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「移動×ケア」で生まれた新しい可能性。「CAREBUS」が静岡の病院に出展しました

DIYが完成したばかりのspods(スポッズ)のバスが向かったのは、静岡県静岡市にある静岡赤十字病院。7月20日(土)に開催される、「しずおか日赤まつり」に出展するためだ。

え、「移動型クリエイションスタジオ」がなぜ、地域の病院へ? きっとそう思われる方もいると思う。実際、筆者も最初に話を聞いたときはそう思った。

まずは、今回のプロジェクトの3つの“狙い”からお伝えしようと思う。

1.病院に出展して、移動する医療ケアの場「CAREBUS」(ケアバス)を提案すること
2.医療従事者や患者のみなさんに、最新鋭の医療テクノロジーを体験してもらうこと
3.これからのspodsがどう動くべきか、課題や要望、可能性を探ること

1.移動する医療ケアの場「CAREBUS」とは

「CAREBUS」(ケアバス)プロジェクトの発起人は、磯部洋子さん。spodsの代表でもある彼女だが、実は8年前に乳がんを経験している。

「闘病中は毎日が家と病院の往復。安心して、少しでもリラックスできるような第3の場所(サードプレイス)が欲しいと思っていました」
 
そんな思いを話してくれた。静岡市出身の磯部さんは、静岡赤十字病院でがん治療を経験。がん患者サロンにも足を運んでいたご縁もあり、今回のプロジェクトを企画したという。

年に1度開催される「しずおか日赤まつり」では、骨密度や体脂肪などを測定できたり、手術着を着て手術の機器に触れたりと、患者も市民も職員も楽しめるようなブースが多数出展されている。

その中で、spodsは「クロスカフェ」を出展。お花のブローチを作る寄付型のクラフト・ワークショップを企画した。これはお花のブローチを作る体験ワークショップ参加費や材料費を、がん患者の支援や「CAREBUS」の活動資金に充てる仕組みだ。

2人に1人はがんになる時代。治療によって働けなくなり、生活に不安や困難を抱えるがん患者は多い。このアイデアは、がん治療中の洋子さんの友人がハンドメイドのビーズの指輪を販売していたことから生まれた。

「CAREBUS」をはじめ、病院の売店などでブローチを販売して、患者さんをサポートしていきしたいと考えている。

その他、手作りのビネガードリンク、病院側と連携した医療者によるハンドマッサージのコンテンツを提供する。
 
ポイントは「バスの中である」ということだ。どこにでもスポットで行ける「移動する医療ケア」の場をつくること。例えば、これが病院の一室だったならば、また意味合いが変わってきただろう。

2.最新鋭の医療テクノロジーを体験してもらうこと

今回は、順天堂大学とともに医療用VR(仮想現実)コンテンツを開発・提供しているスタートアップ、株式会社イグニス(パルス株式会社)も、プロジェクトに参加した。

一度はVRを体験したことがある人も多いかもしれないが、この医療用VR「うららか VR」は、主に慢性化した神経障害性疼痛(3カ月以上続く神経性の痛み)の緩和を目的として開発された。

利用者は寝たままでも、VRゴーグル「Oculus Go(オキュラスゴー)」を装着するだけで、シューティングゲームや、森林を歩く映像などのコンテンツが楽しめる。

静岡赤十字病院の職員の方も、医療用VRを試してもらった。


「VR超楽しい!」と2回もブースを訪れてくれた子どももいた。

同社の木下将孝さんによると、臨床試験では、神経引き抜き損傷による幻肢痛(実際には存在しない部位や感覚を失っている部位であるにも関わらず、痛みやしびれを感じること)の40代男性が、このVRによって痛みを軽減できた例などが報告されているという。

