嘘と虚構と付き合い方
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嘘と虚構と付き合い方

近年、VR・AR・CG・写真加工などの技術の発達が目覚ましく、現実と現実でないものとの境界線が曖昧になってきているように感じます。仮想世界、非現実、理想、妄想、偽物、作り物、フェイク、嘘……様々な表現がありますが、この記事では「現実」と比較して「虚構」と表現します。そんな現実と虚構の関係性に関していくつかの視点から思うことを書きました。

1、スマホ1台で生活が成り立つ

昔は物に溢れた生活をしていましたが、現在は「モノからコトへ」という言葉に表されるように、物質としてのモノがどんどん減ってきています。理由としては、体験価値が重要視されてきたり、技術が頭打ちになり差別化の手法としてコトが注目されていたり、買う側も購入後どんな価値を提供してくれるのかを期待していたり、と様々ありますが、その一つに「スマホ1台で済むから」というものもあるでしょう。

本はKindleに、CDとプレーヤーはSpotifyに、VHSはDVDになって今はAmazonプライムやNetflixやHuluなどに。辞書も、時刻表も、電話機も、懐中電灯も、財布も、切符も、文具も、カメラも、手紙も、カレンダーも、地図も、時計も、ゲーム機も、天気予報までもスマホ1台で済んでしまいます。

現代のスマホ1台のスペックは、1969年の月面着陸したアポロ11号をサポートしていた「NASAの管制室全体」よりもハイスペックだそうです。

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物質としてのモノがどんどん減ってくる反面、デジタル側のモノ(コト)はどんどん増えてきています。
そして最近、川崎市で量子コンピューターの運用を開始したというニュースもありました。ムーアの法則に則って、これからもコンピューターはどんどんと能力を伸ばしていくでしょう。

2、ゲーム依存症

ゲームはオンラインゲームが登場し、ゲームに終わりがなくなってきました。通信機能自体も発達して、いつでもどこでも仲間と対戦したり共闘したり、コミュニケーションを取れたり、ゲームの中にひとつの社会が形成されました。ゲーム内でデートをする人や結婚をする人まで現れました。

2019年、WHO(世界保健機関)による国際疾病分類の最新版で、ゲーム依存が「ゲーム障害」の病名で依存症に加わりました。 ハマりやすいゲームの特徴をざっくり説明すると「ゲーム内にガチャやコレクション要素があること」と「そしてゲーム内で人と関わることができること」です。

マズローの欲求5段階説というものがあります。下から順番に、生理的欲求(生命維持)、安全欲求(身の安全)、社会的欲求(人と関わりたい、集団に属したい)、承認欲求(認められたい)、自己実現(自分の能力を発揮したい)です。これは本来下から順番に満たされていくと言われています。

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現代のゲーム(仮想世界)においては、上の3つを簡単に満たしてしまいます。そうなると現実世界では食事・睡眠・排泄を行い、安全な家と一定の収入が存在すればよくなります。現実世界の行為が基盤にはなるものの「ゲームの世界が上位」になってしまいます。

3、過剰表現と慣れ

3-01、ジブリっぽい

少し話が変わりますが、山や海外に行って大自然を前にしたとき「ジブリっぽい」と感じたことはあるでしょうか。大自然を「大自然を基に描かれたアニメ」で例えるこの言葉は逆転しており非常に奇妙です。しかし、皆当たり前のようにそう感じて、そう説明します。

ジブリの監督といえば、宮崎駿さんと高畑勲さんのツートップ。それぞれ名作をたくさん生み出してきましたが、お互いをライバル視していたことも有名です。二人とも名監督に違いないのですが、アニメの描き方はかなり異なります。皆が語る「ジブリっぽい」という表現は、おそらく「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」、「ハウルの動く城」など、ファンタジー色の強い宮崎駿監督の作品でしょう。実際の自然では見ることが困難なほどの鮮やかな樹々の緑。とても魅力的です。

しかし高畑勲監督は、この「ジブリっぽい表現」を好まなかったそうです。「人は現実を超えた過剰に慣れ、物足りなくなり、どんどん過剰な表現へと傾いていく」と考えていたようです。そのため、高畑勲監督の作品の自然は「平成狸合戦ぽんぽこ」や「火垂るの墓」のように、アニメにしては現実と同じようにくすんだ色の現実的な表現になっているか、「かぐや姫の物語」のように現実とは異なる表現になっています。

写真には「記憶色」と「記録色」があると言われます。記憶の中の色やフォルムは実際の物とは異なっています。自分の中で鮮やかにしていたり、理想に近づけたりしているようです。私は「宮崎駿監督は記憶色」で「高畑勲監督は記録色」のような印象を受けました。

3-02、ヌードデッサンのできない学生

以前、興味深いブログに出会いました。「三次元ヌードへの拒否反応」というブログで、デザインの専門学校に通うブロガーさんが、美術系のヌードモデルをしているベテランのモデルさんから聴いた話だそうです。

