なぜ日本のポスターはダサいと言われるのか。
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なぜ日本のポスターはダサいと言われるのか。

映画好きのデザイナーつぼたです。日本のポスター、特に映画のポスターはダサいとSNSでも頻繁に話題になります。映画好きの私が見ても「うーん、これは魅力的な映画に感じられないなぁ」と感じるポスターは非常に多いです。しかし映画自体はとても面白い。なぜそうなるのかを分析・解説していきます。

1、組織形態

まず初めに説明しておかなければいけないのが「日本のデザイナーのレベルは高い」ということです。「ダサいポスターが溢れてる日本はデザイナーも大したことないんじゃないの?」と感じる方もおられると思いますが、私は日本のデザイナーのレベルは高いと感じています。しかし「デザインを進めて良いかどうか」の承認権を持っている人はデザイナーでないことが多いです。

デザインに民主主義は存在しない」という考え方があります。別の記事で少しお話しした、ヘンリー・フォードの「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは“もっと速い馬車が欲しい”と答えていただろう」という言葉に表されるように人々は自分の欲しいものに気がついていません。話を聞いただけでは「いらない」と思っても、商品を見た途端欲しくなり、買ってしまってお気に入りの商品になることなんてよくあります。このように提供する側は「人々が求めているかどうか」という「先見の明」を持つ必要があるのです。
しかしながら、デザインの良し悪しの分からない承認者は多数決でしか判断できません。そして多数決では尖った(好き嫌いが分かれるが熱狂的なファンが生まれる)商品はすべて排除されます。

世界のブランド価値ランキング頂点に君臨するアップルの副社長はデザイナーです。つまり承認するのがデザイナーなのです。だから皆が欲しがる良いものを出すことができているのです。

デザイナーの佐藤卓さんが川島蓉子さんとの対談でこのようなことをお話しされています。

組織図がきれいですっきりしている企業は、だいたい経営がうまくいっている。そしてデザインも良かったりする。一方、組織図がぐちゃぐちゃで汚い企業は、情報の伝達が良くなくて、商品のデザインもぱっとしない。

組織形態はデザインの良し悪しに直接と言って良いほど影響するのです。

2、単一民族・単一言語・識字率

日本は島国です。長年単一民族国家として成り立ってきました。また日本は高い識字率99%という高い数値を誇っています。現在世界的に識字率は高くなってきているため日本の順位は下がっていますが、江戸時代は世界一位だったとも言われています。
つまり、大半が日本人で日本語を使える日本においては「日本語で話せばほぼ完全に伝わる」ということです。移民の多い国では1つの言語では伝わりません。すべての人に伝えようと思うと様々な言語を網羅しないといけないですし、手間も時間もかかります。それよりは図で伝える方が簡単です。

日本においては、海外からの旅行客が増加するオリンピックのタイミングでピクトグラムは一気に増加しましたが、根本のコミュニケーションは日本語です。だから日本人向けの映画のポスターには、タイトル以外に「〇〇の物語」や「衝撃の実話」とか「極限のサバイバルアクション」という説明する言葉がどんどん足されていきます。

3、失敗したくない性格

また日本人の性格も関係していると考えています。インドでは「あなたも迷惑をかけているのだから、他人の迷惑を許しなさい」と教わるそうですが、日本では「他人に迷惑をかけないように」と教わりますし、行動します。失敗すれば迷惑をかけてしまうということで、極端に失敗を恐れているようにも感じます。失敗したくない、迷惑をかけたくない、間違えてると思われたくないという気持ちからか、マナーを扱う番組や記事は多く見られます。

ダサいポスターとセットになっている長い長いタイトル。これはラノベ(ライトノベル)から始まったと言われていますが、私はこのタイトルこそ「失敗したくない」が影響していると考えています。長いタイトルを見てみると、情報が詰まっています。主人公の立ち位置、舞台、ストーリー。「文章」を超えてほぼ「あらすじ」です。内容を知らせることで「これなら見ても良いかな」と思わせるのです。

調べた中で最も長かったラノベタイトルは「元勇者のおっさん、転生して宿屋を手伝う ~勇者に選ばれ親孝行できなかった俺は、アイテムとステータスを引き継ぎ、過去へ戻って実家の宿屋を繁盛させる」の72文字でした(2021年6月現在)。

映画のタイトルに関しては言語による文化の違いがあるため、直訳では伝わらないタイトルもあります。例えば「lemon」には「無価値な人、欠陥商品、欠陥車」という意味があります。このように日本では成り立たない意味は変更する必要があるかもしれません。
しかしながら、捻じ曲げとも言えるタイトル変換は頻繁に起こっています。最近では「HORIZON LINE」というタイトルが邦題で「元カレとセスナに乗ったらパイロットが死んじゃった話」というラノベに影響を受けたような「あらすじタイトル」になってしまっています。その後セスナはセスナ社の商標ということで後に「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」というタイトルに変更されたことからも、深く適切なタイトルを考えるというよりも「内容を伝えること」を重要視していることが分かります。

