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友情のメロンソーダ

1週間くらい前に、ひとりでとある喫茶店に行きました。そこはブレンドコーヒーが売りであることをアピールしている店で、元々コーヒーがなんとなく苦手な私は少し肩身の狭い思いをしていました。

待ち合わせの時間つぶしのためにとりあえず入っただけで、そのお店のこともよく知りませんでした。とりあえずコーヒーの次におすすめされているホットケーキを頼んでみます。やや厚めに焼かれていて、ふんわりとしておいしそうな出来でした。

これは当たりだと思って、ひそかに私はにやりとします。テーブルマナーに気をつけつつ、ささっとおなかに入れてしまいました。



メロンソーダをふたつ

やむを得ない理由で待ち合わせに遅刻してしまった友人がどれくらいに着くのかとスマホで検索していたところ、少し離れた席に50代くらいでしょうか――それくらいの年齢の女性二人組が座りました。

50代くらいとあやふやな書き方をしたのは、そのご婦人方がどちらもセンスが良く感じられたからです。とてもおしゃれで若々しく見えました。印象のいい素敵なおふたりでした。

そしてメニューを見ないままに、案内してくれた店員さんに向かって「メロンソーダをふたつ」と注文します。もうひとりのご婦人はにこにこと柔らかく笑っていました。きっとこのお店に通っている常連さんなんだろうということがぱっと思い浮かびました。

次に思ったのは「メロンソーダをふたつ」という注文内容、そして全体の雰囲気などから、けっこう長い付き合いなのではないかということでした。

またあれだけのドリンクがあるのにもかかわらず注文を同じにすることから、好みが似ているというよりもお揃いであることに意味があるようにも思えました。そして、一方が勝手に頼んだ様子でもありません。

これは元店員としての一種の勘のようなものでした。


私の学生時代の楽しみ

そういえば私も学生時代に友人とお揃いで何か買うことが好きだったと思い出します。旅行先で同じキーホルダーを買ったり、安めのアクセサリーショップで買ったお揃いのリングをつけてみたりしていました。

そして学校の帰り道でマクドナルドに寄ったりすると、3~4人の友人たちと同じソフトクリームを頼んで食べました。そしてみんなで「おいしいね」と笑いあったりしていました。

値段が比較的お財布に優しかったということもありますが、みんなで同じものを食べること自体も楽しかったのだと思います。他にも同じ価格帯の食べ物があっても、ソフトクリームにするだけの理由があったのです。

ナゲットやポテトを分け合って食べるのではなく、みんなでひとつずつソフトクリームを食べるというのが私たち流の楽しみ方だったのかもしれないと思います。


暖かい日差しと微笑み

ご婦人方によるメロンソーダという注文は学生時代の私たちとはまた違って、ものすごく可愛らしいチョイスだと感じました。少しだけ聞こえてきたおふたりの会話はやはり品のある雰囲気を醸しだしていました。

笑い方も口を開けて「あはは」と笑うのではなく、口元に手を添えて「ふふっ」という印象でした。ごく自然なおしとやかさで、私はおふたり共通の育ちの良さのようなものを感じました。

店内の他のお客さんをそれとなく眺めてみても、ほんわかとした暖かい空気感が広がっていました。天気も良かったのでさんさんと日差しが差し込んで、コーヒーの香りが漂う空間を優しく包み込んでいます。

居心地の良いお店だなと思って、ほっとしました。


喫茶店の楽しみ方とは

パソコンで仕事をしている方をよく見かけるスタバはもっときりっとして洗練された印象です。それとは全然違っていると感じました。

私はスタバも好きでよく行くのですが、今回たまたま寄ったこの喫茶店もとてもいいなと思いました。実はこの喫茶店がチェーン店だったことには驚きましたが、ブランドごとにそれぞれカラーがあるのはいいなと思います。

喫茶店だけでもドトール、エクセシオールカフェ、サンマルク、ベローチェなどいろんなチェーン店があります。駅前などは特に競合しているものの、少し静かなところにあるお店はちょっと雰囲気が違うのだと思いました。

コーヒーがなんとなく苦手なために喫茶店は入るのが怖かったのですが、実際に入ってみると思ったよりも気楽に過ごすことができました。よく考えてみたらスタバには前から行っていたわけですし、ここは単なる考えすぎだったようです。

今回私が頼んだホットケーキの他にもサンドイッチやナポリタンなどがありました。お店のメニューを見る限り、おいしそうなものばかりでした。もしこの喫茶店の近くに来ることがあれば、また入ってみたいと思います。


久しぶりに抱いた感情

通路の反対側にあの女性二人組は座っていて、引き続きおしゃべりに花を咲かせていました。店内のお客さんもゆったりとして思い思いの時間を過ごしています。私は会計に向かいながらふとその様子に安心し、心の中で呟きました。

――ゆっくり楽しんでいって下さいね。

実際に私は店員さんだった時代があるので、もしかしたらそのころの気持ちが蘇ったのかもしれません。こういった寄り道もたまには楽しいものです。店内も明るく、穏やかな気持ちになれるお店でした。


私は会計をしながら、なんとなく考えます。大人になっていつからか遠ざかっていた「お揃い」の考え方を、もう一度取り入れてみてもいいのかもしれないと感じたのです。

それは例えばあのご婦人方のように、同じものを食べることでもいいのかなと思いました。思えば別々に食べている食事をシェアすることも、家族以外とはずっとしていません。前は同じピザを取り分けたりしていたこともあったというのに。

一緒に同じ景色を眺め、同じものを食べる――思えば、こんな経験の共有も大切なことです。お互いの近況を話し合うのもいいですが、それだけだと価値観が離れていくときには同じように遠くなってしまうことがあります。

大人の女性にとって、人生のステージが変わっても友達でい続けるということはそれだけ難しいことです。お互いの歩み寄りも必要だと、あの日キラキラしていたメロンソーダが教えてくれた気がしました。


ここまで読んで下さってありがとうございました。




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