クロッキーの授業が始まってしばらくしたら、気分が悪いと言って退室する学生が幾人か出たという。
(中略)
アニメーションコースに来るような学生は、だいたい女の子の絵を厭というほど描いている。実物の女のヌードを目の当たりにする前から、女の子のヌードの絵も描いている。そこで頭の中に、かわいくて理想的な女の子の身体イメージというものが、既に確立されている。
しかし。現実の女性はアニメ絵とは違う。ずっとずっとナマナマしくリアルそのものだ。二次元では余計なものとしてあらかじめ省かれたり簡略化されたりしている細部もある。体を捻った時にできる皺とか脂肪の盛り上がりとか毛とか、その他いろいろ。
頭の中の女の子像とそれらとは、もちろん一致しない。どんなきれいなヌードでも、アニメの女の子のようには脚が長くないし、じっと見ていればさまざまな「ノイズ」が目に入ってくるのは当然だ。そのことに耐えられなくなって、気分が悪くなるのである。

三次元ヌードへの拒否反応 より)

アニメやイラストというのは「デフォルメ」が多いコンテンツです。省略することで特徴を出したり、見せたい部分に注力しやすくなります。省略されたものというのはとても魅力的に感じます。シワがなく、うぶ毛も毛穴もなく、老いません。

3-03、プリクラとスノー

現代人はアニメやイラストだけではなく、プリクラや加工アプリで自分自身を「加工すること」に慣れています。アニメのように目を大きくすることもでき、その大きな目に対する違和感も感じにくくなっています。その結果、カメラマンが撮影した人に「私はこんな顔じゃない」と言われたというエピソードも聞きます。

データの中だけではなく、整形技術の発達によって理想と自分を重ね合わせることも可能になりました。

それこそ先に述べたゲームにおいては、自分の理想の姿になることもできます。理想の自分になる機会が増えることで、理想と現実のギャップが大きくなっているような気もします。

4、フェイクニュースとデマ

そして近年、問題となっているのがフェイクニュースやデマです。特に大きなイベントや事件の際に増加する傾向にあるようで、コロナ禍においても増加しているようです。そのフェイクニュースやデマの中にも「意図的」と「勘違いや知識不足」そして「確証バイアス」によって引き起こされるものがあります。

4-01.勘違いや知識不足

基本的に情報提供者/拡散者の知識不足や勘違いが原因になるものは、「よく考えればデマだと分かるもの」が大半です。なので「よく考えること」と「情報ソース」を調べることが必要です。

知識不足によって引き起こされたデマの例を1つ紹介します。皆がアルコール消毒をするようになった2020〜2021、SNSで「アルコール消毒のかかった台が錆びている。鉄を錆びさせるような危険なものを手につけるのは危険だ」という意見が拡散されました。小学生の時に「鉄は水でサビる」と勉強しますし、よく考えれば分かる話です。ですが安直に信じてしまう人も一定数存在します。

アルコールもそうですが、コロナ禍においてはこの知識不足によるフェイクニュースやデマが横行しています。マスク、ワクチン、トイレットペーパー……。アメリカの反マスク・反ワクチンの共和党議員が感染して死亡したことからも何が本当で何が嘘かは予想がつきます。

こういった知識不足や勘違いは、拡散者が正しい知識を得ることで止まりやすいですが「確証バイアス」によって引き起こされるフェイクニュースやデマは「拡散者が強く信じている」ため、少し厄介です。

4-02.確証バイアス

「確証バイアス」で有名な例が「陰謀論/都市伝説」です。例えば「アポロ11号は月に着陸していない」という都市伝説があります。この都市伝説を信じている人たちに「映像が残っている」と訴えると「映像は捏造されている」と答えますし、「空気がない宇宙空間で旗がなびいているのはおかしい。空気のある地球で撮影されたという証拠だ」とも答えます。

もう一つ面白い例が、Twitterで「Photoshopが発売された年からアメリカではUFOの発見報告が爆発的に増加したというグラフ」というものが紹介された、というものです。グラフ自体はツイートした方の意図するものではなかったそうですが、今回のポイントはそこではありません。このツイートに対して、他の方がジョークで以下のように引用リツイートされました。

エッエッ…これってUFOがPhotoshopを地球に持ち込んだって…コト⁉︎ 

これは非常に面白い視点で、確証バイアスを持つ人の模範回答です。陰謀論者を皮肉った良いジョークだなと感じました。

確証バイアスというのは「結果ありき」で、その「自分の信じる結果を補強するために都合の良い証拠を集める傾向」にあります。先述の「月面着陸」に関して「真空状態の旗のなびき方」と「空気のある状態での旗のなびき方」の実験が行われ、「月面で撮影されたとされる映像の旗のなびき方は真空状態のなびき方と同じ」という結果が証明されました。ですが確証バイアスを持つ人々にとって、それは都合の悪い証拠であり信じたくない証拠なので、無視するか「あの映像は捏造された」と苦しい言い訳に走るのです。