4、機能至上主義

日本の企業のCMを見てみると「明確な機能やサービス」を大々的に打ち出しているものが多いです。自動ブレーキ、補助金、良い香り、無臭、今なら増量、お得、軽い、便利などなど。もちろん困っていることに対してこういった「具体的な良さ」は分かりやすく購入したいと感じます。

しかし、近年の商品というのは技術が頭打ち状態でどれも同じような機能を持っています。そこで大切になるのは「情緒的価値」です。価値には大きく2つ、機能的価値と情緒的価値があるといわれています。機能的価値は先ほど例に出したような具体的な機能から恩恵を得られるもの。情緒的価値というのは買うことで得られる感情やワクワク感です。これは具体的な言語化は非常に難しい価値になります。

組織図の話に近いですが「具体的な言語化の難しい価値」を社内プレゼンでどう伝えれば良いでしょうか。おそらく誰もが機能的価値の説明をして承認を得ることでしょう。つまり情緒的価値を理解する提案者と、同じく情緒的価値を理解できる承認者がいないと、機能的価値だけの商品が生まれ続けてしまいます。

海外の企業のCMは、日本のものと比べて情緒的なものが多いです。アップルのAirPodsのCMでは音楽を聴きながら男性が街中を楽しそうに歩いりた踊ったりしているだけだったり、車のCMでは街中を車が走り抜けるCMだったり。もちろん機能を伝えるCMも存在しますが、日本ほどではありません。

そんな中、日本で1つのCMが話題になりました。ポカリスエットのCM「でも君が見えた」です。大掛かりセットで長回しで撮影された映像の最後の方に「汗が私をつれていく。」と「手を伸ばそうよ。届くから。」とだけ。これがよくあるCMだったら「美味しい」や「身体の水分を効率的に補給」と言いたくなるのに、それすら無い。ですがこのCMは大バズりし、絶賛されました。大塚製薬のブランディングやCMは素晴らしいものが多いですが、このCMは特に素晴らしかったです。

機能至上主義の日本において一つの希望が見えたCMでした。


5、新しさ・奇抜さを求める

日本というのは新しいものに対する寛容性が高い国です。日本ほど世界各地の料理が食べられる国はないとも言われています。それほど新しいものを受け入れられる国民性です。この料理に関してはプラスに働いていますが、メーカーの製品ではマイナスに働いてしまうことも多々あります。

日産でカーデザイナーとして働いた後、アウディに移籍した和田智さんのエピソードが面白いので紹介します。

僕のアウディでの代表作に「A5」という車種があります。2ドアクーペです。2ドアクーペというのは、4ドアセダンとは異なり、実用以上に、美しさが求められます。おかげさまで、社内でも市場でも非常に高い評価をいただきました。現在に至るアウディのデザインの流れと、もっといえば、ヨーロッパにおけるクーペの復権のきっかけをつくったデザインだと自負しています。この「A5」がモーターショーで発表されたとき、ちょっと面白いことがあったのです。

日本の大手クルマメーカーの部長が訪れて、「A5」を眺めたのち、僕にこう言ったんですね。

「いやぁ、このクルマ、凄くいいけど、デザイン、古くない?」

問題は、「新しい」「奇抜な」デザインを、誰が求めているのか、ということです。この部長さんが「デザイン、古くない?」とおっしゃったとき、まだ「A5」は発売されていませんでしたが、その後の評価は、市場での売れ行きが証明しています。ここに、日本企業のデザインにおける「新しい病」の深さの一端が垣間見えませんか?

哲学や思いをデザインし、結果として新しいデザインになったのであれば、とても健全で、今までにない生活を切り開くものでしょう。ですが、日本では「短期的に売れるデザイン」を目指し、「新しさのための新しさ」や「新しさのための奇抜さ」が日々生み出されてしまっています。新しいことが正しさでも求められていることでもないのにです。

競合がひしめき合っている市場・業界・ジャンルを「レッドオーシャン」と呼び、反対に競合が存在していない市場・業界・ジャンルを「ブルーオーシャン」と呼びます。
皆がブルーオーシャンを探しており、それに関しては正しいことだと思います。それが適切な企画になれば良いのですが、中には「変わったこと = ブルーオーシャン」と勘違いされている方がおられます。倫理的にやってはいけないこと、誰も良いと思わなかったこと、明らかに悪いものなど「あえて誰も手を出さなかったこと」に手を出してしまうことがあります。「やってみないとわからない」ということはあるかもしれませんが、こういった「皆が気づいていたけど避けていたこと」は最悪の場合、炎上に繋がってしまいます。