VRに没入することで、瞬間的に環境を変えることができ、患者が痛みやしびれを感じることへの「集中」や「執着」から一時的に切り離されるのではないかと考えられているという。

spodsの「CAREBUS」では、この「うららかVR」もコンテンツの一つとして出展した。 

いろいろな人に最新のテクノロジーを試してもらいたいが、なかなか展開に労力を割けない開発企業側と、いろいろな新しい技術を知りたいが、なかなか体験する場がない地方の現場との互いのニーズがマッチした例といえるだろう。

spodsがどう動くべきか、要望や可能性を探ること

今回の静岡遠征の具体的な狙いは上記の2つだが、もう一つあげるとしたら、走り出したばかりのspodsの「これから」を探ることも大事な目標だったと思う。
 
実際に、しずおか日赤まつりが開催される前日の7月19日(金)、spodsメンバーは医療や緩和ケアの現場の声をおよそ1時間半にわたって聞く機会を設けた。

協力してくださったのは、静岡県富士市にあるトータルファミリーケア北西医院のみなさま。院長の北西史直さんをはじめ、医療やケアの現場に携わる医療者や、がん患者に関する研究をしている大学教員の方に貴重なお話を聞くことができた。

そのときの対話の様子をレポートする。

静岡県富士市のトータルファミリーケア北西医院の北西史直院長(右)ら、医療現場で活動される方々にお話を聞いた。

ーーワークショップで、フェルトのフラワーブローチをハンドメイドしようと考えています。どのようにしたら患者さんは喜んでくれるでしょうか?

「ワークショップを通じて、無心になって、気持ちが静まれば、いいメディテーション効果を発揮すると思います。人の役に立っているという実感が生まれ、自分の気持ちの切り替えができるいいスイッチになるのではないでしょうか」

「手芸が苦手な人もいるし、ただ作ることを目的した場所のようなイメージを持たれてしまうとマイナスかと思います。そのブローチが誰かのためになるということをアピールしたりして、仕掛けづくりを工夫するべきかと思います」


約1時間半にわたって、忌憚のないご意見をいただいた。

ーー医療用VRを体験していただきましたが、いかがでしょうか?

「医療的ケア児(※生活する中で医療的ケアを必要とする子どものこと)に特に効果を発揮しそうだなと思いました。海外に行ったことがない、もしくは行けない人でも、このVRを通じて疑似体験ができる。ワクワクできますね」

ーー今後、spodsの活動としてこんなことをしてほしい、など要望はありますか? 現場で困っていらっしゃることも含めて教えてください。

「患者さんを対象にしたものもいいですが、医療従事者もリフレッシュできるような仕組みが欲しいですね。年に1度巡回するのではなくて、もう少し頻度をあげて来てもらえるとうれしいです」

「患者さんのポートレートを撮るプロジェクトはどうでしょう。ちゃんとメイクさんやヘアスタイリストさんがついて、プロのカメラマンが写真を撮ってくれるんです。なかなか遠出ができない患者さんにとってはうれしいと思うんですよね」

「遺言を一緒に残してくれるサービスがほしいです。残された子どもや配偶者に向けて、どう“終活”をするのか。遺言作成のプロと一緒に、楽しく、気軽に遺言を残せたらいいなぁといつも思っていました。動画を撮影するのもいいかも」


みなさんにも医療用VRを体験していただいた。

医療の現場と向き合うみなさんから、率直な感想と新しいアイデアをいただいた。

なお、この訪問について、北西院長には、「お話の中では、がん患者さんは何を求めているだろうかという話題になりましたが、『これは医ケア児、重症心身障害児のみなさんにも良いサービスが提供できそう』など話が広がりました。お互いの夢が共有できる可能性も感じました」と嬉しい感想をFacebookに書いていただいた。

「しずおか日赤まつり」×spodsで、実際に生まれた場所

では、実際はどうだったのか。写真とともに振り返りたい。

こちらが「しずおか日赤まつり」に出展したspodsのバス。spodsのネオンサインがやたらと目立つが、「何だろう?」「面白そう!」という興味を持ってくださる方も多かった。

改造されたspodsのバスのスタジオ中は、ハーブが置かれ、アロマが焚かれ、ちょっとした非日常感があった。

そして、“知らない人”同士が隣に座って、語って、ワークショップをしたり、ハンドマッサージを受けたり。参加者で、常時5~6人はいたと思う。1日限りではあったが、「CAREBUS」が目指していた、サードプレイスの役割は果たせていたように思う。

ワークショップに参加してくださったみなさん。子どもの姿も多かったが、がん患者や経験者の方もいらっしゃったのが印象的だった。

spodsの取り組みに深く共感してくださった、ある女性の言葉だ。

「がん患者のサロンって、ちょっとハードルが高いのよね。実際行ってみるとそうでもないんだけど、行くまでのハードルがあるの。こういうspodsみたいに、気軽に語れる場所があるといいなと思う。患者自身もそうなんだけど、患者の家族の方が孤立しやすいから、そういう家族が語り合う場としても機能してほしい
 
