデザインだと言えるでしょう。

デザインは人と物、人と事、人と人とを造形と思考で美しく繋ぐ

デザインの定義は様々ありますが、この答えは結構好きです。デザインというのは人と何かを繋ぐものの総称ではないでしょうか。だから、エルゴノミクスやユニバーサルデザイン、視線などの言葉が重視されるのです。

美しさが人に与える影響は大きい

デザイナー倉俣史朗が「人の栄養になるデザイン」を目指していたように、美しさが人に与える影響というのは大きいです。これに関して面白い実例があります。イスラエルのテルアビブ大学とラビン・メディカルセンターの共同研究チームによって「通常の病院食の盛り付け」と「高級フレンチとして有名なポール・ボキューズが行った病院食の盛り付け」の比較実験が行われました。

研究では、ラビン・メディカルセンターの内科に入院した患者206人を対象に、提供される食事の量や品目はまったく同じ状態で、「通常の病院での盛り付け」か、「仏高級レストラン『ポール・ボキューズ』が監修した盛り付け」を受け取るグループに分類。食事の食べ残し量や、その後の再入院率との関係を調査した。

その結果、どちらのグループも、入院の影響で食事摂取量は落ちていたものの、ポール・ボキューズの盛り付けグループは、標準の盛り付けグループよりも多く摂取しており、その食事内容は、炭水化物が少なく、たんぱく質を多く摂取する傾向にあった。

また、食後にアンケートをとったところ、ポール・ボキューズの盛り付けグループは「食事がおいしかった」と回答した人の割合も多かった。

入院期間はそれぞれの疾患によって異なっていたものの、その後の追跡調査では、ポール・ボキューズの盛り付けグループは再入院率が13.5%だったのに対し、標準の盛り付けグループは31.2%となっていたという。

食事の見た目で再入院率に変化が出た理由について、研究者らは「食事摂取量や食事傾向が変わり、栄養状態が改善され、よりよい体調で退院できたからではないか」とコメントしている。

livedoor News「病院食、盛り付けはポール・ボキューズ おいしく食べて元気になる、再入院率も改善」より

デザインとは、美しいテクスチャのボタンを作って、素晴らしいアニメーション効果をつけることではない。デザインとは「このボタンを丸ごと無くすことができないか」と工夫することだ。

これはエドワード・タフティの言葉です。短い言葉というか名言になってきましたが、この「そもそも論」の考え方をクリティカルシンキングと言い、多くのデザイナーが身につけている能力でもあります。

3:デザインの技法

シンプル = 洗練

この言葉を間違えている人が多いなという印象を受けます。ただただ要素の少ないものを「シンプルだ」と考えている人も多いでしょう。要素の少ないだけのシンプルは言葉通りの意味「簡素」だと思います。ですがデザイナーの言うシンプルというのは「洗練」です。膨大な思考の末、アイデアを大量に描き、その中から選んだものを広げ、厳選してブラッシュアップ、清書して仕上げる。これがデザインです。これをせずに少ない要素を組んでいるだけでは「簡素」のままです。

神は細部に宿る

これは建築家にしてプロダクトデザイナーであるミース・ファン・デル・ローエの名言として有名です。これは「細部をこだわれば良くなる」という意味ではありません。デザインは構造(芯、本質、全体の流れ)が最も大切です。ですが細部で手を抜いてしまうと、その全体すらも壊してしまいます。そういう意味では「神は細部に宿る = 画竜点睛」と捉えた方がいいのかもしれません。

「なんか良い」を引き出すために徹底的にこだわる

お客さんが「なんか良いよねー」と言って手に取る商品、なぜ良いのか聞いてみても「何となく」以上の言葉はなかなか出てきません。でも人は無意識下で良いものを見極めることができます。細部が甘かったり、手を抜いているとなんとなくチープに見えたり、壊れそうに見えます。

でもその反面、デザインしていると「そこ、そんなにこだわる?」と言われることもあります。私は、このこだわりこそが「なんか良いなー」の正体だと考えています。

ファッションとは、上級者になるほど引き算である

これはココ・シャネルの有名な言葉です。これはファッションに限らず、デザイン全般に当てはまる言葉です。一般的にはデザインは情報量が減るほど高級感や洗練さが増し、逆に情報量が増えるほど説明的で俗世的な印象が出てきたりします。同じカテゴリ内であれば金額が上がるほどに色数が減り、モノトーンになっていきます(もちろん例外もあります)。反面、金額が上がって装飾が増えるものは、アール・デコのような歴史を感じますね。

4、オマケ(十ヶ条)

「デザインとは」で避けて通れないのが、ディーター・ラムスの言葉です。ラムスはヴィースバーデン製作技術学校で建築ならびに大工技術を習得し、建築家のもとで働いた後、電気機器メーカーであるブラウンに入社。1961年よりデザイン部門のディレクターとして1995年まで勤務したプロダクトデザイナーです。

ラムスのデザインは、iMacやiPod、iPhoneをデザインしたAppleのジョナサン・アイブに影響を与えている、と多くの人が指摘しています。特に、iPhoneの計算機アプリケーションには、ラムスがデザインしたBraun ET66計算機からの影響が明らかであるとされています。ラムスは、現在における大衆化した「良いデザイン」の代表としてアイブの仕事を高く評価しており、「アップルのデザインは私のデザインのコピーなどではなく、私の過去の仕事に敬意を表してくれていると思っている」と語っています。そのラムスが良いデザインの十ヶ条を提唱しています。

ディーター・ラムスによる「良いデザイン」の十ヶ条

1. Good design is innovative.
2. Good design makes a product useful.
3. Good design is aesthetic.
4. Good design makes a product understandable.
5. Good design is unobtrusive.
6. Good design is honest.
7. Good design has longevity.
8. Good design is consequent down to the last detail.
9. Good design is environmentally friendly.
10. Good design is as little design as possible.

1、良いデザインは、革新的である。
2、良いデザインは、実用的である。
3、良いデザインは、美しい。
4、良いデザインは、分かりやすい。
5、良いデザインは、主張しない
6、良いデザインは、誠実である。
7、良いデザインは、古びない。
8、良いデザインは、細部まで一貫している。
9、良いデザインは、環境に優しい。
10、良いデザインは、純粋で簡素である

いかがでしたでしょうか。デザインを学ぶのは難しいのかもしれませんが、一つ一つ見ていくと感覚的にでも理解できるようになると思います。他に良い言葉があれば追加したいと思います。ではでは。

SPOT DESIGN 坪田将知

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最後まで読んでいただきありがとうございます。コメントもすべて読ませていただいています……!