6、芸能人大好き

日本の映画のポスターの特徴として「タイトルが説明的」もしくは「タイトル以外に説明が色々と記載されていること」が多いですが、他にも「キャスト全員が写っているポスター」をよく見かけます。

日本では「芸能ニュース」が大きな割合を占めていると言われています。Yahoo!のトップニュースのカテゴリの割合に関して、アメリカでは芸能ニュースが全体の3%、イギリスでは12%、日本ではなんと35%もの割合を占めているのです。

良くも悪くも他人に興味のある日本人ですが、提供する側にとって、この「芸能人大好き日本人の特性」を使わない手はありません。そこで「キャスト全員が写っているポスター」にするのです。「誰が出演しているかという情報」を伝えるために用いられますが、その分、映画の雰囲気を壊してしまう事も頻繁にあります。

この芸能人・有名人に対する興味が映画のポスターだけでなく、映画の質にも関係してしまっています。

「LIFE!(原題:Secret Life of Walter Mitty)」という映画があります。私は今まで1,100本(2021年6月現在)の映画を観てきましたが、この「LIFE!」が最も好きです。この「LIFE!」はストーリーも音楽も映像も良く、レビューも平均星4以上が付くほどとても人気の映画です。ですがレビューを読んでみると「吹き替えは絶対に観るな」という意見が数多く寄せられているのです。主演の吹き替え担当は岡村隆史さん。「チコちゃんに叱られる」など数多くのテレビ番組に出演し、とても人気のお笑い芸人&タレントさんです。ですが、コメントでは「関西弁で棒読み」といった意見が多く見られました。通常であれば声のプロである声優さんが務めるはずですが、おそらく「映画の質 < 話題性」で依頼されてしまったのでしょう。字幕で観た人、吹き替えで観た人で大きくレビューが分かれてしまいました。

7、子供の頃の価値観

私は子供の頃に触れるデザインはとても大切だと考えています。なぜならデザインの好みは子供の頃慣れ親しんだものに影響されるからです。
私は職業柄、様々なプロダクトやグラフィックを見て「良いデザイン」を学んできています。その甲斐あって良いデザインの判別が付きますし、良いデザインを見るとワクワクします。しかし、もう一つワクワクするものというのが「子供の頃好きだった玩具やヒーロー」です。
記憶が曖昧だったものの、最近思い出して調べてみたのですが、私は「特捜ロボ ジャンパーソン」や「ブルースワット」、「重甲ビーファイター」といったものが好きだったようです。見ると「あの時すごく欲しかった玩具!」や「あのシーンワクワクした」という楽しい気持ちが思い出されました。子供の頃に感じた感情というのは大人の時に感じた感情の何倍も残る気がします。

ですが、その「子供の玩具のデザイン」を見てみると「美しさ・格好良さ」よりも「売りやすさ」を重要視されているものが多い印象を受けます。また、玩具のパッケージの色合い・文字・レイアウトを見てみると、ダサいと言われてしまっている映画のポスターや、見にくいプレゼンテーションのデザインに近いようにも見えます。

子供が本当にいいものに触れる機会というものは多くないです。大抵「いいもの」は高額であることが多く、安いものや身近なものの中から「いいもの」を判断するには訓練が必要です。

ですが、2011年に放送を開始された「デザインあ」はデザインの思考や視点を学べるだけではなく、高品質なデザインに触れることができます。誰もが知る商品を多く手掛けているグラフィックデザイナーの一人である佐藤卓さんと、インターフェースデザイナー&映像ディレクターとして知られる中村勇吾さんが監修されています。ぜひ観てみてください。

8、見慣れてしまっている

最近は分からないことはYouTubeで検索して動画で知識を得るということが増えました。それと同時に、デザイナーでない方が作ったグラフィック(サムネイル)を見る機会も増えました。

人気のユーチューバーでもご自身でデザインされている方もおられると思います。「デザイン経験のない人が作ったサムネ」を見て、そのサムネに慣れてしまい、人気ユーチューバーに憧れて、自身が作る時に同じようにデザインをして、それを観ている人が更に真似をする。という悪循環に陥っている気がしてしまいます。

以前、こんまりさんのYouTubeチャンネルが日本と海外でサムネイルを分けているというツイートが話題になりました。日本向けのサムネイルになった理由はこの記事で述べたことが理由だと思います。

最近はいいサムネの動画も少し増えてきていますし、もっと広がってくれたら、最終的に映画のポスターも良いデザインになるかもしれませんね。

※ この記事はブログ「つぼた通信」の「なぜ日本のポスターはダサいと言われるのか」の移植になります。

SPOT DESIGN 坪田将知

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坪田将知。SPOT DESIGN代表、プロダクトデザイナー。デザインバカの人。デザイン視点で何かを分析するのが趣味。ウェブサイト:https://spotdesign.jp