また別の女性はこうも話してくれた。

「乳がん患者で胸を切除した人は、キズが気になるのね。あまり気にしていない人もいると思うんだけど、温泉に行きづらいのよ。だから、1時間ぐらいがん患者専用として温泉を貸し切って、入浴できたらいいなと思っていたの。spodsに乗ってみんなで行けば、小旅行気分も味わえるし、いいアイディアだと思わない?

また、クラフトワークショップに参加した小学生の女の子は、「作ったものを寄付するのがすごいと思った」と、手作りしたお花のブローチを寄付してくれた。

医療用VRは、spodsのバスの近くにある静岡日赤病院の一室を借りて出展した。

筆者もコンテンツの一つであるシューティングゲームをやってみたのだが、これがかなり面白い。自分が本当にバーチャルの世界に入っているかのよう。知らないうちにストレスが溜まっているのだろうか、夢中になって雪だるまを倒した(他にもいろんなコンテンツがある)。

無料で計4台を使えるブースにしたが、ひっきりなしに人が来場した。

一般参加者だけでなく医療従事者など、老若男女がブースを訪れた。参加者を対象に行ったアンケートでも「爽快感があって楽しかった」「子どもよりも夢中になった」「VR体験はとても楽しかった。集中できた」などと、好評だった。

想像以上の人気ぶりに、木下さんも「うれしい悲鳴です。もう台数を少し持ってくればよかったかもしれませんね」などと話していた。

今回のプロジェクトについて、木下さんは次のように語った。

ーー医療VR体験のイベントを実施してどうでしたか。

「日頃は、患者さんとコミュニケーションすることが多く、40~60代がメインなのですが、今回のイベントでは10代の方も多く、新鮮な感想をいただくことができました。1回だけではなく、2回も体験された方もいらっしゃいました」

ーーspodsは今後、CAREBUSを各地で展開していきたいのですが、どう思いますか。

「特定の症例の患者様のお茶会などで披露することが多いのですが、spodsと一緒に、新しい情報循環やサービスの提供を考えていくことは、我々にとってもシナジーがあると思います」

ーー東京だけではなく、地方をまわることもメリットだと思いますか。

「すごくいいと思います。患者様が情報交換のために集まる場所は、なかなか地方にはありません。バスが巡ってくることで、集まるきっかけになると思います」


また、出展に協力してくださった静岡日赤病院の看護師・石川千奈美さんは次のように感想を語った。

ーーspodsのバスはいかがでしたか。

「実際にバスを見させてもらって、すごくリラックスできるような空間になっていたなぁと思います。イベントに応じて、好きなように(空間を)変えることができるのが魅力的だと思いました」
 
ーー今後、spodsに期待することなどあれば教えてください。

「医療の現場で働く人の“癒し”に着目しても面白いのかなと思っています。人の命に関わる仕事なので、どうしても心に余裕がない場面が多いんですね。短時間でもリラックスできるような仕掛けがあれば、とてもうれしいですね」

「とくに静岡の人は新しいもの好きな人が多いので、都会で発信されている新しいものが運ばれてくると、みなさん喜ばれる気がします」

………

spodsが、地域の医療ケアの現場で何ができるのか。

正確な答えを見つける旅はまだ始まったばかりだが、今回の静岡遠征で方向性や目指すものは見えてきたのだと思う。

最初は、がん患者や経験者のために、という思いから始まった「CAREBUS」プロジェクト。実際のイベントでは、子どもたちやおじいちゃんおばあちゃんなど、世代を問わず様々な人が顔を出してくれた。また、医療関係者が、最新のテクノロジーを体験するために足を運んでくれたのも、予想外のうれしい発見だった。

患者や医療者といった垣根を超えて、これからの「移動する医療ケア」を考えるヒントが詰まっていた。

小さいけれど、大きな大きな一歩だろう。
これからもきっとずっと、spodsは走り続ける。

text: Naho Sotome
photo: Umihiko Eto
edit: Neko Sasagawa

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