コロナに関しても同じです。「コロナが存在しない」と信じる人は「存在しない証拠」を集めます。どれだけ「存在する証拠」の方が説得力があっても、自身が信じるものを補強する考えの方を信じます。そもそも証拠を対等に扱うことはしません。
先述した「アメリカの反マスク・反ワクチンの共和党議員が感染して死亡」というのも確証バイアスの人の思考としては「真実を知られると都合の悪い人が暗殺をした」と答えるでしょう。

以上の事例からもわかるように、確証バイアスを持つ人は、どれだけ無理のある違和感のある結果だったとしても結果を変えることなく、証拠を結果に合わせて変えようとします。

この「確証バイアスを持つ人の思考」のことをジュリア・ゲレフは「兵士のマインドセット」と名づけ、反対に「自分に都合の良い悪いに関わらず物事を正確に捉えようとする思考」を「斥候のマインドセット」と名づけました。

4-03.悪意を持つ意図的な拡散

確証バイアスと同じく、意図してフェイクニュースを広めようとしている場合は、バズらせようとしている場合にせよ、人を騙す事で楽しんでいる場合にせよ、巧妙で手が混んでいるため別の危険があります。

意図的に作られたものというのは、明確で都合の良い解釈を提供してきます。映画で、大筋と関係のないストーリーは省かれます。省かずにすべて見せてしまうと何を言いたいのか何の映画か分からなくなるからです。映画と同じように、理解しやすいように悪意のある虚構も作られます。信じたくなるように、都合よく切り取られたりします。ちなみにうまく嘘をつく方法は「真実を混ぜ込むこと」だそうです。

こう言った悪意を持つ虚構は政治にも影響を与え始めています。例えばアメリカでは「Qアノン」の陰謀論を信じる人たちが多く存在します。また何万人という人々が「地球は平らであり地球が丸いというのは政府の陰謀だ」と強く信じています。これらも一つ一つを読んでいくと、もっともらしく、あたかも「世界の隠された真実を見つけた」と、「この真実をみんなに知らせないと」と錯覚するように作られています。こうして錯覚を起こすように作られたニュースに騙され、兵士のマインドセットの人たちが拡散していきます。

中でも危険なのがディープフェイクです。ディープフェイクとは、「deep learning(深層学習)」と「fake(偽物)」を組み合わせた混成語で、人工知能にもとづく人物画像合成技術を指します。既存の画像と映像を合成することで、実際には起こっていない偽の映像が生み出されます。

映画の世界ではデジタルダブルという技術も存在しており、このディープフェイクの技術はとても便利なモノです。しかしその反面、実際にはしていない性行為をしているように見せかけたり、実際とは異なる言葉やジェスチャーに変更するといった政治的な利用が可能となってしまいます。虚偽報道や悪意のあるでっち上げを作成するためにも使用され得ます。

今までの常識では「写真が存在する = 証明」になってしまうので、このディープフェイクはフェイクニュースにも多大な影響を与えています。

5、まとめ

現実と虚構の比較という形で紹介したこれらの事例はバラバラなようにも感じますが、これらには共通項があります。それはノイズです。

当たり前ですが「現実」というのはノイズがあるもので、魅力的に感じられないものも多いです。それに比べて仮想現実やアニメ、フェイクニュースといった「虚構」はノイズが非常に少なく、都合が良く、現実世界にほとんど存在しないほどドラマチックで、とても魅力的なものです。のめり込むのも、信じてしまうのも理解できます。

先ほども述べた通り、ドラマや映画では大筋とは関係のない部分は語られませんし、乱れた髪の毛は随時整えられます。デマやフェイクニュースでは都合の悪い事柄には触れられません。しかし、こう言った作り物というのは裏で必ず無視されたり省かれたモノが存在し、そして大なり小なり得をする人が存在しています。

私も映画やアニメは大好きですが、それは作り物として楽しんでいます。また都市伝説も「存在するか?しないか?」の境目が楽しさの一因です。ですが、やはり本物と作り物は分けなければいけません。

東大在学中に「東京大学UFO研究会」を創設し
た映像解析専門家の藤木文彦さんという方がおられます。藤木さんは「幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー」に出演した際に次のように語りました。

どこから知らない世界からの信号とかそういうものがあるとしたら。何か不思議な本当にどこかから我々の知らないものが現れてきているとしたら。それの正体を知るためには、間違ったものは除いていかなきゃいけない。

今後もどんどん虚構が大きくなっていくでしょうし、フェイクニュースやデマもどんどん出てくるでしょう。メディアを盲目的に信じるでもなく、言われたことを鵜呑みにするのでもなく、自分に都合の良い解釈をするのでもなく、本物と作り物をちゃんと分けて付き合っていく術をしっかり学ぶ必要があるのだと思います。

SPOT DESIGN 坪田将知

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坪田将知。SPOT DESIGN代表、プロダクトデザイナー。デザインバカの人。デザイン視点で何かを分析するのが趣味。ウェブサイト:https://spotdesign.jp インスタグラム:https://www.instagram.com/spotdesign_tsubota/