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12月見聞録 【読書編】

 12月はライブ2本だけと言っていたけど嘘だった。本と漫画、読んでた。ということで、12月に読んだ本や漫画のまとめを。11月も何冊か読んでいたのに、記録付けを忘れてしまっていた。今度また蔵出ししよう。

 物語を読むのは、文字が読めない小さい頃から好きだ。寝る前に何度も絵本を読めとせがまれた、と、私の両親は未だにその話をするくらい、昔からずっと。本は良い。自分の好きなタイミングで読むのをやめることができるし、いつからだって再開可能だから。


すみなれたからだで/窪美澄

 窪さんの小説が好きだ。押し付けがましくもなく、説教くさくもなく、「生きること」をフラットに描いている。みなさんご存知の通り、人生はたのしいことばかりではない。8編からなる短編集の登場人物たちも同じだ。分かり合えず傷つけあったり、過ちを犯してしまったり、胸が張り裂けそうな別れを経験したり。それでも、生きていかなければならない。決して明るいお話ばかりではないけれど、「生きるってこういうことだった」と思い出させてくれる。ちなみにいちばん好きだったのは義父と娘の蜜月を描いた『バイタルサイン』。窪さんが官能を描くと、美しさにため息が止まらない。


崩壊/塩田武士

 グリコ森永事件を下敷きに執筆した『罪の声』も、主人公に大泉洋を当てて出版界を描いた『騙し絵の牙』も、どちらもページをめくる手が止まらず夜更かしして読んだが、この『崩壊』も例にもれなかった。市議会議員の死から始まる、本格的な刑事モノのミステリ。聞き込みから事件の全体像が徐々に浮かび上がっていく様が鮮やかだ。真実に辿りついた時は背筋が凍りついたが、これぞミステリの醍醐味!と、すぐに至福の身震いに変わった。主人公のおっちゃん刑事・本宮と、相棒の女子刑事・優子が、だんだん打ち解けて本物のバディとなっていく感じがまた良い。


凪のお暇(1)〜(4) ※連載中!

 28歳の大島凪は、空気を読みすぎるあまり、誰にとっても「都合のいい人」に。我慢に我慢を重ねた結果、ついには過呼吸で倒れてしまう。そのままの勢いで会社も辞め、彼氏の前からも姿を消す。「私、お暇いただきます……!」。ひとりになった凪は、周りの人に癒されながら自分を取り戻してい……こうとするが、なんやかんやと元彼の慎二やお隣さんのゴンに翻弄されてしまう。どうなる、凪!?


 恋愛面ではハラハラしてしまうけれど、凪を通して自分もお暇を体感することができて、なんだか肩の力が抜け、ほっとする。登場人物たちが不器用揃いなのも良い(ほとんどが「人生1周目なの!?」というくらいの不器用ばかり)。ちなみに漫画の中では節約家・凪ちゃんのプチプラお料理レシピが小ネタとして挟まれている。実際につくりたくなるくらいおいしそう!


憤死/綿矢りさ

 綿矢りさ版、『世にも奇妙な物語』。気味の悪さにゾッとする3編+導入1。「トイレの懺悔室」、「人生ゲーム」というタイトルの2編は少年たちの物語で、どこか現実とは距離のある話だった。しかし、表題作の「憤死」は、主人公の女性が読者を現実の渦へ突き落とす。「小中学校時代の女友達が自殺未遂をして入院していると噂に聞いたので、興味本位で見舞いに行くことにした。」という一文からはじまるのである。もうすでに底意地の悪い表現だ。友人への辛辣な視線が書き連ねられ、綿矢りさの切れ味のある筆致に、冷たいナイフで首筋を撫でられた気分になる。欲をいえば、ほかの章も含め、締めにもう少し冷ややかさがほしかった気もする。


あなたの空洞/伊藤たかみ

 こちらも短編集。全4編。友人、恋人、家族、夫婦。人々の関係性には、いろいろな名前がついている。ただ、同じ名前がついていても、その中身はそれぞれ全く異なる。この物語は特に、いわゆる「普通」の関係はあまり出てこない。そんな人たちが、何を考え、どのように向き合い生きているのかを覗くことができる。個人的に心に残ったのは、「母を砕く日」。主人公の母の遺骨を、父が自らの手で砕こうとするところから物語がはじまる。「正しい愛の形」とは?と問いかけられるようなお話だった。

 この短編では、全編を通じて東日本大震災に触れている。どの登場人物も、「未曾有の大地震を『被災地以外で経験した』」という立ち位置が共通だ。読み終わり、いろいろな人の感想を読んだところ、「あんなに薄っぺらく表現するくらいなら、描かないほうが良かった」と書かれていたものが多かった。でも私は、そうは思わなかった。どのような経験をして、どのように震災と向き合ってきたのか。それは人によって違うが、あの時日本にいた人の中で、また日本人の中で、「まったく関係のなかった人はひとりもいない」と思っている。この短編集では、「東京」で経験した震災がどのようなものだったのかということを、作者が作者なりに受け止めて丁寧に言葉にしている。私はそう感じた。



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